27.戦役免除と罠(1)
メグは街中を駆け抜け、王宮から結構離れた中級貴族や豪商が多く住んでいる界隈までくると軍馬の速度を落しすと高い塀と深い堀に囲まれた屋敷の前で馬を止めた。
「メグ様。お帰りなさいませ。」
メグが軍馬を降りて、その高い塀に囲まれたクソ養父の敷地に入った瞬間に、素早く館から彼に長年使えている執事が現れ、護衛も音もなく現れると彼女がここまで乗ってきた軍馬を預かってくれた。
「大旦那様は執務室に居られます。」
メグはなんでこいつはいつも自分が来るのがわかるのかと不思議に思いながらも、彼に案内されるまま執務室に向かった。
執務室に続く長い廊下には年代物の壺や花瓶、絵画が並びその一つ一つに説明書きと小さな紙がつけられていた。
この小さな紙をとって帰り際に執事に渡すと後日商会からバイヤーが直接自宅に訪ねてきて、商談の後に値段の折り合いがつけば、ここに飾られているすべてのものは手入れることができる。
以前、クソ養父の住んでいた館が気に入った人間がいて、その館を買いたいと言い出した。
普通なら売らないものだがクソ養父曰く、その時住んでいた屋敷は歴史は古いが住み心地のわりに商売をする上で立地が良くなかったようで、すぐに相手に売ったそうだ。
ただし、先祖が結構大事にしていた歴史ある建物だったようで、今目の前でメグを案内している執事に売値が低すぎると説教され、それ以降は年代物の売買はこの執事を交えて行うようになったと聞いている。
「いかがなさいましたか、メグ様。」
「もしかしてそちらの壺にご興味が?」
おいおい。
身内にも壺を売ろうっていうのか。
「いえ、つい最近聞いたクラウスの武勇伝を思い出していたところです。」
「私の武勇伝ですか。そのようなものは記憶にございませんが?」
そりゃそうでしょね。
ひそかに囁かれているんだから。
ちょうどメグの思考がそこに至ったところでクソ養父の執務室の前にたどり着いた。
すぐに部屋の中の人物から入って来るようにと声がかかった。
メグはクラウスが開けた扉をくぐって、目の前にデデーンと壁に掛けられた絵画の下に座っているクソ養父と対面した。
ちなみにこのクソ養父が座っている背後の壁に掛けられている絵画こそメグがここまで案内してくれた執事のクラウスが売った絵画であり、彼の武勇伝そのものだ。
でも一体どうやってこの絵画をこのクソ養父に売りつけたのか、いつか聞いてみたいとメグは思っていた。
「まあまあ、そこそこの時間で来れたようだな。」
クソ養父は執務机に座りながら書類から視線を上げずにメグに声をかけた。
「・・・。」
メグはそこそこと言われ、なんだかムッとしてしまった。
「なんだ。挨拶もなしか?」
メグはムッとしながらもいつもの挨拶をした。
「儲かっていますか。」
「お前はトリノに渡した手紙を読まなかったのか。」
読んだよ。
でもいつもの挨拶っていえばこれだろうがおい。
メグは心の中で悪態をついてからなんとか冷静な声を出した。
「それで何が儲かっていないんですか。」
クソ養父は書類に何かを書き込みながらも一気にまくし立てた。
「そりゃ決まっているだろうがふつうは戦争になれば武器が売れる。ケガする人間や馬で物資が売れる。それなのにどこかの英雄がバカスカばかすか魔法をぶっ放して、あっというまに停戦されたんであまり儲からなかったんだ。」
「はあぁ・・・そうですか。」
元を正せば、お前がぁー私を売ったからだろうがおい。
原因はそっちだ。
メグがまた心の中で文句を言ったところで扉をたたく音が聞こえた。
「なんだ?」
「旦那様。先ほど頼まれた書類を持ってきました。」
「入れ。」
クソ養父の許可の声に先ほどメグをここまで案内してくれたクラウスが結構分厚い書類が入った封筒をもって執務室に入ってきた。
「こちらが頼まれていたものです。」
クソ養父はメグが執務室に来てから始めて書類から視線を離すと、クラウスが持ってきた分厚い書類を封筒から出してぱらぱらと確認し、それをすぐにメグに差し出した。
「これは?」
メグは受け取った封筒から書類の束を出すとその場で確認した。
これって軍役免除の申請書とその特例事項。
なんでまたこのタイミングで・・・。
いや言ってたな。
儲からないからって・・・でもこのクソ養父がそれを見抜けなかった?
そんなことがあるのか・・・このクソ養父が読み違え・・・。
メグの思考は途中で遮られた。
「おい。もう要は済んだから退出していいぞ。」
おいおい。
呼び出しといてそれ。
まあいいや。
とにかくこれはありがたく貰って帰ろう。
それで屋敷に戻ってからじっくり読み込まなくては。
メグはクラウスに案内されて執務室を出るとその日はそのまま真っすぐに自分の屋敷にその書類を抱えて戻った。
もっとも次の朝には屋敷にやってきたレイに引きずられて、すぐに王都から砦に逆戻りすることになった。
メグが本格的に王都へ戻って来れたのは、王から預かってきた書類をもった文官が砦にやって来て、何やかやとメグたちが調印に尽力し、なんとか休戦に持ち込めてからだった。
そのあとは休戦用の書類を王都に戻る文官が王に説明するのに持ち帰るときにメグたちが一緒の方が良いと言ってくれて、そこでやっと念願のメグの王都への帰還がかなった。




