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第89話 魔法植物、闇深案件

「さて、みなさん距離を取ってくださいね。離れれば魅了も弱くなりますから」


 先生から言われて、私達はじりじりと距離を取る。私があれだけ完璧に魅了されたもんだからみんな実に素直に従っている。

 私自身あそこまで魅了に弱いとは思わなかった。これは私の弱点ね。とはいっても女の子が好きってことに全く悔いは無いけど。

 でもやっぱり遠めに見ても可愛い。もちろん2度連続でやらかすつもりもないし、そもそも同じ相手に連続であれだけの魅了はかけられないとは言われたけれど。


「ちぇ~久しぶりのご馳走だとおもったのにぃ~」


 木の精霊はぷりぷりとムクれながら、名残惜しそうに私に流し目を送ってっ来る。

 う、いかんぞ、魅了の魔法がなくてもこれは素で魅力的だ。これが魔法植物として獲物を捕らえるために進化した結果なのだろう。

 それはそれとして彼女達3人から腕とかお腹とかをツネられているから流石に自重するけど。

 しかし普段焼きもちを焼かないクラリッサが「アンリちゃんのバカっ……心配したんですのよっ」なんて言いながらジト目で睨んできているのは……その、たまらないね。

 ルカはルカでぴったりとくっついてきていて、この授業の間中は絶対離れないぞという意思を感じる。

 たまには魅了にかかるのも悪くないかもなぁなんて思っていると、先生がジョウロを手にスタスタを木に近づいて水をやりだした。


「ちゃんと水と肥料はあげているでしょう。魔力たっぷりの」

「まぁそれでお腹は膨れるんだけど~。やっぱり女の子を可愛がりたいのよね~」


 品定めをするようにジロジロと生徒達を見回しながら、ぺろり舌なめずりをしている。魔性の存在だとはわかっていても、その姿にドキリとした生徒たちは多かったようで先生からたしなめられていた。でも気持ちはわかる。



「あなた、女の子好きなの?」

「そりゃ好きよ~大好き。女の子を捕まえて可愛がるのが何よりも楽しいわ。種族特性として女の子が好きなようにできてるってのもあるんだけどね~」

「この子達はこういう存在なんです。困ったことに有用な魔法薬が取れる魔法植物ほどその傾向が強くて手ごわいんですよね。ちなみにこの子は上の下ランク、栽培がギリギリ許されてるレベルです」


 え、じゃあそれ以上のランクの素材が欲しい場合はどうするんだろう。栽培ができないとなると……自生しているのを取ってくるしかないんだろうけど。


「これ以上の素材が欲しい場合は、上位クラスの魔術師に依頼を出して取ってきてもらうしかありませんね。それでもたまに事故が起こって救助隊が結成されることもあるんですが」

「うへぇ……」

「……ちなみに、魔力の込めた水とか肥料とかで栽培してやるよりも、女の子から魔力を吸った方が良質な素材が取れるとかで、裏ではそういう方法で栽培してる闇の魔術師もいるとかいないとか……げふんげふん」


 ちょっと、先生何言ったの? 何かとんでもないこと言わなかった? 魔法植物、闇深案件過ぎるわ。


「そうね~。女の子から吸った方がいいもの作れるわ。で、どう? 吸われてみる気はない?」


 そう言われて吸われてみたいと思う子がいるんだろうか? いや、ちょっと興味はあるけどさ。でも両脇をがっちり固められている状態でそれを口に出す勇気はない。お仕置きされてしまう。エメリアの目はマジなのだ。


「ほんとに女の子が大好きなんですね……」

「うん! 好きよ~大好き。ユリティウスは可愛い子ばっかりだし、ほんといいところだわ」

「でも! 女の子好きならアンリも負けてないよ!! だってもう彼女が6人に娘までいるんだから!」


 いやいやルカさんや、そんなことで張り合うんじゃない。いきなり張り合われたこの子も呆れた顔をしてるじゃないか。

 それにこの子の女好きと私の女好きはびみょ~に違う気もするし。いや、同じなのかな?


「6人……!! へぇぇ……それはまた凄いわねぇ。で、そのあなたに引っ付いている子達があなたの繁殖相手なの?」

「い、いや繁殖相手って……」

「だって、人間は私達みたいに自分だけで子供を作れないから、繁殖相手が必要なんでしょ? それくらい知ってるわ」

「そりゃ確かにこの子達には私の子供を産んでもらう予定だけどさ」


 繁殖。そういう言葉で言わると、その、照れる。いきなり直球を放り込まれた私の彼女達も顔を真っ赤にして「も、もうっ……こんな人前で……」なんていいながらモジモジしている。可愛すぎか。


「……アンリエッタさん? 恋愛は大いに結構ですけど、学生の間百合子作りはなるべく控えましょうね……? いえ、勿論禁止しているわけではないんですけど」


 分かってますって。ちゃんとその辺は考えてますから。学生の間は学業に専念いたします。


「いいなぁ~私も女の子捕まえたいなぁ~。こんなとこにいる限りなかなかそんな機会もないもんなぁ~」

「そうはいいますけど、あなた世話係の子を言葉巧みに騙して年に何人か虜にしてるじゃありませんか……大変なんですよ? 引きはがすの」


 年に何人……? 事故多くない? そりゃ確かに魅力的な女の子だけどさ。

 それでもその危険以上に取れる素材が魅力的だから栽培しているんだろうけど……

 まさかわざと捕まえさせて育てている……って事はないよね? 無いと思いたい。


「あら~それは彼女達が私の恋人として一緒にいたいっていうから、飼ってあげてるだけなのに~。それにあなた達も私から実を取っていくじゃない」

「それは育てている対価です。まぁ不注意で食われる女の子が悪いんですけどね」


 そういうものなのか、魔術師の世界もなかなか厳しいようだ。


「それより、今日はこの種を植えに来たんです。……あなたの娘に当たるんですよ」

「あ、それ私の種! 私のそばに植えてくれるんだ~。いいとこあるじゃない」

「数十年に一度しか種を作らないあなた達ですからね、引き離すのも可哀そうでしょう」


 この木から取れた種なのか……それで娘、ということなのだろうか。まぁ意思があればその子は娘と言っていいのかもしれない。


「では皆さん、木から少しだけ実を集めてください。終わったら種を植えますから。……いいですか? 魅了は無しですよ?」

「はいは~い。まぁ我慢しておくよ~」


 ペタンとその場に座り込んだその子の脇を抜けて、木になっている赤い実を取っていく。これが魔法薬の原料になるのか……


「それはね~とっても雰囲気を盛り上げるお薬の原料になるのよ~。彼女に飲ませてみると楽しいことになるかもね~」

「こら! 変なこと教えるんじゃありません! ダメですからね? 魔法植物から取れる原料は厳重に管理されているんですから、ちょろまかしちゃいけませんよ?」


 ちぇ~。それならこっそり貰っていこうと思ってたのに。

 まぁダメなら仕方ない、黙々と作業を続けよう。しかしこの子の視線が気になる……これだけ人数いたら魅了してもさっきみたいに解呪できるから大丈夫なんだろうけど。


「先生、こんなものですか?」

「そうですね、取りすぎてもよくありませんし、これくらいでいいでしょう」

「さよなら……私の子供達……」

「子供じゃないでしょう。これ植えても生えてきませんし。今から植えるこれじゃないと」

「まぁそうなんだけどね~。気分的に」


 そうして私達は無事? 魔法植物栽培の1回目の授業を終え、「また来てね~」とひらひらと手を振る彼女? の姿に若干後ろ髪を引かれながら私達は裏庭を後にしたのだった。


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