第32話 里の生活
「はい! 魔王様はとっても優しくしてくれました! それに魔王様の街は見たことない物でいっぱいで、すごくおいしいご飯もいっぱいありました!」
「おお、それは何よりだ! 魔王様、セレネに多くのものを見せていただき、ありがとうございます」
目をキラキラさせながら屋敷での生活についてを語るセレネに対してバルラトが優しく頭を撫でる。
「気にする必要はない。セレネはすでによくやってくれている」
「左様ございますか」
例の件を調査している間は少し時間が空くので、その間はセレネを街へ連れていってやったり、戦闘の訓練としていつもの盗賊の討伐などを行ってきた。
やらなくてもよいと言ったのだが、屋敷の掃除なども他の給仕の者に教わっている最中だ。初めはところどころで暗い顔をしていたセレネだが、この2~3日で表情もだいぶ明るくなってきた。
……ただ唯一問題がある点といえば力が強すぎることだ。こればかりは種族も関係しているのでセレネを責めるつもりは毛頭ないが、食事の際に食器などを多く壊してしまった。これについてはセレネ用の丈夫な物を用意した。
見た目は我よりも幼く小さい女の子だが、その腕力は誰よりも強いのである。
「ふむ、こいつはうまいな」
「本当にこれはおいしいですね! 魔王様が持って来ていただいた香辛料のおかげです」
「戦争が終わったあとの間に人族の食文化や技術はだいぶ変わったようだ。持ってきた香辛料もかなりの種類があったぞ」
ちょうど昼時だったこともあり、里の者と一緒に昼食をとる。
焼いた肉に香辛料をかけただけであるのに、なかなかの味だ。我がいない平和だった間にいろいろと進んできたのだろう。
……ただ、屋敷での美味なる食事を毎日とってきた我にとっては少し物足りないような気もする。我の舌もだいぶ贅沢になったものだ。
「ここにいる魔物の方は問題なさそうか?」
「はい、今のところは問題なく狩りをして生活していくことができそうです。魔王様が畑を作るための道具や苗などを用意してくれたので、これからは畑を耕していけます」
「うむ。しばらくはこちらから食料を持ってくるので、気長にやるといい」
魔族も基本的には人族と食べる物は同じで魔物の肉や魚、野菜などを食べる。魚は近くに川があるが、野菜などは森にそこまで自生していないので、この集落で畑を作って収穫をする。この集落の壁はだいぶ広く作ってあるので、畑を作るのには十分だろう。
とはいえ整地はしておらず、草はぼうぼうに生えており、家や壁を作った際に切った木の切り株などはそのままなので、まともな畑を作るのにはしばらく時間がかかるだろう。また闇影兵たちに作業をさせてもよいのだが、以降のことはこの者たちに任せるとしよう。その方が自分たちの集落であることをより自覚できるはずだ。
「他には魔道具なども持ってきたぞ。バルラトにはあとで我の屋敷にまで連絡をするための魔道具を渡しておこう。なにか緊急事態が起こった際にはすぐに我の屋敷へ連絡するといい」
「承知しました。ありがとうございます」
今日持ってきた鳥の形をした金属製の魔道具は特定の場所まで飛んでいくという機能を持つ。これに手紙を持たせて飛ばせば、自動的に我の屋敷まで手紙を持ってくるというわけだ。
この数十年で随分と便利な魔道具ができたものである。これがあれば、グリフォンには劣るとはいえ、かなりの速度で情報伝達が可能だ。
本当に人族たちはこういった便利な道具を開発するのが得意であるな。祝福だけでなく、こういった道具や武器を開発する能力も力の強い我ら魔族が負けた要因のひとつであるのだろう。
「この森には人族の立ち入りを厳重に禁止し、立ち入った者は死罪にすると伝えてある。周辺の村や街にはなにか異常があれば、すぐに領主である我に連絡が入るようにした。少なくとも我のいるうちは安全であろう」
「感謝いたします」
「我はそこまで頻繁に来られぬかもしれぬが、月に数回はセレネが必要な物資を運んでくる。なにかあればその際にいうといい。頼んだぞセレネ」
「はい、頑張ります!」
セレネがよい返事をする。
今回は多くの荷物があったため、エリオンとガルオンと共に来たが、今後はセレネに任せるつもりだ。それに我のいない方が、セレネやここにいる者も気が休まるかもしれぬからな。それもあって、セレネは今グリフォンに乗る練習をしている。あまり強く手綱を引かないよう頑張っているようだ。
他にもこの集落を守るためにいろいろと用意をしてある。早く他の同胞たちを探し出して、ここへ連れてきたいものだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ゼノン様、例の調査の結果が出そろいまして、ジルト伯爵から返事がきました!」
「ほう、ようやく準備が整ったか」
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