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三竜神 マリン

 一馬達は目的の町の中央に降り立った。

 不動達は町の外だと聞き、大体の位置を聞いて移動する。


 そこに、不動と刹那がいた。


「一馬、よく来ました」


 刹那は微笑んで一馬一行を出迎えた。

 不動は難しい顔で土の塊に両手を向けている。


「それが……?」


 遥が、恐る恐る問う。


「そうだ。封印した三竜神の一体だ。一馬の覇者の剣なら封印の上からでも無理やり断ち切れるはずだ」


「わかりました」


 一馬は、恐る恐る土の封印に近づく。


「まったく勇者は多忙だわさね」


「まったくだ」


 静流と遥が面白がるように言う。

 一馬は無視して、剣を鞘から抜いた。

 そして、振りかざし、振り下ろす。


 その瞬間、悪寒が背中をなぞった。


 封印が壊れる。土の塊から一体の魔物が飛翔する。

 鎧を着て、尻尾と羽がある男が空を飛んでいた。


 そよ風がその髪を撫で、男は体を大の字にして心地よさそうな表情になった。


「やっと窮屈な檻から出られたか。いや、この陽光。なんと心地よい」


 全員が不動の顔を見る。

 不動は焦った表情で顔を横に振った。


「いや、俺の封印は完璧だった。覇者の剣が効かなかったんだ」


「覇者の剣が、効かない……?」


 遥が、戸惑うように言う。


「覇者の剣は光の剣」


 刹那が、僅かに震えながら口を開いた。


「もしも奴が光の属性を持つ者ならば?」


「やばいぞ! 今この状況下でも奴は疲弊から回復する」


 不動が土の矢を飛ばす。それを尽く男は回避していく。


「我が名はマリン。光の剣に頼ったのが運の尽きよ」


「それなら、こちらにも影の技がある」


 一馬の一言で、一同の視線が遥に向く。


「む、無理だわ。アクアに対しても私の飛燕・改は効果が薄かった」


「溜めの時間は作る。渾身の一撃を御見舞してやってくれ」


 そう言って、一馬は静流の剣を奪って覇者の剣を地面に突き立てると、不条理の力で使ったブロックを蹴って空に飛んでいった。



+++



 遥は、鞘に収まった刀の柄を握って力を溜めた。

 不安がまとわりついてくる。

 アクアとの戦いでほとんど自分の技がダメージを与えられなかったことは記憶に新しい。


 それでも、溜めるしかない。

 空中で激しく戦っている一馬のためにも。


「しっかりしなさい」


 そう言って、刹那が遥の肩に手を置く。


「あなたは帝都十剣の第三席なのだから」


 刹那の力が流れ込んでくる。


「あいつはお前に賭けた。なら、俺の分も全部持っていけ」


 不動も、遥に力を流し込む。

 迷いが、消えた。

 遥は、ただ技を研ぎ澄ますことだけに意識を集中させた。



+++



 拳と剣がぶつかりあい、幾重もの火花を散らす。


「ほう、それは魔族公の」


 マリンは面白がるように言う。

 こうしている間にも、マリンの肌の艶が良くなってきている。


「遥に譲ろうかとも思ったが、俺がとどめを刺してもかまわんかな」


 一馬は、集中力のピークにあった。全ての最適の動きが手に取るようにわかる。手を伸ばせばそれだけで相手の命を摘めそうだ。


「ご随意に」


 おどけてそう言って、マリンは旋回した。

 その次の瞬間、一馬は彼の上空にあった。


「なに?」


「斬岩一光!」


 一馬の剣が、肩から胸までマリンの体を斬り裂いた。


「馬鹿な!」


 マリンは叫び、地面に落ちる。

 それを、影が覆った。


「飛燕・改!」


 黒い影に包まれて、マリンは悲鳴を上げる。

 その影は刃の集まりなのだ。


 常人ならば、生きていられるわけがない。

 一馬は空中に作ったブロックに乗って、しばしそれを眺めた。

 刹那も、不動も、遥も、静流も、固唾を飲んでそれを見守っている。


 影から、腕が飛び出した。

 しかし、それは力を失って地面に落ちた。


 影が消えていく。

 そこには、削られて出来上がった肉片だけが残っていた。


「やった!」


 遥が叫ぶ。

 刹那と不動が安堵したように座り込む。


「いや、まだだわさ!」


 異変に気がついたのは静流だった。

 太陽の光を浴びて、肉片が膨張しつつある。


 不動ははっとして、片手を上げた。

 土の結界が、肉片を包み込もうとする。

 しかし、消耗した状態だ。結界の進みは遅い。


「その必要はないだわさ」


 静流が指を鳴らした。

 その瞬間、大爆発が肉片を襲った。


 後には、なにも残らなかった。


「倒したのか……?」


「完膚なきまでに、だわさ」


 不動はそれを聞いた瞬間、地面に倒れ伏した。


「不動くん!」


 刹那が悲鳴のような声を上げ、やはりその場に倒れ伏す。

 遥も、地面に膝をついていた。

 一馬は、遥に握り拳を向ける。

 遥も、応じて握り拳を一馬に掲げた。その表情に、迷いはなかった。


「三竜神二体目。マリン討ち取ったり!」


 遥の声が、空に響き渡った。



+++




「む……」


 ゼラードが呻いた。

 それを聞いていた三竜神の最後の一体は、戸惑うような表情になった。


「どうかなされましたか?」


「今、マリンが逝った」


 最後の一体は顔面蒼白になる。


「あの、最も地上に適していたマリンが?」


「敵もやるもの、と言ったところか」


 ゼラードは自分の手の甲を指で叩く。


「お前は負けんだろうな」


「……三竜神も残りは私一人になってしまった。沢山の同類も散った。この戦、意味はあるのでしょうか?」


 ゼラードの尻尾が最後の一体の頬を打った。

 彼女は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「流石だな。今ので血すら吐いていない」


「無礼な物言いでした。撤回します」


「なにかと理由を作って地上への進出を拒んでいたお前だが、もう猶予はない。行け、地上へ」


「はっ」


 そう言って最後の一体は立ち上がると、飛んでいった。その周囲に、ドラゴン達が集まってくる。


「全員倒さなくてもいいのだよ」


 ゼラードは、呟くように言う。


「魔王の肉片を取り返し、世界の卵を手に入れれば……首都さえ陥落させれば我々の勝ちなのだ」


 そう言って、ゼラードは闇の中笑った。



第百二十話 完





次回『最後の竜神』

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