七公会議に挑む
「ふむ」
最初に口を開いたのは不死公リゼルドだった。
骨の体に豪奢なマントと王冠を乗せている。側頭部には大きな穴があった。
「七公会議にも一輪の華か」
そう言って、リゼルドは巨大な椅子を指を振るだけで消し、人間サイズの椅子に変えた。
「恐縮です」
シアンは苦笑交じりに言う。頭を軽々と下げるつもりはない。
ここは魔界七公が集う会議場。軽い態度で舐められてはたまらない。
「一馬と……遥だったかな。あの二人は元気にしていたか」
テーブルに右足を乗せて足を組んでいる細身だが筋肉質の男が言う。頭には角があった。
間違いない、鬼人公斬歌だ。
「ほう。鬼人公は勇者殿と面識が?」
リゼルドが問う。
「一度戦った。当時は勝てない相手ではないという認識だったが、ゼラード殿が死んだとなれば認識をあらためねばならぬかもしれない」
「その話は初耳だな」
「一から十まで話せば良いというものではないだろう」
「まあまあ、内輪もめはよそう」
そう間に入るのはいかにも温和そうな声色の狼公マーナガルムだ。
「七公会議もこうして四公揃うようになった。足並みが揃うのは良いことだ」
「そうだな。新しい龍公には足並みを揃えて欲しい」
「お前がそれを言うか、斬歌」
「なにか不満でもあるか?」
なにはともあれ、自分は七公の一員として認められたらしい。
その事実が、シアンを安堵させる。
シアンは、椅子に座った。
「龍公の武力は正直言って我々の要だ。あてにならぬ遊具公に、領地争いをしていて決まらない吸血公、魔族公を考えると龍公の力を継ぐ者は我々の要となる」
リゼルドは淡々と語るが、重い内容だ。
「その実力、試してもかまわんかな?」
鬼神公が、刀の鯉口を切った。
「鬼人公。悪い癖だ」
マーナガルムが窘める。
「この娘の潜在魔力量が我々と同レベルかそれ以上ということは語るまでもないだろう」
「……ふん」
そう言って、鬼神公は刀を鞘に戻した。
シアンは不思議な思いでいた。
ここは七公会議の場所のはずだ。
しかし、席はテーブルに向かい合う形で四つずつ。
つまり、八席がこの場に用意されている。
「質問してもよろしいでしょうか」
シアンは片手を上げる。
「なんだ?」
拗ねた表情で返事をしたのは斬歌だった。
「ここは七公会議の場所と聞いています。しかし、席が八席ある」
「ああ」
マーナガルムは苦笑した。
「いるんだよ、幻の八公が」
「幻の、八公……?」
「奴は七公との交流を絶って自領に引きこもっている。そして、その部下達は魔術に優れた者ばかりだ。迂闊に手も出せん」
「ちょっかいかけて爆発させたら後が怖いしな」
と、斬歌。
「亜人公キシャラ。控えめだが中々できた人だよ。太陽のないこの世界で作物が育つのは彼の魔力の賜物だ」
そう言ったリゼルドは、どこか懐かしげだった。
「一つ、話しておかなければならないことがあります」
シアンは、緊張しながら口を開く。
「言ってみなさい」
リゼルドが言う。
「我々は人間族との不可侵条約を結びました。つまり、防衛ならできるけれど攻め入ることはできないということです」
責められるだろうか。認められなくなるだろうか。そんな不安が胸に湧く。
しばしの沈黙が流れた。
「魔界に篭って数百年。今更太陽が恋しいとは思わんさ。だろう?」
リゼルドが言う。
「月は綺麗だがな」
斬歌はなにかを思い出すように言う。
シアンは新鮮な思いでいた。
七公といえば地上を狙っている集団かと思っていたが、とんでもない。
穏健派の集まりではないか。
ここなら自分は上手くやれる。そんな実感が沸いた。
第百二十八話 完
次回『不穏』
今日から三日間連続投稿になると思います。
現実世界編です。




