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出産

 シャロのボディーガードをしながら、出産の日はどんどん近づいてきた。

 彼女も最近は家の手伝いを休まされ、座って腹を撫でている。


「名前は決まっているのか?」


 一馬は問う。


「私のセンスじゃこの世界じゃ変わった名前になっちゃうんじゃないかなあ」


「うーん、そうだなあ」


「親の仕事だよ、一馬」


 そう言って、シャロは悪戯っぽく笑った。


「シャ馬」


「却下」


「二人の名前を混ぜた画期的な名前だったんだが……」


「それなら一路とかのほうがよくない? 漢数字の一に、道の路」


「それだ! 一人は決まったな」


 シャロは深々と溜め息を吐いた。


「産まれるまできっちり考えといてね、パパ」


「うい」


 思わぬ宿題を背負い込まされてしまった。

 どうしたものだろう、と思い玄関前で木剣を振る。


 ふと、空を眺める。大きな入道雲が流れていた。

 雲。

 自由自在に動き、柔軟に形を変える。

 いい名前な気がした。


 その時、シャロが悲鳴のような声で一馬を呼んだ。

 一馬は、慌てて駆けつける。


「どうした、シャロ」


「その、産まれるみたい……」


「ちょっと待ってな。産婆さんがいるらしいからな」


 一馬はそう言うと、母を探して走った。



+++



 出産は長丁場だった。七時間かかってやっと一人が出てきた。

 産声が上がる。


「清潔なお湯につけて」


 そう言いながら、産婆はへその尾を切る。


「さあ、もう一人だ。頑張って」


「馬鹿野郎! そんなわけあるか!」


 シャロは叫ぶ。

 痛みが尋常ではないらしく、ずっと暴言を吐いている。

 一馬は新たな一面に戸惑うしかない。


「双子を授かったのはあんただよ! 母親になるんだ! 頑張れ!」


「くそう! ふざけんな! ふざけんな!」


 二人目が出てきたのは、その三時間後だった。

 産婆が腕輪をつけ、二人の区別がつくようにする。


「元気な子供だよ。きっと背丈も大きくなる」


 産婆はそう言いながら、後から産まれた子供をお湯につける。。

 そして、洗って服を着せると、シャロの横に寝かせた。


 シャロの瞳から、涙が流れ始める。


「赤ちゃん……私の赤ちゃん」


 シャロが体を起こそうとする。そしてよろけたところを一馬は抱き留めた。

 手に手が重ねられる。


「ありがとう、一馬」


「ううん、ありがとう、シャロ」


 一馬は、シャロの肩を抱いた。

 こうして、一馬とシャロは親になった。

 きっと、平坦な道ではないだろう。

 それでも、選んだのだ。二人で。



第百七話 完


次回『七公会議、再び』


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