第21話 撤収
「……ふむ、やはりこいつらでは力が戻らんな」
黒焦げとなったザイラスの護衛を奈落の暴食で呑み込むが、我の力はほとんど戻らなかった。やはり悪事を重ねている者を呑み込んだ方が力は戻るらしい。後ほど処刑会場に転がっている貴族どもの死体を呑み込んだ方がよさそうだな。
「た、頼む。金ならいくらでも払う! 私だけでも助けてくれ!」
護衛を一蹴し、その死体を闇魔法で呑み込んだことにより、頭を下げて許しを乞うザイラス。だが――
「我がこの状況で貴様だけ生かしている理由は我が同胞の命を弄んだ報いを受けさせるためだ。だが、ひとまずはこの悪趣味な公開処刑に関わっている者どもを処分するとしよう。『暗黒の縛鎖』」
「ぐわっ、なんだ!?」
闇の鎖によりザイラスを捕縛する。こいつに報いを受けさせるのは一旦後回しだ。
「少しの間ここで待っていてくれ。すぐにそなたの同胞と我の仲間を連れてくる」
「は、はい!」
拘束したザイラスと少女を置いて部屋を出る。すでにこの階には誰もいない。
下の階からは悲鳴が響いてくる。我が顕現させた闇影兵が他の者を襲っているのだろう。この闇魔法は我の魔力がある限り、闇の兵士たちを生み出す魔法である。単純な命令しかできないのは欠点だが、魔族を守り、ミラ以外の人族を皆殺しにするという命令を忠実に守っているようだ。
「これで終わりのようだな。ミラ、残りはいないな?」
「はい。これでここにいる人族の者は最後のようです」
ミラの探索魔法によるとこの部屋に隠れていた者でここにいた人族は最後のようだ。出入口で闇影兵と戦っている者もいたが、たいした強さではなかった。
死体もすべて奈落の暴食によって呑み込んだおかげで、また結構な力を取り戻せた。やはり悪趣味な公開処刑を見ようと集まってきた者など悪事を働いていた者ばかりなのだろう。
「さすがに外の者に異変が起こっていることはそろそろバレる頃だ。すぐにここから移動するとしよう」
「はい!」
出入口から出られない異常が他の者に伝わり、今頃は騎士団や冒険者ギルドに伝わっているかもしれない。
ミラの障壁魔法を壊せるほどの強者がいるかもしれないし、早々に移動したほうがよいだろう。すでに我らの目的は果たした。
「セレネ様! よくぞご無事で!」
「みんなも!」
牢屋に捕らえられていた者と磔にされていた者を連れ、先ほどの一番上の階へと戻ってきた。
どうやらこの少女の名前はセレネというらしい。今は同じ隠れ里の同胞たちと再会に涙を流しながら喜び合っている。
「帰りは人数が多くてすまぬが頼むぞ、エリオン、ガルオン」
「「キィ」」
我の言葉に答えるように大きな翼を羽ばたかせるグリフォン。盗賊どもから得た資金でエリオンの他にもう一羽購入したグリフォンはガルオンと名付けた。同胞の情報を集めた際にこういったこともあると思い、新たに購入しておいたが正解だったようだ。
1羽につき7人ずつ乗るのはさすがのグリフォンでも厳しそうだが、すくなくともここからある程度離れるまでは休憩を取りつつ頑張ってもらうしかない。
「う~ぐう~」
先ほどからあまりにやかましかったため、猿ぐつわを噛ませたこのザイラスも連れて行く。こいつにはまだ聞きたいことがあるし、同胞の無念を晴らしてやらなければな。
「キィィ!」
「よく頑張ってくれたな、今日はここまでだ。ミラ、回復魔法をかけてやってくれ」
「承知しました、ゼノン様」
2頭のグリフォンがゆっくり地面へと降りる。今日はここで野営をする。カルヴァドス領まではもう少しかかりそうだ。
ゾルティックの街を離れる際は他の者にできるだけ見られないように上空を飛びつつ、念のため我の闇魔法でグリフォンを隠すように飛んできたため、バレてはいないはずだ。
道中は他の者がグリフォンから落ちないよう、暗黒の縛鎖によって無理やり身体を縛って落ちないようにしてきた。ミラの回復魔法で体力は回復したとはいえ、精神的にはとても憔悴しているはずだからな。
「あの、ゼノン様。この度は本当にありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
改めてセレスが我の正面に立って頭を下げ、それに続いて他の者も頭を下げた。
「礼などいらぬ。むしろそなたたちの仲間を救えず、本当にすまなかった」
同胞たちに向かって我も頭を下げる。
「とんでもないです! 私たちの命を救ってくださって本当に感謝しております! 私たちには何も返せるものなどありませんのに……」
「そんなものはいらぬ。我がそなたたちを助けるのは当然ことだ。ひとつ聞きたいことがあるのだが、セレスは魔王軍四天王のザルファードの子か孫か?」
「ゼノン様はおじい様を知っているのですか!?」




