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戦後処理

 シアンはゼラードが龍の体だった時に使っていた巨大な玉座を撫でていた。

 これからこの場所に座るのは自分だ。

 その事実が、体を身震いさせる。


 しかし、怯えを見せるわけにはいかない。

 先代龍公がそうであったように、龍公は弱さを見せてはいけないのだ。

 シアンは玉座に座る。


 喝采が玉座の間に響き渡った。


「我々は多くの戦友を失った」


 シアンの言葉で、部屋が静けさを取り戻す。


「それもここまでだ。我々は他の種族と調和の道を行く。そして友の手を取り、二度と理不尽な損失などないように歩んでいくのだ」


 再び喝采が起こった。

 ゼラードの手前言えなかったが、影では厭戦ムードが漂っていたのだろう。


 それに後押しされて、シアンは龍公として正式に認められたのだった。



+++




「対等な講和、か」


「不可侵条約辺りで一つなんとかなりませんかね。龍種が迷い込んできても処理してもらえるようになります」


 一馬は帝都の玉座の間で、皇帝を説得していた。

 ここで手を誤ればまた戦争の繰り返しだ。


 皇帝はしばらく考え込んでいたが、そのうち隣に立っている結城を見た。


「どう思う、結城」


「外に暮らす難民の数を御覧ください、陛下。講和で済むなら済ませた方が楽でしょう」


「それもそうだな」


「じゃあ……」


「不可侵条約の締結に向けて我々は動く。結城、調印の場にはお前も護衛として同席してくれるな?」


「もちろん」


「新旧第二・第三席の猛攻を受けても死ななかった化物の後釜じゃろう? ワシは恐ろしくてたまらんよ」


「しばしの我慢です、陛下。敵もこれ以上の戦闘は望んでおりますまい」


「そうであればいいが……」


 一馬は胸を撫で下ろした。

 これはなんとかなりそうだ。

 こうして、不可侵条約に向けてのお膳立ては進んでいく。



+++




「で、そっちはどうでるわけ?」


「不可侵条約で手を結ぼうとしてるよ」


「もっと輸入関連を強めるとかさー。そういうのないわけ?」


「龍の特産品ってなんだよ」


「糞が火薬になる」


「なにそれ怖い。冗談だよな」


「……」


「冗談だよな?」


「あ、リーチだ」


「はあ?」


 一馬は立ち上がる。

 いつもの換算としたパチンコホールだった。

 虎柄の文字がボタンを押せとシアンを誘導している。


 そして、シアンがボタンを押すと虹色の光が筐体を照らした。


「あー、まただよ。また人の運を吸った」


「牛丼奢ってやるから拗ねるなって」


「五千円の牛丼なんて高すぎて洒落にならんわ」


 そうして二人はパチンコを打っていく。

 奇妙な友人は、こうして帰って来た。


「先代龍公を裏切る前にね。不思議な感覚になったんだ」


「不思議な感覚?」


 シアンの筐体から吐き出される玉を眺めながら一馬は言う。


「親と子。血のつながり。平和を願う思い」


 一馬は黙り込む。

 それは、一馬の戦いの源と一緒だ。


「それを感じると、ああ動くしかないと思った」


「おかげであの世界は平和を得た。めでたしめでたしだ」


 一馬は自分の前の筐体に千円札を入れて玉を出す。


「お前は正しい道を行ったんだよ」


「うん、そうだね」


 二人は、しばし無言になった。

 しかし、不愉快な沈黙ではなかった、



+++



 時間は少し遡る。

 シアン、龍公との連戦で、一馬はへとへとで家に向かっていた。

 叱られるだろうな、と思う。

 それがまた一馬を憂鬱な気持ちにさせる。


 異世界から帰ってくると、庭だった。

 シャロが縁側で、月を見ている。


「今日の月はどうだ?」


「綺麗だよ。隣に座りなよ」


 促されるままに、隣に座る。

 戸惑いが胸に湧き上がる。てっきり、叱られるものだと思っていたからだ。

 その手に、手が重ねられた。


「もう、一緒には行けないね。私は、子供を守らなければならない」


「そうだな……その方が、俺も安心できる」


「けど、死地へ行くならそうだと言って……」


 シャロは表情を歪めて、一馬に抱きついた。


「悪かったよ。悪かった」


 シャロの背中を撫でる。


「もう次はないだろうが、次があるなら真っ先にお前に話す。約束だ」


「うん」


 シャロは目尻の涙を拭って、一馬を離す。


「で、今回はどんな敵だったの?」


「すげえ硬くて強い魔力を持った奴。そいつが魔力を開放しただけで俺達全員吹き飛ばされちまった」


「……勇者は辛いねえ」


 シャロは、呆れたように言ったのだった。

 少し欠けた月が、二人を見下ろしていた。



第百二十七話 完

今週の更新はここまでです。

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