29.戦役免除と罠(3)
メグはレイがいつの間にか用意してくれた黒に光の加減で金色に浮かび上がる薔薇模様のドレスを着て会場にいた。
舞踏会の会場には王都から砦に向かった時に一緒にいた兵士をチラホラと見かけた。
どうやら彼らの慰労も兼ねているらしい。
「どうぞ。」
レイがワインが入ったグラスを給仕から受け取って手渡してくれた。
「ありがと。」
メグはもらったグラスからワインを少しだけ味わった。
この香り・・・イマイチね。
でも味はまあまあ・・・コクッ。
「いかがですか?」
レイに感想を伝えようとしたところにざわざわとした騒ぎと共に、元聖女のアンジェがセドリックとメグに前に現れた。
「メグ・・・ご・・・ごめんなさい。」
はぁあ?
いま”ごめんなさい。”って聞こえたけど。
「わたし・・・こんなことになるなんて思わなかったの。」
アンジェが扇越しにメグに囁いた。
こんなこと?
はて、何のことを言っているのかしら。
「まあ・・・俺・・・いや、私もこんなことになるなんて、思ってもいなかったんだ。」
メグは二人に急に謝られて盛大に (・・? を飛ばした。
二人して何を言ってるんだ?
「レ・・・レリックがそのだなぁ・・・。」
「はあぁ・・・レリックが何でしょう?」
メグはグラスを手に早くを言えと無言でセドリックを睨んだ。
「あのだぁー第二王女とけっ・・・いや、婚約することになった。すまん。」
「はあぁ・・・婚約ですか。それはおめでたいですね?」
セドリックはメグを憐れむように見てから耳元で囁いた。
「この国は一夫一妻制だが隣国は王族になったものや第一妻が許可すれば夫が愛人を持つことも出来る。メグが望むなら王族である私が交渉しよう。悲観するな。」
メグの中の何かが切れそうになる。
なんで私がレリックの愛人にならにゃならん。
こいつら二人は・・・イライラするなあ。
メグがグラスを持っていない方の拳をぐっと握って我慢していると二人が話題にしているレリックが着飾った女性を連れて現れた。
「メグ・・・すまん。」
だからなんで私に謝る。
お前のことを一言でも好きって私がいつ言った。
レリックが謝るのを隣にいる隣国の第二王女が憐れむような目線でメグを見ていた。
はあぁーいい加減イヤになってくる。
珍しくメグが感情的になって思わず魔法を発動しようとしていると、そのメグの右手をさっととったレイがレリックの前に立ちふさがった。
「隊長。何を勘違いしているのか知りませんがメグ様の相手は私ですので、お間違えないようにお願いします。」
はあぁ?
何言っちゃってるの?
「レイ?何を言っているんだ?」
「えっ・・・メグの相手ってレリックじゃないの?」
アンジェが珍しく目を丸くしてレイを見ている。
レイはメグの手を取ると視線をメグが着ているドレスに向けた。
「あら!」
アンジェがメグが着ているドレスに釘付けになっている。
「「いつの間に!」」
レリックとセドリックの声がそろった。
三人は驚愕の表情でメグのドレスを見てから何も言わずにその場を去って行った。
メグは何がどうなっているのかわからず。
疑問符を周囲に盛大にまき散らした。
いったい何にに驚いていたんだあの三人は?
そこになぜかホソイにエスコートされたトリノが現れた。
「メグ様。さすがですね。」
「トリノ。なんでホソイにエスコートされているの?」
「だって私はまだ既婚者じゃないんで恋人と舞踏会に来るには保護者の付き添いが必要なんです。」
むくれた声で言えばエスコートしているホソイがウザそうにトリノの手を払いのけた。
「私だって君の父上に頼まれなければ付き添い役の保護者なんてやりたくない。」
「ひどぁーいです。私知ってるんですよ。これからお父様と逢引するんだって、二人で話していたじゃないですか。」
「だから我慢して君の恋人が来るまで一緒にいてやっている。」
「二人ともいい加減に・・・。」
「トリノ、ごめん。遅れて。」
そこにトリノの恋人が現れた。
「ご無沙汰しています、メグ様。ドレスがお似合いですね。」
トリノの傍にいたメグに気が付いてすぐになぜか王族相手の最大級に丁寧な挨拶をしてくれた。
「そうよね。黒に光の加減で金色に浮かび上がる薔薇模様のドレスなんて!もう明日から気軽に声を掛けられないわ。」
なんでそうなる。
盛大に疑問の表情を浮かべるメグを不審に思ったトリノが小声でメグに聞いてきた。
「メグ様。もしかしてこの金色に浮かび上がる薔薇模様のドレスの意味知らないんですか?」
「どういう意味があるんだ?」
メグが小声でトリノに聞いた。
「これを贈られて、それを受け取って着れるのって王位継承者の伴侶だけですよ。」
ちょっと待て。
王位継承者?
はあぁー誰が。
メグは思わず隣にいるレイを見た。
すかさずホソイがメグに耳打ちする。
彼の母親って王様の妹ですよ。
それで彼は魔力量も多いんで王位継承第三位です。
王位継承第三位!
メグは隣の人物をもう一度上から下まで見た。
確かによく見れば王様にクリソツ!
でもなんで王位継承者が戦場に行く?
その前にいつ私が結婚した。
メグはレイの腕を引いて中庭に出た。
「ずいぶん積極的ですね。」
「ちょっと聞きたいんだがいつ私が君と結婚したんだ?」
「イヤですね。あなたが婚姻届を私に送って寄こしたんじゃありませんか。」
にっこり笑うとレイはメグに婚姻届けが迫って来た時の状況を詳しく説明してくれた。
レイ曰く、疲れた体で戦後処理をして城にある独身寮に戻ってシャワーを浴びて、すぐにベッドに入ろうとしたところ目の前に婚姻届けが現れてメグの声がしたそうだ。
イチ_私は結婚しても仕事の邪魔はされたくない。
レイは律儀に”それは問題ありませんね”と答えた。
ニイ_仕事で遅くなっても文句を言わない。
レイは律儀に”それにも問題はないですね”と答えた。
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ジュウ_自分を愛してる男が良い。
レイはそれに”自分もメグを愛している”と答えた。
すると婚姻届けはレイにサインをするように促し、レイがそれに自分の名前を書くと婚姻届けは消えて、次の日には王宮の文官からメグの伴侶になったという書類が王のサイン入りで届けられた。
ちょっと待て。
あの婚姻届けは確か養父から渡された・・・!
「メグ様。メグさん・・・メグ!」
何度目かの呼びかけにメグは意識を戻してレイを見た。
「えっーと状況は理解した。でも婚姻については無効・・・。」
「無効には出来ませんよ。もう王印を頂いていますし、両親にも報告済みです。」
「なら・・・いや、とにかく今日はこれで帰る。」
メグは踵を返して会場を後にした。
レイはそんなメグの背中を黙って見送った。




