三竜神 アクア
「いないね」
部分部分が焼けた人形をまじまじと眺めている遥に静流が声をかける。
場所は廃墟。
ところどころから肉の焼ける臭いがする。
「数時間前に辿り着いていたら助けられた」
遥は、項垂れている。
「言ってもしゃーねーべ。きりかえだわさ」
静流が言って、剣を鞘ごと杖のように突く。
「感じるだわさ? 遥」
「……ええ、感じる。強い魔力。朝さんとスピカ師匠じゃ足止めにしかならなかったわけだわ」
「挑むわよ。一馬抜きで。不安はある?」
「ない。この三年、私達は十分に修練を重ねてきた」
「挫けそうな時もあったわね。鍛えすぎたとも言えるだわさ」
遥は人形を地面に置くと、静流と拳をぶつける。
「行くだわさよ、相棒」
「うん、頼りにしている、相棒」
そう言うと、二人は地面を蹴った。
不条理の力で空中にブロックを作り、それをさらに不条理の力で脚力を向上させ蹴っていく。
十分ほど駆けたところで、龍の群れが見えてきた。
「遥!」
「飛燕・改!」
遥の刀が抜刀される。その途端に暗黒が夕暮れの中に産まれた。
ドラゴンの群れは大半がバラバラになって落ちていく。
その中で、人型の存在が一体、頬についた傷を舐めて浮いていた。
「帝都十剣第二席、静流、推参」
「帝都十剣第三席、遥、参上」
人型の存在。いや、龍の羽を持った三竜神は、愉快そうに笑った。
「ついに惜しみなく戦力を投入してきたか。つまり、お前達を倒せば我が主の野望は成就に限りなく近づくということ」
三竜神の一体は、体を二人に向けた。
「三竜神、アクア。私が扱うのは水。窒息しないように気をつけることね」
アクアはそう言うと、水を纏って二人に向かって襲いかかっていった。
遥と静流は、刀と剣を構えた。
三竜神との生死をかけた勝負は、多分この瞬間が初めてだっただろう。
第百十六話 完
次回『遥、静流対アクア』




