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超えるべき壁

 静流が目的地に辿り着いたらしく、力を抜いて落下する。

 そして、空中のブロックの上に着地し、地面に降りた。

 一馬も、大々を抱えてその後に続く。


 見渡す限りの草原で、遥が刀を杖のように突き、待っていた。


「呼んでしまったのね」


 十剣独特の赤い制服に身を包んだ遥が、咎めるように言う。

 大々は、親に悪さを咎められた子供のように一馬の背後に回った。


「そりゃないだろ遥。俺だって戦力になれる。まずは現状説明を受ければ」


 その時、遥の姿が消えた。

 一馬は、覇者の剣を抜いて遥の居合を受け止める。


 しかし、それだけでは駄目だと直感が働いた。

 結界をはった直後、黒い影が一馬の体を通過していった。

 頬に一筋、切り傷が刻まれた。影一枚分だけ結界が遅れたらしい。


「前の一馬ならそんな傷を負わなかった」


 遥は、冷たくそう言う。


「あなたは既に戦士ではない」


「言ってくれるじゃねえか」


「じゃあ訊くけど、その頬の傷が喉笛に当たっていたらどうする気? あなたを助けたのは完全な運だわ」


「運も実力の内だ。最後に立ってる奴が勝ちでいいんだよ」


 そう言って、一馬は覇者の剣で遥を指す。


「十剣になったみたいだな。おめでとうと言わせてもらおう。だが、随分と偉くなっちまったみたいだな」


「やめるだわさ。遥も一馬のためを思って……」


「今の私ならわかる。今の一馬は全盛期の七割程度の実力しかない。結城さんと肩を並べていたのに、今じゃ私以下だわ」


「そこまで言うならやりあおうじゃないか」


「一馬!」


 静流が声を荒げる。


「いいでしょう。私に勝てたなら同行を認めます」


 そう言って、遥は刀を鞘に収めた。

 それは降参の合図ではなく攻撃に転じる前のルーチン。

 神速の動作で抜刀される。


「飛燕・改!」


「光刃一点集中!」


 光の柱が立ち、飛燕・改の道を阻んだ。

 そして、刀と剣がぶつかりあう。

 言うだけのことはある。遥の腕力は以前に比べて格段に上がっているし、刀にダメージを負わせない動きも完璧だ。


 決め手が見つからない。

 しかし、遥は、徐々に、徐々に押されていった。


「戦いの中でブランクを埋めている……?」


 静流が、呆れたように言う。


「まったく、これだから一馬なんだわさ」


 刀が折れる音がした。

 遥は負けじと鞘に刀を収める。


 しかし、その刀身のほとんどは既にない。


「追い越したと思っていても、さらに先にいる」


 遥は溜め息を吐く。


「本当厄介だわあなたって」


「聞かせてもらうぞ。今のこの世界の現状を。そして、俺も力になる」


「そういうことなら結城さんを訪ねるといいでしょう」


「お前らに訊くんじゃ駄目なのか?」


「今十剣の配置図を決めているのは結城さんよ。開いている結界の場所といいこの国の現状を一番良く知っているに違いない」


 遥は、苦笑して手を差し出した。


「頼むよ、勇者様」


 一馬は、その手を握った。

 刀を振って硬くなった、剣士の手だった。



百十二話 完

今日の更新はここまでです。

次回は結城との再会と十剣の現状から始まります。

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