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第87話 魔法植物の美少女

 私達は魔法生物学の授業を受けるため、なぜか裏庭に来ていた。

 ここは入り口の方は生徒たちに解放されていたけど、それより奥には結界が張られていて立ち入り禁止になっていた場所なんだけど……


「それでは、授業を始めます。前回は守護ペットでその、凄いことになりましたけど、今回は多分そんなことは起こらないと思います……たぶん」


 先生が言ってる凄いことって、ナデシコのことよね。ちなみにナデシコの登録は無事完了したらしく、戸籍も貰うことができた。世間的にも私の娘という事になったというわけである。


「前回はほんと凄かったですわ……今回はほんとに何も起こらないのかしら……」


 クラリッサはかなり疑心暗鬼である。まぁ無理もないけど。私もまさか授業で娘ができるとは思ってもみなかったし。

 でもナデシコ可愛いからまぁヨシである。娘を与えてくれた先生には感謝しかない。


「せんせ~、今日の授業は何をするんですか?」

「今日は魔法植物の栽培の授業です。なのでこうして裏庭に来たというわけです。この奥には私が丹精込めて育てている魔法植物がありますからね」


 魔法植物。2年になってから随分と魔法学園っぽい授業をするようになったなぁと思う。ひたすら基礎ばかりやってた1年の頃とは別物のようだ。


「魔法植物って、魔法薬に使う植物のことですわよね……それは魔法薬学の授業でやる分野なのではないですか?」

「その疑問はもっともですが、薬学では植物を製錬して薬品にした状態にしてからの物を使います。栽培はむしろ生命学の分野なんですよ」


 なるほど、ここで作られた植物によってあのいかれた授業が成り立っているわけか……イヤな予感しかしない。


「というわけで、魔法薬学は魔法生命学とかなり関りがあるんです。生命学専攻の予定の子は、薬学もしっかり学ぶんでおくことです。……それでは早速やっていきましょう」


 先生はそう言うと地面に置いてあるカゴの中から大きな種を1つ取り出した。


「今日はこれの栽培を行います。これは百合ツバキという植物でして、これからとれる油は百合子作りで使う魔法薬の原料にもなります。とても基礎的かつ大切な魔法植物なんですよ」

「そんなに基礎的なら、1年からやっておくべき授業なのでは……」

「2年からなのは、魔法植物の栽培にはそこそこ危険が伴うからです」

「危険?」


 生徒達から疑問の声が上がると、先生は答えにくそうに、言葉を選んでいるようなそぶりを見せた。その顔は苦笑いというか何とも言えない表情をしている。


「魔法「植物」とは言いますが、高純度の魔力を得て育つこれらには……意思があるんです」


 植物に意思がある? 流石は魔法の世界、色々と常識が通用しないわ。


「なのである程度自衛できるようになるまでは、魔法植物に関わることは国から禁止されています。とはいえ襲われるとは言っても命自体に危険があるわけではありませんが……」


 ありませんが?


「貞操の危機はあります」

「……は?」

「意思があると言いましたが、それは明確な嗜好を持っているんです。……それは「人間の女の子が大好き」ということです」


 人間の女の子が大好きって、この世界は植物まで百合なのか。すばら……しくないか、流石に。


「魔法植物は例外なく捕獲用のツタを生やしていまして、それで女の子を絡め取ります。……そしてその女の子から魔力を吸い取るために巻き付いてイタズラをしてくるのです」


 その事実を聞かされた生徒たちが身をすくめる。それはそうよね。私だってドン引きしたわ。植物からの触手プレイとか冗談じゃない。

 先生が言いにくそうにしている理由がよくわかった。


「先ほども言いましたが、命の危険はありません。魔法植物としても、女の子を殺してしまっては魔力を吸い取れませんからね。なのできちんとご飯……と言いますか、ツタの先から出る栄養液を飲ませたりして生かしてはくれます」


 いや、それ飼われているっていうんじゃ……。死ぬよりはマシではあるけど、それでもかなりアレである。


「なので、決して単独で水やりとかに来てはいけません。必ずペアで行動すること。さもないと、次に誰かが見つけるまでずっと魔法植物に可愛がられたりしちゃいますよ?」


 みんなブンブンと頷く。誰だってそんなのに可愛がられたくないわい。


「野生の魔法植物を見かけても決して近づいてはいけませんよ? まぁ……死ぬ事はないのでそのうち助けてもらえるかもしれませんけど」


 それ山奥とかで捕まったらそれこそ何年とか飼われるかもって事でしょ? 怖すぎるわ。ここまで来て、この授業が2年からである理由がよくわかった。


「とは言え、ここまで言ってもなおコレに掴まる女の子は後を絶たないんですよね……まぁ理由は今からわかりますけど」


 いや、こんなのに好き好んで掴まる子なんていないでしょ。いたら見てみたいわ。


「それでは参りましょう……私から離れちゃダメですよ? 誘惑されても決してついて行かないように」


 誘惑? 何の事だろうと思いながら私達は結界を解いた先生の後をついて裏庭の奥に入っていく。


「うわっ……すごい魔力……」

「でしょう? ここは魔法植物が生み出す魔力で満ちていますからね」


 先生はそう言いながらスタスタと歩いて行くと、ある一角で足を止めた。


「ここです」

「こ、これは……」


 みんなが目の前の光景に絶句する。

 ……なるほど、こいつは確かに引っかかる子がいるのも納得だ。

 そこに「いた」のは――


「うふふふっ……いらっしゃい……」


 鮮やかな赤い実を付けた私の背丈ほどの木と……その木の根元に座り込む美しい少女だった。だけど一目でわかった。この子は人間じゃない。

 だって放つ雰囲気が尋常じゃないし、綺麗なウェーブのかかった髪にはあちこちに艶やかな花が付いている。その肌も人ではありえないほどに滑らかで美しい。


「先生……こういう事ですか?」

「そうです。魔法植物はこのように、一本ごとに精霊……のような端末を持っています。これがまた御覧のとおり、物凄く可愛いんです。そこが余計にタチの悪い点なんですけど」


 確かに、こんな美少女に誘惑されたらころっといってしまう子も多いだろう。

 先生の言う事がよくわかったわ。


お読みいただき、ありがとうございますっ!!

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