子作り考察
「あのね、私、独自に調べたことがあるの」
そう、シャロは黒いワンピース姿で言い出した。
「猫の傾向を強く持つ子供は、親が妊娠中に猫状態である子供が多かった。逆に、傾向が少ない子は親が猫状態にならない場合が多かった」
「……まあ俺としては、どんな子供が産まれても嬉しいけど。子供が苦労するかもしれないと思うと二の足を踏むな」
「そこで、一馬の世界よ」
一馬は、一瞬呼吸を忘れた。
そうだ、あの世界ではシャロは普通の人間になっていた。
「あっちで子供を産めば、普通の子供として育つんじゃないかなって、そう思うんだ」
「……その可能性は大いにあるな。けどシャロ、お前、あっちの世界の生活に溶け込めるのか?」
「大丈夫だよ」
「テレビの後ろを何度もチラチラ眺めてたお前がか?」
「あんな薄い板に映像が流れる魔法があるとは思わないじゃない」
「魔法じゃない、科学だ。あっちじゃそれが日常茶飯事だぞ。そこに十月十日だ。耐えられるか?」
「子供のためなら、我慢できる。私、一馬の子供が欲しい」
(あ、こりゃ駄目だ)
そう、一馬は思った。相手は腹を決めてしまっている。
「子供なあ……」
「一馬は欲しくないの?」
「うーん」
確かにそんな夢を見たことはある。新しい一軒家に奥さんと子供。
自分はスーツを着て仕事へ向かうのだ。
「……そうだな、作ろうか。俺達の子供」
「うん!」
シャロの表情が輝いた。
「なら、善は急げだ」
そう言って、一馬は立ち上がって覇者の剣を背負うと、シャロの手を取った。
「行こう、俺の世界へ」
どうなるかはわからない。
シャロと一馬の子供。どんな影響を受け、どんな形で産まれ、どんな姿で育つのか。
ただ、どんな子供が産まれても愛そうと、自分で生きる力を与えようと、その時一馬ははっきりと決意した。
今日は祝日。勇者の日だ。
第百一話 完
次回『一馬の世界へ』




