龍公ゼラード
三人は同時にゼラードに斬りかかった。
そして、三人同時に地面へと吹き飛ばされた。
「なんだ、これ」
新十郎が血を吐きながら戸惑い混じりに言う。
「迸るような魔力。それに吹き飛ばされたのよ」
あやめが観念したように刀を鞘から抜いた。
「魔力を開放しただけでこれか?」
新十郎が呆れたように言う。
「事実だからしょうがないでしょ!」
「まあそうだが」
二人が考察しているその刹那。
一馬だけは次の動きに出ていた。
覇者の剣が前へと伸びる。
それはあっという間にゼラードに肉薄した。
そして、覇者の剣をゼラードは摘んだ。
ゼラードが撚るだけで剣は明後日の方向へ伸びていった。
「そうか。お前が勇者か」
「いかにも」
一馬は覇者の剣を元の長さに戻して構える。
「ならば、シアンを拘束しているのもお前なのだろうな」
「そうだ」
「やめろ、一馬! 自殺行為だ!」
シアンが檻の中から叫ぶ。
「他の人間を危険に晒すわけにはいかないだろ?」
「ああ、この、わからずや!」
「ふむ、随分と仲良くなったようだな」
ゼラードは皮肉るように笑う。
「その女はお前の暗殺のためにお前の世界に送り込んだイレギュラーだ。住む世界も違えば種族も違う。それが友達? 馬鹿らしいと思わんかね」
「住む世界が違おうと、種族が違おうと、友達になれる! 俺はそう信じる」
「そうか」
ゼラードは微笑んだ。
「お前は俺が一番嫌う手合いのようだ。殺すのが楽しみだな」
そう言って、ゼラードは一馬に向かって飛んだ。
「断界!」
一馬は叫んで、断界を発動させた。触れる者全てを消滅させる空間の断絶。それをドーム状に張り巡らせたのだ。
しかし、断界は引きちぎられ、ゼラードはさらに前を行く。
(魔術は修行不足か)
一馬は舌打ちして、結界をはる。
結界に、ゼラードの突きがめり込んだ。
動きを止めたゼラードに二人がはじかれたように襲いかかった。
「居合九閃……」
「八撃彗星!」
「斬華!」
九回の居合も、八本の剣も、通じない。
魔力によって威力が減衰しているのもあるだろう。
それ以上に、ゼラードの肌が硬い。
二人は回し蹴りで地面に吹き飛ばされた。
砂埃の中、治癒の光が二人の生存を確認させてくれた。
その刹那のタイミングで、一馬の剣が再び伸びる。
それは、ゼラードの肌をかすめた。
(避けられた! 反射速度も一流……! こういう敵って普通鈍いんじゃないのかよ!)
一馬は舌打ちでもしたいような気分になる。
「さて、結界を破れば後は貧弱な体が残るだけだが。大丈夫かな? 勇者様」
ゼラードは嘲笑うように言う。
一馬は、自分の操る刀身が震えていることに気がついた。
いや、刀身ではない。剣を操る体が震えている。
一馬は、久々に恐怖という感情を思い出していた。
その時、閃光が走った。
ゼラードの羽に、大きな穴が空いていた。
今のは、炎の魔術だろうか?
そして、それを使いそうな人物を一馬はこの場で一人しか思いつかなかった。
「馬鹿な……」
そう言ってゼラードは地面に落ちる。
「やっぱり不意打ちしかないだわさね」
「正直正攻法で勝てる相手には見えないわね」
「お前ら、遅いよ!」
一馬は、叫ぶ。
「悪かっただわさ。けどおかげさまで体力満タン」
「ベストタイミングでしょ?」
「ああ。これ以上ないタイミングだった」
静流と遥が戦線に復帰していた。
第百二十五話 完
次回『シャロの祈り』




