進路は西へ
一馬は西への移動を開始した。
遥も静流も以前とは比べ物にならない速度だ。
ついた時には全て終わっている可能性がある。
それが、どちらの勝利かわからぬのが恐ろしいところだが。
新たな結界すら破った三竜神。二人で相手どれるのだろうか。
しかし、体調を万全にするために夜は移動を停止するだろう。
その間に近づこうというのが一馬の案だった。
それはつまり、自身の体調の万全さは放棄しているのに等しい。
今は、一刻でも時間がほしい。
途中、一馬は自分の村によった。
以前より広くなり、立派な門も作られている。遥と静流が十剣になったから領地が増えたのだろう。
家の前には、人間姿のルルがいた。
「丁度よかった、一馬。帽子と赤いフレームの眼鏡買ってきて」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
一馬はげんなりしながら問う。
「義理の弟」
間違ってはないのだが、それがこき使われる理由になるだろうか。
「シャロは元気?」
「双子を出産して子育てに奔走してます」
「で、旦那は異世界でふらふらしてると」
「世界を救う勇者らしいですよ、俺って」
「まあね。魔族公もあなた達には敵わなかった」
「装備を用意してすぐに発ちます。静流と遥はよって行きませんでしたか?」
「昨日の夕方に発ったわ。また私餌忘れられたんだけど嫌われてるのかな」
「使っていいですよ」
そう言って、一馬はルルに金塊の入った袋を渡した。
「いい義弟ができて私は嬉しいばかりだ」
(調子のいいとこはシャロに似てるなあ……)
いや、立ち姿から彼女はシャロに似ていた。
姉妹ということなのだろう。
一馬は毛革の鎧を着込むと、即座に村を発った。
スピードが勝負だ。
寝ている余裕などなかった。
第百十五話 完
次回『三竜神 アクア』




