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魔王、極悪国家の領主令息に転生す。~闇魔法で人族を支配するつもりが、名君扱いされる~  作者: タジリユウ@6作品書籍化


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第17話 突然の情報


「ゼノン様、入ってもよろしいでしょうか?」


 久方ぶりにのんびりとミラの入れた紅茶を飲んでいたところ、部屋の扉がノックされた。


「クレイヴか。入れ」


「はっ! こちらが商業ギルドや冒険者ギルドで集めてきた情報でございます」


「ふむ、引き続き頼むぞ」


「はい! すべては御身のために!」


 クレイヴは我とミラに深い礼をしてから部屋を出ていく。ミラがこいつの妹の怪我を治療してやってから今まで以上に従順となった。他の屋敷の者の中にも身内に怪我人や病人がいたため、ミラに頼んで治療したところ歓喜していたな。まあ、我に従順なことは良いことである。


「ミラの言う通り、こういった情報を集めるのならばこういった組織からの情報が広く詳しい。さすがであるな」


「勿体ないお言葉です。人族は数がとても多いので、情報量や通達速度は魔族以上のようです」


 人族にはギルドと呼ばれる職業別の組織が存在する。そちらに登録をすると仕事を紹介したり、情報を得られる仕組みのようだ。数が多い分、そういった組織作りは魔族よりも優れているらしい。


 こちらの方がユルグの集めてくる情報よりも手広く多くの情報が回ってくる。もっとも、その分信憑性は劣るので、情報の精査は必要であるが。


「むっ! ミラ、こいつを見ろ!」


「っ!? 魔王様、これは!」


「すぐにユルグを呼べ。この情報を詳しく調べるぞ!」


「承知しました」


 クレイヴが集めてきた情報の中にひとつ、我が求めていた魔族に関する情報があった。まだ生き残っている同胞がいたのか。


 だが、あまり良い情報ではないので、誤った噂であることを祈るしかないか……。




「ゼノン様、どうやらこちらの情報は正しいようです」


「そうか……」


 数時間後、クレイヴが持ってきた情報をユルグが詳しく調べたところ、残念ながらその情報は正しいことが確認された。


 このカルヴァドス領の隣にあるダスクレア領で魔族の隠れ集落が見つかったらしいのだが、すでに討伐部隊が隠れ集落へ向かった後のようだ。


 くそっ、我が領地であれば、その命を救えたものを……。


「何人かの魔族は生きたまま捕らえられたようです。3日後に公開処刑することが決まったようです」


「なんだとっ! 詳しく話せ!」


「は、はい……」


 ユルグが調べた情報によると、ダスクレア領のゾルティックという街で3日後に大々的に公開処刑されることが決まったらしい。


 ユルグと屋敷の者がこの情報を調べている間に我とミラですぐに他国にでも移動できるよう準備をしていた。3日後に隣の領地であればグリフォンの翼なら十分に間に合う。


「すぐにゾルティックへ行くぞ。ミラ、ついてこい」


「はい!」


「お、お待ちください、ゼノン様!」


 我とミラが部屋を出ようとしたところ、ユルグが我らの前に立ちはだかる。


「まさかと思いますが、捕らえられていた魔族を解放しに向かうおつもりですか?」


「ああ、そうだ」


「……どうかそれだけはおやめください。ダスクレア領と争いになるだけでなく、魔族を助けようとなどすれば領地を没収され、ゼノン様は処刑されてしまうかもしれません」


 この国では魔族をかくまおうとしただけでも重罪となる。領主である我がそれをすれば、ユルグの言う通りになる可能性もあるだろう。だが――


「我にとっては何よりも大切なことだ。そこをどけユルグ」


「ぐっ……。お願いします、どうかご再考を!」


 ユルグが胸を抑える。


 魂魄の契約(ソウルコントラクト)による我との契約により我を害することができないが、反抗したとみなされて胸に痛みが走ったのだろう。だが、ユルグは膝をつきながらも我とミラの道を塞ぎ続けた。


「ゼノン様、私が」


「待て、ミラ」


 ミラがユルグをどかそうとするのを止める。


 ユルグは胸を押さえながらも我の目を真っすぐと見て話す。


「ゼノン様、やはりあなた様は魔族と何らかの関わりがあるのですね?」


「……ほう、なぜそう思う?」


「ゼノン様の様子が変わったのは闇魔法の祝福による影響かと思っておりました。10歳という不安定な時期でもあるため、祝福を得ることによって性格が豹変することは多々あることです。ですが、ゼノン様の場合はまるで人格ごと入れ替わったようで、これまでは興味も示さなかった魔族のことについていきなり興味を持たれました」


 他の屋敷の者は闇魔法の祝福という理由で誤魔化せたようだが、長年ゼノンと触れ合ってきたユルグは誤魔化せなかったようだ。それに加えてユルグの祝福は『万能従事』である。我に仕えている間に何か思うところもあったのだろう。


「初めは連れてきたミラ様に魔族と関わりがあるのではと疑い調べてみたのですが、ミラ様にはそのような様子がございませんでした。ゼノン様は祝福を得てすぐに信じられないほどのお力をお持ちで、更には夜闇の骸蛇団の首領まで討ち取りました。こちらも魔族である協力者がゼノン様に何らかの干渉をしたと考えれば納得がいきます」


 ふむ、ユルグの予想は外れているが、かなり近いところまできている。さすがに魔王である我と四天王であるミラが転生の秘術を使ったということまでは知りえないだろう。


「……ですが私にとってはゼノン様が魔族と関わりがあっても構いません」


「魔族と関わりをもてば重罪であるというのにそれはよいのか?」


「もちろん可能であれば手を切っていただきたいですが、ゼノン様とミラ様のおかげでこのカルヴァドス領が生まれ変わったのも事実でございます。おふたりのおかげでカルヴァドス家に仕えて初めて希望が持てました。たとえそれが魔族の助力のおかげであろうとも私はそれに歓迎いたします。それに私個人としましても魔族への過剰な排除はよく思っておりませんでしたので」


 ……ほう。人族の中にもユルグのような考えを持つ者はいるのだな。


「しかしゼノン様が魔族を助けてしまえばこれまでに積み上げてきたものすべてが無に帰してしまいます! どうかご再考を!」


 ユルグは真剣な眼差しで我とミラの前に立つ。魔族と関わりがあると我に名言したのは自身が殺される覚悟もあってのことであろう。


「我にとって魔族は何よりも大切なものだ。それを見捨てることなどできぬ」


「……左様でございますか」


 ユルグががっくりと肩を落とす。自身の命をも懸けた説得も無駄であると悟ったのだろう。


「だが安心しろ。この領地はすでに我の所有物となった。それを自ら手放すような愚行を犯すつもりはない」


「本当でございますかっ!?」


 人族の身で得たこの領地をみすみす逃すような真似をするつもりなどない。そして保護した魔族をかくまう場所も必要だ。我の所有物に手を出そうとする輩はすべて排除する。


 公開処刑は3日後か、急がねば。



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