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台風の目

「か、ず、ま!」


 玄関で元気な声が響きまわる。

 朝方までシャロと抱き合っていた一馬は、うとうとしながら目を覚ました。

 服を着て、玄関に出ていく。


「一馬!」


 そう言って、幼馴染は、靴を脱ぎ捨て抱きついてきた。


「あー、これからはそういうあれは、その、困る」


 一馬はそう言って、幼馴染を引き剥がす。


「そういうあれと言うと?」


「抱きつくのとかだ」


 幼馴染は、戸惑うような表情になった。


「一馬、友達?」


 今ので起きたらしく、部屋からシャロが出て来る。


「ああ。こっちの世界での腐れ縁だ」


「そっか」


 シャロは頭を深々と下げて、挨拶をする。


「一馬の妻のシャロです。旦那がいつも世話になっているようで、ありがとうございます」


 幼馴染は、目をしぱたかせる。


「旦那?」


「結婚したんだ」


「へー、そ、そっか」


 幼馴染は動揺しているようだった。

 それもそうだろう。久々に現れていきなり結婚しましたと言われたら戸惑うはずだ。


「じゃあ、学校で待ってるね!」


「行ってももう留年だろ」


「勉強するのは無駄じゃないよ」


 シャロが横に並んで腕に腕を絡めてくる。


「昔の恋人?」


「馬鹿言え」


 そう言って、一馬は庭に行き、縁側に座った。


「足腰が立たん。お前はサキュバスじゃないのか?」


「一馬が遅漏なのが悪いんだよ」


 シャロが困ったように言う。


「冗談だよ、冗談」


「私も冗談だよ」


 二人、並んで座る。


「いつかここに、もう一人子供が増える」


 一馬は、庭で戯れる子供を夢想する。


「楽しみだな」


「そうだね」


 シャロは微笑んで、一馬の肩に頭を乗せた。



第百四話 完

次回『懐妊』

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