一馬、遥、シャロ対ブラド
「次元突!」
遥の必殺技が繰り出される。それを軽々と避けて、ブラドは前のめりになった遥に右手一本で操る血の剣を振り下ろそうとした。
その腕を、一馬は断とうとする。
それは、相手の左腕に阻まれた。刃を掴まれて、刀の動きは止まる。
(折られる……! ヤバいぞ、どうにかしろ!)
そう思うのだが、相手の腕力は尋常ではない。不条理の力を使う一馬の両腕の力を完全に押さえ込んでいる。
遥が刀を振るった。
ブラドはやむなく刀を離し、後退した。
そして、一馬と遥は刀を構え、再びブラドと対峙する。
「二対一。中々に良きハンデだ。久々に血湧き肉躍る……」
ブラドはそう言って微笑む。
赤い目が、輝きを放っていた。
ゴルゴンに見つめられたかのように、背筋が寒くなった。
「気圧されないで」
冷静さを取り戻したらしく、遥は言う。
「仇を討つ。手伝ってもらうわよ」
「ああ、わかっている」
一馬も、冷静さを取り戻した。
遥と共にならば、誰にでも勝てる気がした。
いや、もう一人いる。
シャロが、ブラドの側面に神速で移動していた。
ブラドの目が驚愕に見開かれる。
シャロの蹴りが、ブラドの顔面を捉えて吹き飛ばした。
ブラドの体が結界に叩き付けられる。
人間化したシャロ。
その肉体にはとてつもない身体能力が備わっていた。
シャロが特別なのか、黒猫は皆そうなのかは一馬にはわからない。
ただ、シャロも刹那の特訓を受け、一人前の戦士になっていることはわかっている。
「さあ、首を断って!」
そう言いつつ、シャロは追撃の手を止めない。
シャロの蹴りがブラドの体に突き刺さり、ブラドは血を大量に吐く。
その足が、ブラドの腕に掴まれて、シャロは宙吊りになる。帽子が落ちて、黒い猫耳があらわになる。
シャロの拳が、ブラドの腹部に突き刺さった。
ブラドはたまらず咳き込む。
そこに、一馬と遥は襲いかかっていた。
「落華!」
「次元突!」
ダメージを受けて避けきれなかったのだろう。
二人の攻撃がブラドに迫る。
落華はブラドの首を。
次元突はブラドの腹部を捉えようとしていた。
その瞬間、ブラドの体からコウモリが放たれた。
視界を奪われ、一馬も遥も思わず動きを止める。
次の瞬間、ブラドは二人を蹴り飛ばしていた。
「ふう……ふう……」
ブラドの息は切れていた。
その呼吸が、整っていく。
「やめろ!」
一馬は、叫んでいた。
ブラドの拳が、シャロの腹を貫いていた。
ブラドに投げ飛ばされたシャロは、結界の壁に叩き付けられて、糸の切れた人形のように地面に横たわった。
「結界を維持しているのはこの黒猫のおかげだろう。さて、後何秒結界が保つかな?」
「遥。シャロの治療を頼む」
「けど、あんた一人じゃ……」
「やってみせる!」
そう言って、一馬はブラドの前で刀を構えた。
シャロを失うわけにはいかない。
全員の命運が、一馬の肩に伸し掛かろうとしていた。
第十三話 完
次回『タイマン不敗』




