復讐
シャロの腹が目立ち始めるようになるまでしばらく経った。
驚くことに、双子だそうだ。
一度に二児の父になるのか、と思うと、ちょっと緊張する。
自分が祖父になると知って上機嫌な父は、しつこくこんな話をするようになった。
「なあ、一馬。息子をこちらの世界で育てる気はないか」
「剣技を教えられるような歳になるまではこっちで育てるつもりだよ」
「いやな、そういうことでなく、こちらの平和な世界で育てて我が家の跡継ぎになってもらうんだよ」
「それこそ、双葉に婿でもとればいいだろ」
孫がいざできるとなると、人は変わるものである。
初孫に父は産まれる前から惚れ込んでいる。
「そうだ。今日は寿司をとろう。栄養をとってもらわんとな」
そう言って、父は立ち上がって電話に向かって駆けていった。
「……忙しいことで」
一馬はぼやくように言う。
自分が産まれる時もこんな感じだったのかな。そんなことを、一馬は思う。
思い出されるのは血と鉄の臭いに包まれたあの世界。
そして、かけがえのない仲間達。
まだ、自分はやるべきことを果たしてはいない。
魔界七公も全滅したわけではなく、四公が残っている。
いつ地上が、仲間が、危機に陥るかわからない。
「戻りたいのか? 俺……」
こんな平和な世界に居場所がありながら。
その時、一馬のスマートフォンが音を立てた。
送られてきた画像を開くと、シャロが手錠で拘束されている画像だった。
シャロとの距離は、直感的にわかる。異世界にあった契約者の特技の影響か。
一馬は覇者の剣を背中に装備すると、駆け出した。
+++
「よう、一馬」
現場に辿り着くと、十人ぐらいの不良がたむろしていた。
制服から見て高校生だろう。
「お前一人幸せになろうなんて、卑怯だよなあ」
そう言って、一人がバットを振りかぶり、シャロの腹に向かって振るった。
それを、シャロは足で蹴る。
バットが空中で回転し、地面に落ちた。
シャロは手錠を引きちぎると、軽々と跳躍し、一馬の背後に回る。
「子供のためにもインパクトのあるとこ見せてよ」
「お前なあ……」
一馬は、鉄パイプを両手で持った。
十人が同時に襲い掛かってくる。
「連撃」
呟いて、鉄パイプを構える。
「十連華!」
十人が同時に額を打たれて失神する。
「この世界に居場所はないか……」
一馬は、ぼやくように言う。
「いや、それも自業自得か」
警察に連絡をすると、一馬はシャロの手を取って家に帰る。
「君のパパはとっても強いんだぞー」
そう、シャロは自分の腹に話しかける。
シャロは過程はどうあれ最終的にはあちらの世界で子供を育てる気なのだろう。
それに少し、安心した。
第百六話 完
次回『出産』




