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魔王、極悪国家の領主令息に転生す。~闇魔法で人族を支配するつもりが、名君扱いされる~  作者: タジリユウ@6作品書籍化


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第7話 グリフォン


「ゼ、ゼノン様……本当に騎士の力を使わずに護衛の者だけで行くおつもりですか?」


「護衛の者も不要だ」


 残りの2人にも闇魔法をいろいろと試してみたが、やはり大規模な闇魔法は使えないようだ。


 とはいえミラに確認したところ、魔族との争いがなくなったせいか魔法の技術はそれほど上がっておらず、ユルグやこいつらから聞いた盗賊の実力からしても我とミラだけで十分であったのだが――


「ゼノン様、どうかお供させてください!」


「必ずお役に立ってみせます!」


 むしろ護衛の方からついて来たいと言われた。なにか裏があるのではとも思うが、契約をしている以上我を害する行動はできないはずである。


 昨日ダレアスに軟禁されていた者を解放し、午前中にユルグと話し合って生活の保障をするという契約の通り、まともな給与と労働環境に変更しただけなのになんとも現金なものだ。


 まあ、ゼノンの記憶によるとこれまで大切な者を人質にとられつつ虐げられていたようだから、まともに接されただけで必要以上に感謝されるのかもしれぬな。


「貴様らは盗賊の所有物を回収するために後からついて来い、命令だ。我より弱い貴様らがいても邪魔なだけである」


「……承知しました。確かに今の我々ではゼノン様の足を引っ張ってしまいます」


「まさか我々の身まで案じていただけるとは! 必ずやご期待に沿えるよう精進してみせます!」


「………………」


 勝手に勘違いしているようだが、盗賊相手にいろいろと試したいことがあるだけである。言葉通り、契約によってこいつらを守る必要がある以上いるだけ邪魔だ。我の力が以前のものであるならばそんなことは気にせず済むのだが、念のためである。




「ほう、随分と搾取されているようだが、この街並みは悪くないものだな」


「はい。やはり五十年も経つと生活様式は変わるものですね」


 街の外へ出るため、ミラと共に街中を歩いている。


 建物は石と木材を組み合わせ、屋根は鉛色の瓦で統一されている。まったく同じ形に加工された石畳が地面には敷き詰められており、大きな通りの両脇には様々な商品が並んでいる店が所狭しと並んでいた。


 この通りには人族、獣人族、ドワーフなどの様々な種族が行き交っている。我が魔王であったころはそれぞれが種族ごとに街を作っていたようだが、魔族という敵がいなくなったことで他の種族がより協調するようになったのかもしれぬ。


 ……我としても同胞たちとこのような平和な光景を築き上げたかったものだ。


「しかし、街の外見とは裏腹に活気がなく、なんとも暗い雰囲気であるな」


「この街の領主の重税のせいでしょうね。他の街もだいたいこういった様子で、まともな街の方が少ないくらいです」


 ふむ、確かに痩せた子供や物乞いなどが多い。景気が悪い状況だとこういった様子になるものだが、重税に苦しんでいる時も同じような状況になるようだ。


「……さっきから道行く者が我を避けているようだな」


 ゼノンの記憶によると、ダレアスやゼノンは領民に対してだいぶ横暴であったらしいから、それを恐れて避けていることもあるが、それだけではないようだ。


「この子が珍しいのでしょう。人族の世界での移動は基本的に馬になりますからね。カルヴァリス家はよくこんな魔物を所有していたものです」


「そうなのか。ユルグに聞いたら、緊急時に逃げるため飼育していたそうだ。本当に保身の術だけは達者であるな。さて、そろそろ街の観察は十分だ」


「承知しました。はっ!」


「キィィー!」


 ミラが手綱を引くと、これまで畳んでいた大きな漆黒の翼を広げながら走り出す。するとこの魔物は我とミラを乗せたまま()()()()()()()


 グリフォン――漆黒の身体と翼に白い鳥の頭を持つ大きな魔物。飛行魔法を使えない魔族の者はよく乗りこなしていた魔物だが、人族の中では珍しい魔物のようだ。


「飛行魔法が使えないのは面倒だが、この者がいてくれて助かったな」


「はい。人族の身体では祝福で得た以外の魔法の習得はかなり困難なようです。その代わりに祝福の魔法は魔族の身体であった頃よりも遥かに容易に取得できました。これまで使用したことのない聖魔法を極めるのも容易でしたね」


「なるほどな。我も時間のある時に他の魔法を習得できるか試してみるか。それまで頼んだぞ」


「キィ!」


 グリフォンの黒い身体を撫でてやるとグリフォンが声を上げる。


 我の言葉は理解できずとも、我の意図は理解できているようだ。この者はダリアスごときには勿体ない。あとで名を付けてやるとしよう。


「……ミラ、少し離れられないのか?」


 今の我はミラに抱えられるようにグリフォンへと乗っている。そして先ほどからミラの大きな胸が我の後頭部に当たっている。


「いえ、飛行魔法が使えない今、決して落ちぬように身体を密着させておいたほうがよいかと」


「ふむ、それならば仕方がない」


「はい、これは仕方がないことです。はあ……はあ……」


 ミラはグリフォンに乗った経験もあるようだし、ここはミラに任せるとしよう。早く我もひとりで乗りこなせるようにならなければな。




「さて、盗賊どもから吐かせた拠点はあそこか」


 グリフォンのおかげで、盗賊の拠点までの道のりをたった半日足らずで移動することができた。


 人気のない山にあった広い洞窟を拠点として使用しているらしい。入り口には見張りが数人いる。


「よくやってくれたな。あとで褒美をとらせよう」


「キィ!」


 一度地面に降りてグリフォンを近くの木に止める。ある程度賢い魔物ではあるが、念のためだ。


 さて、早速ゴミどもを片付けるとしよう。


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