第11話 お金の使い道
「ゼノン様、ご無事で何よりです!」
「当然だ。後ほど盗賊どもの拠点にあった金品が届くから、いったん屋敷の中に入れておけ。それとこのグリフォンには世話になった。うまい料理を食わせてやれ」
「キィ!」
「しょ、承知しました。まさか祝福を賜った次の日にあの盗賊団を倒すとは本当にさすがでございます!」
グリフォンで屋敷へ戻ると、ユルグと屋敷の者が心配そうに駆けてきた。まあ、我が元魔王であることは話していないのだから心配するのも当然か。
「残りの者は別の作業を任せているから戻るのは明日になるだろう。さすがに腹が減った、食事にするぞ」
すでに日が暮れ始めている。屋敷の護衛の者は偵察に出ていた盗賊の始末と女の保護を任せてある。馬をだいぶ急がせて拠点まで来たようだし、明日までかかるだろう。
盗賊どもを狩るのはすぐだったが、移動を含めると1日がかりになってしまったな。それでもグリフォンのおかげでだいぶ時間は短縮できたが。
「は、はい! すでに風呂を準備しております。料理の準備が整うまで先に入られてはいかがでしょうか?」
「ほう、気が利くな。そうするとしよう」
命令を伝えていなかったのだが、有能なやつだ。
「ゼ、ゼノン様、私がお背中をお流しいたします!」
「ミラ様、女性用の風呂も用意ができております。それに専属の者もおりますので」
「ほう、そんな者までいるのか。ミラも存分に疲れを癒すといい」
「は、はい。承知しました。(……ちっ、余計なことを!)」
「ふむ、相変わらずこの料理はうまいな」
「ええ、見事なものです」
「ありがとうございます! 引き続き精進いたします!」
人族の料理もなかなかのものだ。ただ焼いたり煮たりするだけでなく、様々な技法を使っているようだな。
風呂も実にすばらしいものであった。人族の生活というのも存外悪くないものだ。
「さて、ユルグ。これからしばらくは盗賊どもを狩っていく。それで得た金品はすべて領地のために使え。税金を下げた補填にでも使うといい」
「は、はい。ですが本当によろしいのですか?」
「どちらにせよ金があっても使い道がないからな。今のうちに領民へ与えておけ」
「承知しました! さすがゼノン様、すばらしいお考えだと思います!」
どうせ後ほど税収を上げて回収するつもりだ。
今はダレアスの悪政のせいでこの領地からは搾りかすも出ない。まずはまともな領地にするのが先決である。
「明日からは盗賊どもから得た金を何に使うかを考えろ。そして不要な税収などを排除し、適切な税率を定める。数日後に我がこの領地を継いだことを大々的に発表する際に執行するぞ」
「承知しました。すべてゼノン様の仰せのままに」
ユルグが恭しく頭を下げる。ダレアスを殺した我ではあるが、多少はこの者の信頼を得られたであろう。
さて、しばらくは盗賊どもと戯れるか。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それにしても盗賊とやらは掃いて捨てるほどいるのだな」
「この付近の領地の悪政はどこも酷いものですからね。手っ取り早く他者から奪う盗賊が増えるのも道理なのでしょう」
我が転生してから4日ほどが経過した。その間は盗賊を狩りつつ、順調に我の力を戻しつつある。
盗賊はあちこちに拠点を作り、他の盗賊と連携を取っていたため、それを尋問で吐かせつつ順番にそれを潰していった。最初の盗賊団が一番手ごたえはあったようだ。
「エリオンもよくやってくれている」
「キィ!」
グリフィンにはエリオンという名を付けた。この者のおかげで移動はだいぶ楽になっている。
ダレアスには勿体ないほどの者であるな。ふむ、ひとつだけ金の使い道があったか。ユルグに指示を出しておくとしよう。
「ゼノン様、お帰りなさいませ」
今日の分の盗賊の討伐が終わり、エリオンとミラと共に屋敷へと戻ってきた。
「うむ。いつも通り風呂と料理の用意はできているな?」
「はい、もちろんでございます。ですが現在騎士団長がいらっしゃっております。応接室の方で待たせておりますので、先にお話をしていただいてもよろしいでしょうか?」
「ほう、それでは先に話を聞こう」
どうやら騎士団の者が来ているようだ。
盗賊が所有している金品や捕らえられていた女を解放するのは屋敷の者の手だけでは間に合わないので、騎士団の者にも協力してもらっている。騎士団とは街の警備などを担当している者の集団だ。
ダレアスがいたころは騎士団を完全に私物化していたようだが、その辺りも是正していかねばならないところだ。さて、この街の騎士団長とやらはどんな者なのであろうな?




