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奇妙な友達?

 日常というのは大抵退屈なもので、学校に行っていない一馬は尚更退屈である。

 修練をするにも相手がおらず、仕方なく一人稽古に励むしかない。

 赤子の世話をしようとしても、母親に邪魔者扱いされ寂しいばかりだ。


(あの人、俺よりシャロのことを子供だと思ってないかなあ)


 そんなことを思う今日この頃である。

 なんとなく、地に足がついていない感覚。ふわふわと宙を浮いているような感覚。

 それから脱そうと、覇者の剣を呼び出した。


 念じるだけで覇者の剣はワープしてくる。

 そして、異次元への扉を開いた。


 持ってきたのは金塊だ。ギルドで貯めた金の一部で金塊を買ったのだ。

 それを資金にすると、ちょっと想像がつかないような額が手に入った。


 それから、一馬はパチンコ通いが趣味になっている。

 赤子を放置してパチンコ。我ながら道を外れている。

 ただ、この趣味に時間を費やしているのにも理由がある。

 妙な友達が増えたのだ。


 椅子に座って五千円ばかりを使った頃だろうか。回転数は増えるばかりで一つも当たらない。

 安っぽい滅多に当たらないリーチ演出がきて、脱力していたところに彼女はやってきた。


「今日も侘しい顔してるね」


 からかうように言うと、彼女は隣に座り、金を機械に投入する。

 いきなり一万円。太っ腹だ。


「俺才能ないのかな」


「運だよ運。ジンクスや縁起を担ぐ人も多いね」


「で、俺の隣りに座るのがあんたの縁起ってワケ」


「そっ」


 そう言って、彼女は眩しい笑顔を見せた。

 彼女、ひととせシアンと知り合ってからもう数ヶ月になる。

 初対面の時、彼女は一馬の隣に座って数分で、大当たりを引き当てたのだ。


 それから何回も通っているが、彼女はいつも大当たりを引く。

 金髪のショートカットでピアスが綺麗だ。

 ツナギのような格好をしているが、工業系の仕事なんだろうかと思う。


「お前さ、あれだろ」


「あれって?」


「店に雇われて資金回収してんだろ」


「陰謀論に縋るようになっちゃあお終いだねえ。はい金枠リーチ」


「うっそだろ?」


「見なさいよ、ホレホレ」


 レバーを引け! という文字が点滅する中、画面は金色の枠に囲まれている。

 もはや当たりましたとでも言っているような画面だ。

 事実、その直後に彼女の台は玉を勢い良く吐き出し始めた。


「あー、くっそー。俺の運を返せ」


「結婚した時に運使い果たしたんじゃないの」


「それな」


 元々、一馬のような粗暴な人間に嫁ができたのができすぎていた。

 五千円分のストックが尽きた。

 一馬はどんどん増えていく彼女の玉を見ている。


「神様って不公平なもんだよな」


「んだよ。だから電車に飛び込む輩が後を絶たないんだ。さて、本番だ」


 シアンはそう言って、煙草の火をつける。

 当たりを何回継続させられるか。投入した資金まで回収できるか、はたまたその上を行くか。それが問題だ。

 一回当たれば継続が終わると帰る一馬のような人間もいるが、シアンはその点粘っこい。


 一馬はシアンの背後に増えていく玉の詰まった箱を別次元の出来事を見るような目で見ていた。

 そして、シアンが煙草を三本吸い終えた。


「そろそろ帰るの?」


 彼女の勘の良さに驚いた。

 そろそろ見物にも飽きて帰ろうと思っていたところだ。


「そうだが?」


「牛丼食おうよ。おごるからさ」


「そうだな。吸ってる運の分返してもらっても悪いことはあるまい」


 シアンが店員を呼び、席確保のカードを出してもらう。そして、二人は店の隣りにある牛丼店に入った。


「パチンコってまた率下げられるんじゃないっけ」


「俺がこの有様なのに下がるのかよ」


「出玉の制限とかだったかな。ニュースでやってた」


「これからは小金持ちがカジノに通う毎日がやってくるのかね」


「あんた十分小金持ちでしょ」


 ぎくりとしたが、毎日五千円以上店に金を落としていればそう見られるのも仕方ないだろう。


「お互い様だぁ」


 彼女の出玉が二十万円に化けたところを一馬は目にしている。


「どうやって儲けたの?」


「金塊を掘り当てた」


「マジ?」


 シアンは苦笑交じりに聞いてくる。

 一馬は届いた牛丼をひとくち食べ、咀嚼しながら頷く。


「マジマジ。おかげでうちも小金持ちだ」


「私は専業だけどねー」


「専業って?」


「へへ、パチンコ専業」


「うそでー。そんなん漫画の中にしかいるもんか」


「生活できてるから仕方がない。できなくなったら……二十三ならまだ定職につけるだろうし」


 そう言って、シアンも牛丼を一口食べる。


「二人っきりだね」


「ああ」


 店には他に誰もいない。田舎の悲しいところだ。


「デートみたいだね」


「お前とは二度とここに来ないと決めた」


「冗談じゃない。子供までいるのにうぶな人だなあ。あはは」


 微妙な表情にならざるをえなかったが、シアンの笑顔を見ているとそれでもいいかと思えた。


「さて、第二ラウンドと行こう」


「俺、帰るぞ」


「見物してきなって。額によっては晩飯おごれるよ」


「んー……わかったよ」


 その後、シアンは出した玉の半分を台に吸い取られた。

 それでも、残った半分で十分な収入を手にしたのだった。


「焼肉でも行くかあ」


 そう言ってシアンは歩いて行く。


(変な奴には変な友達ができるもんだなあ)


 一馬は苦笑して後についていく。



第百九話 完

次回『平和な日常』


今週は少ないですが四話投稿となります。

龍公編の序章となります。

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