第97話 新鮮な眺め
「さて、じゃあいよいよクラリッサのメイド教育を始めることにしますか。何からやったほうがいいのかな?」
私に抱きついていた3人は名残惜しそうに私から離れた。私もずっと抱きしめていたい気分だったけど、それでも今日の目的はクラリッサをメイドとして教育することなのだから。
「そうですね……やはり……」
「あれですよね~」
「あれ?」
「「膝枕です!」」
あ、やっぱりそれなんだ。前にエメリアが「メイドと言えば膝枕です!」って力説していたもんね。でもシンシアも同意見なんだ。
「エメリアはわかるけど、シンシアもそう思うの?」
「それは勿論ですよ~。メイドのご奉仕の中でも一番と言っていいくらい大事なことです。お疲れになったお嬢様をお膝で癒してあげている時、それがメイドとして一番の幸せなんですよ~」
「だよね!! もうメイド冥利に尽きると言うか、お嬢様を独占してる感じもたまらないよね!」
意気投合したシンシアとエメリアの2人はキャッキャとはしゃいでいる。そっかぁ、それじゃあ早速やってもらおうとするかな。
「クラリッサ、ベッドに座って」
「わ、わかりましたわ……お嬢様っ……」
クラリッサは長いスカートをツイと持ち上げてベッドにあがり、真ん中あたりに正座をするようにふわりと座った。
その所作は初メイドだというのに物凄く決まっていた。
「ふわぁ……クラリッサ……きれい……どこでそんな所作を身につけたの?」
「え、それはシンシアお姉さまが普段からしている所作をまねただけですのよ」
「えっへん! どうですか? 私のお嬢様は凄いでしょう!」
シンシアはそのたわわすぎるたわわをユサッと揺らしながら言葉通りエヘンと胸を張る。
何度見ても実に凄いサイズである。エメリアと互角に渡り合えるのはこの学園でもシンシアだけだろう。このたわわの二大巨頭2人共が私のメイドであるという事実に、たまらない優越感を感じる。
ちなみに平ら部門ぶっちぎりの学園ナンバーワンも私のメイドになったわけであるわけなのだが。
「シンシア、今は『お嬢様』じゃないでしょ?」
「あ、そうでした。オホン、私の妹は凄いでしょう?」
確かに凄い。自分のメイドの美しい振る舞いを、見ただけで完璧にマネして見せたのだから。生粋の貴族なだけあって、普段の立ち振る舞いから美しいことの影響も当然あるんだろう。
でもそれと同様に凄いのは、この美しい立ち振る舞いのお手本となった存在である。
「流石は超名門ウィングラード家のご息女に、専属メイドとして仕えているだけのことはありますね……シンシア」
「ふふ~ん。私だって厳しい競争を勝ち抜いて専属メイドになったわけですから。当然ですよ~」
「頑張ったんですね。シンシアも」
「そりゃそうですよ~。だって専属メイドっていうのはお嬢様のお嫁さんに一番近い立場なんですよ? 私の夢は愛するクラリッサの赤ちゃんを産むことなんですから、そのための努力は何でもやりました」
ここまではっきりと愛の言葉を口にされると、流石にこっちも赤面してしまう。その言われた当の本人はもうゆでだこみたいに真っ赤っかである。実にご馳走様だ。
「も、もうっ……お姉さまったらっ……」
「えへへ~。愛してますよ~クラリッサ~」
ああもうっ、妬けちゃうなぁ!
そんな私に気付いたのか、シンシアはぴとっとくっついてくる。うわぁ~おっきぃぃ!
「大丈夫ですよ~。私の1番はクラリッサですけど~。2番目は当然アンリエッタ様ですから~」
「ええ~本当かな~? 1番と2番ってものすご~く開いてない?」
「そんなことありませんよ~? だって私、アンリエッタ様との赤ちゃんも凄く欲しいですし~」
上目遣いで腕を絡めながら、ぎゅうううっっと押し付けてくる。こ、これはたまらん……!
「で、でもっ!! シンシアが最初に産むのはクラリッサの方ですよね!? ですから、最初にお嬢様の赤ちゃんを産むのは私ですからっ!!」
「それはそうですけど~」
シンシアに負けじとむぎゅぅぅぅと押し付けてくるエメリア。こ、これもやっぱり甲乙つけがたい……!!
それにしてもこの子達に私の子供を産んでもらえるなんて、改めて魔法世界、なんて素晴らしいんだろう!!
「……あ、あの~……わ、わたしをほったらかしにしてイチャつかないでほしいんですけど……」
「あ……」
巨乳メイドが私を取り合っている間放置されていた無乳メイドから抗議の声が上がった。
いかんいかん、挟まれる心地よさに我を忘れてたわ。
「ごめんね。それじゃあクラリッサのお膝を味合わせてもらうとしよっかな」
「も、もうっ……いいですわよっ……どうせお胸がある子がいいんでしょっ……私なんてっ……」
クラリッサはプイと拗ねて向こうを向いてしまった。
「いやいや、そんなことないよ~。私、クラリッサのお胸も好きだよ」
拗ねるクラリッサをなだめるため、ベッドに上がって近づき、その肩を後ろから抱いてあげる。
「クラリッサにはクラリッサの良さがあるんだから、胸を張ってよ」
「こ、こんな胸でどう胸を張るんですのっ」
「ぷふっ!」
思わずシンシアが噴き出した。こら、後でお仕置きされるぞ?
「私がいいって言ってるからいいんだよ。だってクラリッサは私の嫁なんだから。私の好みだけ気にしてればそれでいいじゃない」
「私の嫁でもあるんですけど~。ちなみに私もクラリッサのお胸は大好きですよ~」
「2人共っ……」
「さ、ほら、膝枕してよ。私、楽しみにしてたんだから」
すっかり機嫌を直したクラリッサは、すとんと私に向き直るとニコリとほほ笑み、ひざをポンポンと叩いて私を招いてくれた。
「わかりましたわっ……さ、お嬢様、どうぞわたしのお膝を堪能してくださいましっ」
「ではお言葉に甘えて」
初めて味わうクラリッサの膝枕は、普段して貰っているエメリアとはまた違った味わいがあってたまらないものだった。
「ど、どうですの……?」
「いいねぇ~。エメリアとはまた違った弾力と匂いがするよ」
「に、匂いとかいわないでくださいましっ……」
匂いフェチのクラリッサには言われたくないんだけど。隙さえあれば私の髪とかお腹とか足とかの匂いを嗅ぎに来てるし、この子。
「ん~弾力は、エメリアのほうがむちむちしてるかな~。こっちは引き締まった感じがこれはこれでたまらないねぇ~」
「む、むちむち……」
「どんまいですよ~エメリア~。それだけ柔らかいってことですから~」
何かベッドの外でエメリアがずぅぅんと沈んでいる気配を感じた。何を落ち込んでいるのやら。エメリアはそこがいいと言うのに。
「いやぁ~でも新鮮だなぁ~」
「何がですの?」
「ん~ないしょ~」
それは、膝枕をしてくれているクラリッサの顔が見えること、だ。大いなる双丘に遮られてうかがい知ることのできないエメリアに対して、遮るものなど
何もないクラリッサはその顔をはっきり見ることができる。
そのことは実に新鮮だった。こっちに来てから初めて膝枕から顔を見上げることができたわ。
まぁ言わないけど――
「アンリエッタ様~。私がして差し上げた場合は、新鮮さは無いかもですね~。普段見ている眺めと同じだと思いますよ~」
「……あっ」
シンシアぁぁ!! 察しが良すぎるわ!! 確かにシンシアにして貰っても眺める景色は同じだろうけど!!
それにしてもわざと言っただろこの子!!
「……そういうことですの……新鮮な眺めで良かったですわっ……」
「う、うん……新鮮だなぁ~……は、ははは……」
上から見下ろしてくるクラリッサの凄みを感じる笑顔。やっぱりどうあっても、どう言っても気にするものは気にするらしい。
私は張りのあるお膝の感触と、お風呂上りらしい香りと、その新鮮な眺めを堪能し続けたのだった……




