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不穏

「というわけで正式に龍公に認められました」


「おめでとう」


 元の世界の一馬の部屋で、一馬はシアンの報告を聞いていた。

 シアンが龍公。めでたいことだ。不可侵条約も無事締結された。

 しばらくは平和が続くと考えて良いだろう。


「拍子抜けだったわ。もっとガツガツした人の集まりだと思ってた」


「鬼人公には襲われたことがあったがな」


 一馬は苦笑交じりに言う。


「ああー、あのマッチョバトルマニア」


「変な感じだよな。あのいかにも逞しい鬼人公よりシアンの方が強いなんて」


「まあ、竜だからね」


 そう言って、シアンは足を組み替える。


「やっぱ尻尾がないのは不思議な気分だなあ」


「この世界じゃ人型の生物は全部人間に分類されるみたいだからなあ」


「亜人族の人間も全員こっちに来たほうが幸せなんじゃないかしら」


「こっちは何年に産まれてどの学校に通ったかって証明書がないと働けないからなあ」


「農家でいいじゃない」


「土地代は誰が出すんだよ」


「……一馬?」


「亜人族って俺が賄える範囲で少なくはないよな、他の七公が手を出しそびれてるってことは」


「まあそうよね」


「あんまり買いかぶってくれるな。俺は自分と妻子だけで精一杯だ」


 そう言って、一馬は茶を一口飲んだ。


「テレビでも見るか」


「なんかやってるかなあ」


「ニュース番組でもやってるだろ」


 そう言って一馬はリモコンでテレビの電源をつける。


「長らく行方不明だった少女が発見されました」


「あー……俺の時もこんな感じでニュースやってたのかねえ」


 一馬は苦笑交じりに言う。


「そうなんじゃないかな。めでたいニュースは見ていた面白いよ」


「発見されたのは一条重工社長の次女です」


 一馬の表情が凍りついた。

 一条神楽。彼女は結城と一馬を襲った敵に他ならないからだ。

 写真に写る制服姿の少女には、あちらでの暴れぶりを知っているだけに違和感があった。


「どうしたの? 一馬」


「……こいつ、確か魔族公の手下だ」


 シアンは意表を突かれたように黙り込んだ。

 そして、腕を組んで呟く。


「そいつぁきな臭くなってきたね」


「ああ。きな臭くなってきた」


 そして、一馬は苦笑する。


「まあ、平常運転ってわけだ」


「肝が座ってるねえ」


「最近俺と平和って単語は反発しあってるのかと思うよ。平和の対義語が俺なんだ」


「それは自分を過大評価し過ぎかなあ」


 シアンの冷静なツッコミに、一馬は苦笑した。



第百二十九話 完

次回『凍りつくような目で』

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