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第85話 「蹂躙される」という気持ち

「「「「王様だーれだっ!!」」」」


 王様ゲームの3回戦が開始された。次の王様は……またしても私ではない。


「あ、私ですね~」


 シンシアか。この子は正直予想が付かない。自身の欲望に忠実で、抜け目のないSっ気たっぷりのこの子は一体どんな命令を出すんだろう。

 私の隣にいるストッキングを奪われたクラリッサは、自分の彼女がどんな命令を出すのかワクワクなのかハラハラなのかよくわからない表情をしている。

 しかし普段ストッキングに包まれているクラリッサの生足というのもまたいいものだ。夜には生足なんて何度も見てるけど、昼間に見るからこそいいと言うものもあるのである。


「では~、1番は7番を膝の上に乗っけてください。時間は最低10分で、次にどちらかが命令か王様に当たるまで状態継続です」


 あれ? 意外と普通の命令だ。シンシアのことだからどんなとんでもない命令が来るかと思っていたのにこれは意外である。

 クラリッサも何か拍子抜けという顔をしているし。


「これくらいでいいんですよ~。こういうのはっ。で、1番と7番は誰ですか~?」


 私じゃないなぁと思いながらクジを見ていると、「はいっ」という元気な声と共に手が上がった。


「私だよっ! 私が1番!」

「私7番~」


 ルカとナデシコだった。よかった……逆じゃなくて。逆だったらナデシコペチャンコよ。


「ナデシコか~。ほら、ママの膝の上においでおいで~」

「わぁい!!」


 ナデシコは文字通り飛び上がって喜ぶと、そのままふわふわと飛んで行ってルカの膝の上にちょこんと座った。


「ルカママの膝、すべすべ~」

「ちょっ、こ、こらっ、撫でまわさないでよぉっ、くすぐったいってばぁ」


 ブルマから延びるスラリと引き締まった太ももをすべすべと撫でるナデシコに、ルカはくすぐったそうに身をよじる。


「おかえしだっ! ほら、こちょこちょ~」

「やぁぁんっ、ママぁ~、くすぐったいぃぃ~」


 ルカはナデシコが弱い腋を重点的にくすぐって反撃し、その2人がキャッキャッと戯れる姿に皆が目を細める。


「やっぱりいいねぇ、子供って」

「ですわね~。わたくしも、早く子供が欲しいですわっ」


 クラリッサも、その様子をうっとりと眺めながら私にもたれかかっていた。


「子供、早く欲しいの?」

「当然ですわっ! だって、わたくしはずっと前からアンリちゃんとの子供が欲しかったんですもの」

「そっか、でも学生の間は待ってね?」

「もうっ……わかってますわっ……今はこうしてイチャイチャするだけで我慢しておきますわっ」


 ぎゅっと抱き着いてくるクラリッサの頭を撫でていると、後ろからシンシアが声をかけてきた。


「仲良くしているところ悪いんですけど、次のゲームに行っていいですか~?」

「え、あ、うん、それはもちろん」


 そうよね、イチャイチャしてばかりもいられないのだ。何せゲームはまだ続くのだから。

 名残惜しそうにクラリッサが離れると、皆が再びクジを引いた。


「「「「王様だーれだっ!!」」」」


 4回目となるその掛け声とともに自分のクジを見ると……


「おおお、私だっ!!」


 遂に私が王様になった。さてどんな命令をしようかなっ。ここで王様絡みの命令を出せば確実に私に絡めるとあって、皆が期待の眼差しを向けてくる。

 そこまで期待されたら仕方ない、そういう命令を出してあげようじゃないか。


「では……3番と6番は、王様と〇ッキーゲームよ!」

「……え? 今なんて言いました? よく聞き取れなかったんですけど」

「〇ッキーゲームよ、〇ッキーゲーム」

「やっぱり聞き取れませんね……」


 とはいえ〇ッキーは無いから、それっぽいお菓子で代用しよう。ちょうど長細いタイプの焼き菓子があるからこれを使うことにする。


「これはね~このお菓子の両端を口で咥えて、それぞれが食べ進んでいくのよ」

「それで、どうするんですの……? それ、そのまま行くとキスすることになりません?」

「そだよ。だから、先に口を離した方が負け~」


 ルールを説明すると、皆ポカンとした顔をしていた。


「あの、お嬢様? それ、誰が口を離すんですか? せっかくキスできるのに」

「そうだよねぇ、離す理由どこにもないよね」


 うん、まぁそうなんだけどさ。このゲームってガチ恋人どうしでやってもキスになるの確定なんだけど……でもいいじゃないか!! こういうのだって!


「ま、まぁ、ちょっと変わったシチュのキスだと思えばこれもアリなんではなくて? ところで、3番と6番は誰なんですの?」

「あ、私です!」

「私ですねっ」


 手をあげたのはエメリアとマリアンヌだった。何気にマリアンヌ、ゲーム初絡みだ。


「じゃあ、ほら2人共立って立ってっ」


 私はお菓子の片方を咥えると、皆がよく見えるよう部屋の中心に立って二人を招き寄せる。


「じゃあ……今まで当たってなかったマリアンヌからいこっか、ほら、もう片方を咥えてっ」

「は、はいっ……失礼しますっ」


 私の肩に手をかけ、マリアンヌがもう片方を咥えると周りがざわついた。


「こ、これはっ……」

「た、確かに、普通のキスとはなんか違う感じがするっ……」


 その通り、普段ならここからキスに行くが、このゲームはポリポリと食べ進める以上、唇がゆっくりと近づいていくことになるのだ!

 そのことに気付いたマリアンヌの頬は真っ赤になってしまっていた。いつまでも初心な感じが堪らないのよねぇこの子。


「じゃあ、始めるわよ?」

「~~~っ!?」


 ゆっくりと食べながら近づいてくる私の顔に、マリアンヌはもうプチパニック状態だ。そのまま一切口を動かすことができずに、ただただ私の進行するまま侵略を受け、


「んんん~~~っ」


 そのまま攻め入られてしまった。更に隠している物資が無いかと、念入りに口内をガサ入れされたマリアンヌが膝から崩れ落ちる。


「ふあぁぁぁ……」


 へにゃへにゃと床で伸びているマリアンヌに対しては、皆が羨ましそうな目線を送っていた。


「こ、これは……凄いゲームだねっ……」

「で、ですわねっ……奥が深いですわっ」

「ただのキスとはまるで違いますね~」

「恐ろしいゲームを考え付いたね……流石アンリエッタ……」

「キースっ! キースっ!」


 私はそんなリアクションに満足しながら、もう1人のチャレンジャーであるエメリアに向き直る。すると、


「ふふふふふ……お嬢様、負けませんよっ」


 もうお菓子を咥えていた。やる気満々過ぎる。


「え、いや、負けは、口を離したら負けになるんだけど――」

「離すわけないじゃありませんか、お嬢様。つまり勝ち負けはそんなことじゃあ付かないんですよ……申し訳ありませんが、全力で行かせてもらいます……!!」


 あの、エメリア? 目が怖いんだけど……


「さぁお嬢様……ゲームを始めましょう……?」

「え、あ、ちょ、ま……」


 肩にかけられた手からとんでもないプレッシャーを感じる。え、何? なんかエメリア、火がついてるんだけど。


「ふふっ……勝負ですねっ」

「……あ」


 そういえばこの子、超負けず嫌いだった!! 勝負となったら燃え上がるのは当然なのだ。しかも勝つ過程で私を好きに出来るとくれば!!


「それでは……頂きますっ……」

「あっ……ま、まって……」


 カーン!


 だが私の「待った」など知ったことではないとばかりに、ノリのいいシンシアがどこからかフライパンとおたまを取り出してきてゴング代わりに打ち鳴らした。


 その無慈悲な合図と共に、私はさっきのマリアンヌが味わった「蹂躙される」という気持ちを味わうことになるのだった――



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