第99話 嫁兼、私のメイドさん
「こ、この状況は一体どういうことなの……?」
部活があったから少し遅れて私の部屋にやってきたルカは、目の前の光景に唖然としている。まぁそれも無理はない。私だってちょっと前までこうなるとは思ってもいなかったわけだし。
「お嬢様、『あーん』ですわっ」
「はい、ママ、『あーんっ』」
「お嬢様、お茶のおかわりはいかがですか?」
「う~ん、肩こってますねぇ~。お嬢様も立派なお胸をされますもんね~」
その光景というのは、椅子に腰かけた私が4人のメイド達からご奉仕を受けていると言うものである。4人のメイドとは、クラリッサ、ナデシコ、エメリア、そしてシンシアの4人のことで、ナデシコ以外は全員首輪付きだ。
クラリッサは1番似合うクラシカルメイド服、エメリアとシンシアの2人はいつものミニスカメイド服、ふわふわと浮いているナデシコはエメリアお手製のファンシーなメイド服をそれぞれ纏っている。
同じような服を着ながらも実に堂々とした振る舞いのシンシアに対し、何度も着ているはずなのに未だに見えてしまわないかと、スカートを気にしているエメリアが実に対照的でたまらない。
いやそれ見えないような長さで作ってあるからね?
「お嬢様、美味しいですか?」
「うん、美味しいよ、クラリッサ」
「それは良かったですわっ。あ、お嬢様、お口にクリームが付いてますわ」
クラリッサはそう言うと、ペロリと私の口元のクリームを舐めとってくれた。
週に3日、2人の姉たちから代わる代わるメイド教育を仕込まれているクラリッサも、急速にメイドらしい立ち振る舞いができるようになっていた。
どうやらメイドの日じゃない日も自主学習を怠っていないらしく、その辺が実に生真面目なクラリッサらしいところである。
ちなみにナデシコはメイドになったクラリッサ達を見て「私もママのメイドになりたい!!」とおねだりして来たので、二つ返事で了承したのだ。これにはメイドに厳しいエメリアも流石に何も言わなかった。言えなかったと言うべきかもだけど。だって娘が可愛いし。
「め、メイドさんばっかり……!! い、いやシンシアとエメリア、それにナデシコはわかるけど……クラリッサまで!? 一体どうしたの!? 何かのプレイ!?」
「あ、まだ言ってなかったっけ。クラリッサ、私のメイドになることになったのよ。メイド服を着てるとき限定だけどね」
「ふふふっ、そうなんですの。わたし、アンリエッタお嬢様のメイドになったんですのよっ」
「ええええ!? き、聞いてないよ!?」
クラリッサが私のメイドになってもう1週間ほどたっていて、その間ルカの番は何度かあったけど敢えて伝えてなかったのだ。
なぜなら――
「はいっ、お嬢様、もうひとつ『あーん』ですわっ」
「ん~美味しい!! やっぱり同じケーキでも、クラリッサから『あーん』してもらうと一層美味しいねぇ」
「もうっ、お嬢様ったらお上手ですわっ」
「じゃあ次は~膝枕でもして貰おうかな~」
「ええ、喜んでですわ――」
「――いいなぁぁぁぁぁ!! 私もアンリのメイドやりたいぃぃ!!!」
――ルカがこう言いだすのを狙ってのことだからだ。黙っておいて、サプライズを仕掛けたというわけである。
もっとも、ルカのことだから私がお願いすればメイドになってくれたかもだけど、あくまで自分から言い出して欲しかったのだ。
「え、ルカも私のメイドになりたいの?」
「それはそうでしょ!! 私はアンリの嫁なんだよ!? メイドにだってなりたいに決まってるじゃん!! もぉぉぉ!!」
「ごめんごめん、実はちゃんとルカの分のメイド服も用意してあるんだよ~」
私はそう言うと、机の下からモニカにこっそり作ってもらったルカ用のメイド服を取り出した。そのデザインとは――
「う、うわぁ……こ、これはまた、何と言う……!!」
「は、ハレンチですわっ……!!」
「か~わいぃ~」
「この既存のメイド服の概念に捕らわれないデザイン……流石ですね~」
でしょ? このデザイン画を見せたときのモニカの興奮っぷりときたら、それはもう凄いモノだったんだから。
「こ、これを私が着るの……!?」
「そうよ。ルカに似合うと思ってデザインしたんだから。着てくれるよね?」
「わ、私のために……!? 分かった……着てくる……!!」
ルカは私から服を受け取ると、着替えるため奥の部屋に入っていった。うむ、こういうのは着替えて出てくるからこそ良いのである。
「オリジナルデザインメイド服……いいなぁ~」
「そうは言うけど、そのミニスカメイド服ってエメリアに着せるためにデザインしたんだからね?」
「そ、そうでした……!!」
「わたしにはデザインしてくださいませんの?」
「だって、そのクラシカルデザイン以上にクラリッサを引き立てるデザインなんて存在しないし無理」
これはある意味完成形なのだ。お嬢様の中のお嬢様にこれ以上似合うメイド服なんて作れるわけがない。
「むぅ~」
「ですよ~。クラリッサにはそれが1番似合っています! 姉として保証してあげましょう!!」
「お、お姉さま……」
イチャイチャしている姉妹をキマシタワーと眺めていると、奥の扉がゆっくりと開いてルカが顔だけ出してきた。
「ううう……アンリぃ……」
「着終わった? じゃあ出て来てよ」
「そ、そうは言うけどさぁ~」
「早くルカのメイド姿見たいなぁ~」
私からおねだりされ、恥ずかしがっていたルカはついに覚悟を決めて扉を開け、その姿を現した。
「おおお……これはこれは……」
「ううう~あまりジロジロ見ないでよぉ……恥ずかしい……」
現れたルカは、もちろんメイド服姿だ。
しかしそのメイド服は、ただのメイド服ではない。セパレートタイプで、おへそが見えるタイプの奴なのだ。
スポーツを頑張っているからルカだからこその引き締まったそのお腹が、黒の上下で挟まれていて実に美しい。
あまり下品になりすぎない程度に短いメイド服は、ボーイッシュなルカにとてもよく似合っていた。もちろん私が贈った首輪もつけている。
「うんうん、引き締まった体のルカにはこういうメイド服が似合うよね~」
「そ、そうかな……っ」
「どうせ私はぷにぷにですよ~だ」
私がルカのお腹を触って感触を楽しんでいたら、エメリアが何か拗ねていた。でもエメリアはそのぷにっとしたところがいいのだ。色んなお腹があって実に良い。
「わたしもお腹には自信がありますわよ」
「クラリッサも普段から気を使ってるからね~。ルカに負けず劣らずいいお腹よ」
「や、やんっ……くすぐったいですわっ……」
さわさわとクラリッサのお腹もメイド服の上から撫でてやると、くすぐったそうに身をよじった。
「さてルカ……私のメイドになりたいの?」
「なりたい!!」
即答だった。
「それはつまり、私の『妹』になるという事ですが、よろしいですね? ルカさん」
「私の『妹』にもなってもらいますよ~」
「え、妹? 何それ」
私はルカにもかいつまんでメイドの姉妹システムを説明する。
「な、なるほど~。じゃあ……『お姉さま方のいう事には何でも従います。身も心もすべてお捧げいたしますので、どうかこのわたしを立派なメイドになれるよう躾けてくださいっ』……こ、これでいい?」
「うんうん、いいですよ~。じゃあルカ、お姉さまがしっかり教育してあげますからね~」
「お、お願いしますっ……エメリアお姉さまっ……シンシアお姉さまっ……」
ルカの『お姉さま』を聞いたエメリアは、顔いっぱいに喜びを浮かべながら、新しくできた妹をぎゅっと抱きしめて頬ずりをしている。実にキマシタワーである。
「それでアンリ……お嬢様っ。私も専属メイドになりたいんだけど……」
「専属メイド『補佐』ですよっ! 補佐! 専属メイドは私ただ一人なのです!! あと一枠開いてますから、そこをルカにいれてあげましょう」
そこはしっかりと主張するエメリアである。
「じゃあルカ、お嬢様に専属メイド『補佐』の誓いをしてもらいましょう。こう言うんですよ――」
「ふええぇ!? そ、そんなことするの!? てかそれクラリッサもしたの!?」
「しましたわよ」
エメリアから耳打ちされて仰天したルカは、それをクラリッサもしたということに更に仰天する。
「そ、それなら仕方ないか……じゃあ、アンリお嬢様っ……」
「あ、うん」
私はすっと足を差し出すと、ルカがその前にしゃがみ込んだ。
「これから、お嬢様の専属メイド補佐としてお仕えさせて頂きますルカです……誠心誠意ご奉仕させていただきますので、どうか可愛がって下さいっ……」
そして作法にのっとり、私の足の甲に3度キスをした。こうしてキスをされるのも最近で3度目だ。
「これでいいんだよね?」
「はい、おっけーです。これでルカは私の『妹』兼お嬢様の『専属メイド補佐』になりました。……あくまで『補佐』ですからねっ」
『補佐』を強調するエメリア可愛い。
「そして私の嫁も兼、よ」
「アンリ……お嬢様っ……」
ルカがぎゅっと抱き着いてくると、他の子達も負けじと抱きついてきた。
私は、『嫁兼、私のメイドさん』になった彼女達に囲まれながら、その幸せを噛みしめるのだった――




