第40話 勇者の子孫
「……勇者というのは先の魔族との戦争で魔王を討ったという勇者か?」
「はい、その勇者でございます」
その魔王というのは他でもない我なのであるが、事情を知らぬユルグもこの場にいるため言葉を濁す。
我が討たれてから数十年が経っており、勇者はすでにいないがその子孫はいるらしい。
「勇者というと、魔王を討ったあとに人族へ仇をなしたというあの勇者ですか? ……なるほど、ゼノン様は魔族に関わりがあると仰っていましたね」
「ユルグ、その勇者のことについて知っていることを教えろ。心配せずとも、勇者の子孫とやらに危害を与えるつもりはない。勇者やその仲間、ましてやその子孫に恨みなどはないからな」
実際のところ、我を殺した勇者一行について我にとって思うところはない。我が前世であの者に討たれたとはいえ、それは戦争でのことだ。
むしろあの者は敵でありながらも我ら魔族の被害をできる限り抑えようとしていた。何度か手を合わせたが本当に熱く、そして甘い男であった。
「……はい、ゼノン様を信じます。それに勇者の家族は処刑を免れたとはいえ、犯罪者の家族として扱われておりましたからね。勇者やそのパーティは魔王を討った最大の功労者として最高の名誉を与えられましたが、そのあと生き残った魔族を排する際に何度も反対して魔族の逃亡を許し、魔族に与する行動をとり始めました。そして魔族の討伐に動いていた軍に反旗を翻して貴族を殺してしまったことがきっかけとなり、処刑されたと聞いております」
「………………」
そうか、あの者は我ら魔族の者を守ろうと動いたのだな。人族の軍の者を殺したというのも、あまりに非道な扱いを受けていた同胞たちを救うための行動だったのかもしれない。
本当にあの者は甘いな。……我が復活した際にはあの者の意思を継ぐ者に託すのではなかったのか。
「最近では魔族の脅威がなくなったこともあり、勇者は犯罪者として扱われております。貴族の学園などでも犯罪者として扱うように教えられていると聞いておりますね」
「私がアデレア国にいた時も勇者の孫はまるで犯罪者の扱いでした。……私も勇者にはいろいろと思うことはあったのですが、さすがにあれを見て何かしようとは思いませんでしたね」
どうやら勇者の子孫はあまりよい扱いを受けていないようだ。当時は人族の多くが勇者様と崇めていたものだが、ユルグも様付すらしていない。そう呼ばないように教育されているのかもな。
もしかするとミラも我を討った勇者の孫とやらに思うところはあったのかもしれない。そう考えると、その者があまり良い扱いを受けていなかったのはある意味よかったのかもしれぬ。
「……ふむ、一度勇者の孫とやらに会ってみたい。使者を呼ぶのではなく我の方からアデレア国へ向かうとするか」
「はい、ゼノン様の思うがままに」
「私も今度は絶対にお供します!」
我がそう言うとミラとセレネも我に賛同してくれる。よい部下を持ったものだな。
「承知しました。アデレア国へミラ様を連れてご挨拶に行くと国を通して書状をお送りいたします。ですがひとつだけお気を付けください。アデレア国は聖女を多く輩出した国ということもありまして、このラドム国や他国よりも闇魔法を忌避しているようです」
「闇魔法を?」
「はい。かの魔王が得意としていた闇魔法の祝福を受けた者はあまりよく思われていないのも事実でございます。もちろん私やこの街の者はすでにゼノン様に恐れなど抱いておりませんが、アデレア国ではそういった者が多いかもしれません。おそらくミラ様のことが知られたのはこの街の領主継承式か大怪我を治療した際の噂がかの国へ届いたのでしょう。そうなるとゼノン様が闇魔法の祝福を受けていることも知られていると思われますので、お気を付けください」
「なるほど、気を付けるとしよう」
元ダスクレア領でガンドロス子爵を闇魔法で処刑した際も見物に来ていた者がざわついていた。
人族からしたら闇魔法は恐れの象徴なのかもしれぬな。




