第38話 ダスクレア領の後始末
「……まったく、前世よりも忙しいとはどういう了見なのだ?」
「本当でございますね……。数が多いというのもございますが、自身の保身しか考えていない者が多すぎます。私も人族の身である今の方が忙しいとは思いもよりませんでした……」
我がランベルを処してから8日が過ぎた。
その間は新たにカルヴァドス領となった元ダスクレア領を整備することに時間を費やした。カルヴァドス領と同様、ろくな人材がいなかったこともあり、ひたすらまともな人材を探すのに苦労したものだ。
幸いカルヴァドス領で制定していた税率や法律がそのまま使えたことによって新たに考えることは少なく、すぐにカルヴァドス領から予定していた人材がやってきたおかげでこの領地での人材を探すことだけに集中できた。
「とりあえず、こちらの領地でも領主継承式を終えたから一区切りはついたか。ようやく元の屋敷に戻れそうであるな」
昨日、こちらの街でも領主継承式を終え、正式にダスクレア領がカルヴァドス領となった。我がいない間の仮の統治者を定め、腐りきっていた騎士団もルーカスや副騎士団長の助言をもらいつつ入れ替えたため、多少はまともな組織となったはずだ。
もちろん領主継承式では我に反逆しようとしてこの街へ逃亡してきていたガンドロス子爵家やそれと共謀している者たちを見せしめのために処刑した。これで貴族の者たちであろうとも我に逆らうとどうなるかよくわかっただろう。
こちらの領地でも税率を下げて犯罪や賄賂などは厳しく罰すると発表したため、また貴族や大きな商会から反発はあるかもしれないが、その者たちの半数以上はセレネたちの公開処刑に集まってきたため、すでに処分済みである。少なくともしばらくは落ち着くであろう。
「そうでございますね。……ですが私は魔王様と一緒でしたら、ずっとこのままこちらにいても構いませんよ、くふふ」
「ミラはタフであるな。とはいえ、もうこちらは大丈夫であろう。セレネを迎えに行きつつ、屋敷へ戻るとしよう」
「左様でございますか……」
相変わらずミラはこの屋敷でずっと我の手助けをしてくれていたが、だいぶ元気である。我が領主となってから賄賂を持って我に挨拶へ来る愚かな者が多く、さすがに精神的に疲れてしまったぞ。
ランべルを処してからユルグとセレネには一度連絡を入れたが、そろそろ向こうも心配しているころだ。我が同胞の情報を集めるためにも情報網や領地を広げていきたいが、一度屋敷へ戻るとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「魔王様! ご無事でなによりです!」
「……っ!?」
元ダスクレア領がある程度落ち着いたところで、エリオンに乗ってゾルティックの街を出発し、同胞たちが暮らしているルシアルガの森へとやって来た。
里の者も元気そうで、セレネが我に抱き着いてきたので頭を撫でてやる。
「うむ、当然である。予定通りダスクレア領は制圧した。そなたたちの仲間の仇であるザイラスの一族であるダスクレア家もこれで潰えたぞ」
「ありがとうございます、魔王様! きっと里のみんなも喜んでいると思います!」
「ええ。皆の仇を討っていただき、感謝しております」
セレネやバルラトもそう言ってくれる。我が間に合わずに失ってしまった同胞たちの無念を少しだけでも晴らせただろう。
ダスクレア領も正式に我の所有物となったことだし、今度彼らの隠れ里があった場所へも寄るとしよう。彼らの亡骸だけでも弔ってやらなければな。
「また屋敷に戻るが大丈夫であるか?」
「はい! 魔王様のお役に立たせてください!」
「うむ、頼んだぞ」
しばらくこの里で暮らしていたが、やはりセレネはこのまま我に仕えるつもりのようだ。その覚悟、ありがたく受け取るとしよう。
今日はこのまま里に泊めてもらい、明日はミラとセレネと共に屋敷へと戻るとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「よくやってくれたな、エリオン。ゆっくりと休むといい」
「キィィ」
翌日、エリオンに乗って屋敷へと帰ってきた。先日騎士団を乗せて先にこちらへ向かっていたガルオンも無事に帰ってきていたようだな。
「ゼノン様、お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます! ユルグ様からのご連絡を受けてすぐに戻ってきてくださったのですね!」
「ユルグだと? なるほど、ちょうど入れ違いで戻ってきたようだな。こちらから連絡してきたということはなにか緊急の用件が出てきたか」
エリオンをとめている場所へ降りると、屋敷の者が我の方へやってきてそんなことを言う。
ユルグには我の留守を任せ、緊急時のみ我に連絡をするよう伝えておいた。そちらから連絡が来たということは何らかの緊急事態が起きたようだ。我がゾルティックの街を出てからちょうど入れ違いとなってしまったらしい。




