第55話 隠された真実
分からなくなる――
芹がいつも俺を遠ざける理由は、藤堂さんに誤解されたくないからだと言う。そこに芹の意志は入っていないようで、分からなくなる。
関係ないとか構わないでと言った芹は、どんな気持ちだったのか――
またも追いかけられなかった俺は、自分の不甲斐なさにはらわたが煮えくりかえる。
でもいま芹を追いかけて、俺になにが出来る――?
藤堂さんと付き合ってる状態で、芹になにが言える――……
※
期間限定の付き合い最終日、俺はなんだか居心地が悪くてそっと胸を押さえた。
後悔していないとは言わないが、藤堂さんと付き合うことで俺は自分の中で揺れていた気持ちに気づくことが出来たし、自分がどうしたいのか見つけることが出来た。
『期間限定で付き合ってもらえるなら、その間に私のことを好きになってもらえるように努力する』
そう言った藤堂さんは、週二回のランチと三回出かけた以外、何かを要求することも、一緒にいることもほとんどなかった。メールは毎日してるのに学校で話しかけてくることはほとんどないし、不自然なくらい付き合っている感はなくて、藤堂さんがなにを考えてるのか分からなかった。
藤堂さんが動く前に俺の気持ちが変わらないことを告げたからかもしれない。そうだとしたら、少し藤堂さんに申し訳なくなる。でも、藤堂さんが努力しても、たぶん、俺の気持ちは変わらなかったと思う。
もしかしたら、藤堂さんもそう感じていたのかもしれない――
そう考えて、告白された時点で藤堂さんは俺の気持ちが変わらないことに気づいていたような気がした。なんとなく、そんな気がしたんだ。
学祭二日目の午後は出し物の当番の休みが重なるから、前から藤堂さんに一緒に回ろうと言われていて、昨日の夜、メールがきた。
『明日、学園祭を一緒に回ったら、約束は終わりです。おやすみなさい』
“約束”っていうのは期間限定の付き合いのことだろ――
妙にあっさりしている藤堂さんの態度が気になった。でも、俺の推測があってるなら、藤堂さんはこうなることを知っていた――?
自分を好きになってもらえるように努力すると言った藤堂さん。相手が振り向く可能性がゼロに近い中で、最後までがむしゃらにあがいて頑張って、まっすぐに思いを伝えてきた藤堂さんらしくなかった。
そんな藤堂さんに刺激されて、俺はやっと芹に気持ちを伝える決意をすることが出来たのに、なんだが拍子抜けする。
そんなふうに藤堂さんのことをずっと考えて、手だけ動かして焼きそばを作り、当番の交代時間になって俺は待ち合わせの中庭へと向かった。
※
「ごめん、待った?」
「ううん、大丈夫だよ」
花壇のレンガに腰かけた藤堂さんは柔らかい笑みを浮かべる。俺はゆっくり側に近づき、隣に座る。
教室棟と特別教室棟、体育館を繋ぐ渡り廊下は、生徒や一般客がぱらぱらと行き来しているが、そのすぐ横にある中庭には俺と藤堂さん以外の姿はない。
俺は聞かなければならないことを、何度も心の中で反芻して、ぎゅっと奥歯を噛みしめる。
「藤堂さん、ありがとう。こんな俺のことを好きになってくれて。俺は藤堂さんみたいに気持ちを伝える勇気も持てなくて、今の関係を壊したくなくて動くことも出来なかった。でも、藤堂さんのまっすぐな気持ちを伝えられて、すごく憧れた。それと同時に、情けなさすぎる俺に呆れもしたけど……ほんと、俺なんかのどこがいいのか、分からない……」
膝の上に乗せた腕でぐしゃっと前髪をかきむしって俯く。
そうだ。もし藤堂さんに告白されてなかったら、俺は未だに自分の気持ちをもてあましていたと思う。こんなに強く、芹を好きだなんて気づかなかったと思う。
だからどうしても藤堂さんに確かめたいことがあった。
「藤堂さんはどうして俺なんかがいいの――?」
顔の半分に手を当てたまま藤堂さんを振り仰ぐと、藤堂さんは綺麗な瞳に一瞬切なげな光を浮かべて、複雑な表情で俺を見た。
「やっぱり……覚えて、ないよね?」
「えっ……?」
その顔があまりにも切なくげで、胸が騒ぐ。
「受験の日、気分が悪くなって座ってた私に声かけたくれたのが松岡君だったの。「大丈夫?」って声かけてくれて、鞄持ってくれたのよ。うちの高校受けるのは私しかいなくて、一人ですごく心細かったから、声かけてもらってすごく嬉しかった。優しい人なんだって思ったの」




