剣気は衰えず
帝都を見るだけで、今回の事件の深刻度を一馬は察知した。
帝都の外にはキャンプができ、そこでは大勢の人々が食事の配給に並んでいた。
避難してきた人々なのだろう。
そして、一馬は感じた。
その者の把握する範囲に入ったと。
帝都十剣第一席結城。
三年間のブランクもお構いなしの剣気だ。
一馬は城の窓から、結城を訊ねた。
「来たか、一馬」
結城は強気に微笑む。
「相変わらずの剣気ですね。心強いです」
「しかし私は帝都を守らねばならん」
「お子さんは元気ですか?」
「喋るようになった。聡い子になるだろう。お前の方は?」
「双子です。どうなるかはまだ未知数ですね」
「そうか。お互い死ねんな」
そう言って、結城は地図を広げる。
三ヶ所にバツ印がしてあった。
「龍公直属の三竜神という敵がいてな」
そう言って、結城は指を動かしてバツ印をなぞっていく。
「この三体が結界を破った。とんでもない魔力だったと聞き及んでいる」
「……新しくはり直した結界は強固だったと?」
結城がバツが悪そうな顔になる。
「俺でも結界の良し悪しはわかる。今回は龍公クラスの相手以外には壊せないと思い込んでいた」
「なるほど、すいません」
「まず北。第四席の不動が三竜神の一体を岩の結界で捕縛中だ。ここからのドラゴンの流入は少ない」
「やるなあ、不動さん」
「西が問題だ。朝とスピカを配置したが後手後手だ。遥と静流を送ったところだ」
「他の場所の防備がその分薄くなる可能性は?」
「大いにある」
結城は沈鬱な表情で言った。
「だが、スピードで優れば西も封印できる。不可解なのは南だ」
「南?」
「結界を破ったきり三竜神の一体は消えてしまっている。最初は遥と静流を配置して様子を見ていたが、動きがないようだ」
「なるほど……ところで遥と静流って第何席なんですか?」
「静流が第二席で遥が第三席だな」
一馬は仰天した。
「あやめさんは?」
「あいつならグランエスタの王子と結婚して第一王妃の座に座ってるよ」
結城は苦笑交じりに言う。
「チャームですか?」
一馬は恐る恐る問う。
「それが効かない相手を選んだらしい。あいつはその点抜かりがないよ」
「新十郎さんは?」
「第五席だな」
「二席も落ちちゃったかあ」
「不動もなんだかんだで優秀だしな。範囲攻撃を使えるやつは強い」
「なるほど、事態は把握しました」
一馬は、胸を張って言う。
「遥と静流の援護に行きます」
「以前の遥とは思わぬことだ」
結城は穏やかな表情で言う。
「貴族のしきたりから踊りまで全てスピカが叩き込んだ。あれはスピカが作り上げた理想の自分だよ。話してみて違和感があっただろう?」
「……そういえば、言葉遣いかなり変わってたなあ、あいつ」
「そういうことだ。立派な貴族だよ、彼女は」
「けど、彼女は剣に生きる人間の一人だ。俺はそう思ってます」
「そうだな」
結城は苦笑する。
「頼んだぞ、一馬。戦局を変えるのはお前だ」
「はい!」
話は決まった。
進路は、西。
+++
「おお、お前か」
龍公ゼラードは重々しい声で告げた。
「まだ私が地上に上がるには結界が狭すぎる。直ちに広げて欲しい」
「はっ」
三竜神の一人が片手を地面につけて応じる。
竜神、と言ってもその外見は鎧をつけた人に近い。
「それにしても時間がかかったな。勇者は暗殺できたか?」
「いえ、それが……彼には隙がなく、結局……」
「逃した、ということか」
ゼラードの歯ぎしりが響き渡る。
「罰はいかようにも受けます」
ゼラードは深いため息を吐いて、言う。
「かまわん。これからの働きで返せ」
「はい!」
そう言うと、三竜人の最後の一人は、背中の羽で飛んでいった。
第百十四話 完
次回『進路は西へ』




