第84話 少しは欲望を隠しなさい
「さあて……それでは王様ゲームを始めようか? みんなクジを引いてね。あと引いたクジは人に見せないように。まだ自分のを見るのもダメだよ」
私の指示に従ってめいめいがクジを引いていく。ちなみにメンバーは私と彼女達6人、それにナデシコの計8人だ。
「引いたね? ではみんなで「王様だーれだ!」って言うのよ。そうしたら自分のクジを見て王様が手をあげるの。これが作法よ」
「作法とかあるんですのね」
うむ。あるのじゃよ。作法は大事なのじゃ。
「では私に合わせて言ってね? せーのっ!」
「「「「王様だーれだ!」」」」
その伝統の掛け声とともに皆が一斉に手元のクジを見る。そして栄えある最初の王様となったのは、
「あ、わたくしですわっ!」
クラリッサだった。まぁクラリッサならこの中でも実はかなり常識的な方だし、空気を読んでいきなりとんでもない命令はしないだろう。たぶん。
「えっと、アンリエッタを指名することは出来ないんですわよね?」
「そ、だから番号で指名してね~」
「う~ん、どうしますかねぇ」なんて言いながら、顎に指を当てているクラリッサの姿はなかなか絵になるものだった。そしてしばし考えた後、クラリッサはこくりと小さくうなずいた。
「よし……決まりましたわ。では4番と6番は……」
ごくり。初めての命令に、皆が息を呑む。
「5分間抱き合う! こ、こんな感じでいいのかしら?」
いいよいいよ~。初回の命令としては実にいいあたりだ。流石クラリッサ期待を裏切らない。
それで、4番と6番はだれだろう。ちなみに私ではない。
「あ……4番私ですね」
「6番は私だ」
エメリアとルカだった。この組み合わせって最初からの知り合いだけどなかなかありそうでなかったのよね。これはなかなか楽しみだ。
「抱き合う、ですか……ではルカさん、いいですか?」
「お、おうっ! 来いっ」
潔く両手を広げて待ち構えるルカにエメリアがするすると近づいていき、「えいっ」という可愛い掛け声とともに抱きついた。
するとルカがそのあまりの感触に目を見開いた。
「ぬわぁぁぁぁぁぁ!? な、なんじゃこりゃぁぁぁ!? でかい!! ちょっと常識を超えるくらいでかぁぁぁい!!」
「ちょっ……!! ルカさんっ!? や、やめてくださいっ……恥ずかしいですよぅっ……」
「だ、だって……!! 見慣れてはいるけど、こんな抱きつかれるの初めてだし!! ちょっとこれ凄すぎでしょ!?」
「もうっ……!! やあっ……」
みんなから注目されて顔を真っ赤にして悶えているけど、根が真面目なエメリアは時間が来るまで律義に離れようとせず、そのまま時間たっぷりとルカにサービスをすることになってしまったのである。
「ふぅ……ふぅ……これが王様ゲーム……なかなかいいねぇ……」
「う、ううっ……えっちですっ……」
エメリアの感触を存分に堪能したルカは、名残惜しそうにその体を離した。
初回の盛り上がりとしてもなかなかだろう。
「クラリッサ、王様としてはどうだった?」
「なかなかいいですわね。わたくしの命令通りに女の子が動くのは気持ちいいですわっ」
クラリッサもいいものが見れたからか満足げだ。よし、次行ってみよう。
「「「「王様だーれだ!」」」」
再度くじを引いた私達は合図に合わせて一斉にクジを見る。あ、また私じゃないか。
「あ、私だね。う~ん、どんな命令がいいかなぁ」
2番目に王様になったのはモニカだった。モニカがどんな命令を出すのか興味はある。多分服関係なんだろうけど。
「じゃあねぇ……2番と7番は、靴下を脱いで王様に献上!」
ほーらね、やっぱり服関係だ。……って7番私だよ! さて、2番は誰かな?
「あ……2番わたくしですわ……でも、ストッキングなんですけど……」
「じゃあそれで、ほらほら、早く~」
「えええ……は、恥ずかしいから脱ぐとこ見ないで欲しいですわっ……」
そう言われて見ない子がいるなら見てみたい。私ももちろんガン見する。
「も、もうっ……みんなえっちですわっ……せめてアンリちゃんから先に……」
「だーめ、クラリッサが脱ぐのを堪能してから私も脱ぐよ~」
そう言われてはクラリッサも脱ぐしかない。衆人環視の前でストッキングに手をかけ、スルスルと脱いでいくクラリッサの顔は羞恥で真っ赤になっていた。
「いやぁ~こういうのもなかなかいいですねぇ~はぁはぁ……」
このメイド、ご主人様のストッキング生脱ぎを瞬き1つせずにガン見していて、さらに写し絵――動画を取る魔道具――まで構えている。なんて欲望に忠実な奴なんだ。
「シンシアっ……は、恥ずかしいから、あまり見ないでっ……」
「ダメですよ~。お嬢様の成長記録を余さず残すのは、幼馴染メイドの務めなのです」
都合のいい時に幼馴染メイドを取り出す、ほんとちゃっかりした子である。
「さて私も……って、こんなに見られてると流石に恥ずかしいんだけど……」
クラリッサに注目が集まっている隙に私が脱ごうとすると、それを見逃すまいと全員の視線が一気に集まった。
ただハイソックスを脱ぐだけなのに、ここまで注目されるとこんなに恥ずかしいものなのか。
「ああっ……お嬢様のハイソックス生脱ぎ……しかもそれを貰えるなんて……私なら家宝にしますよ……」
「いいですねぇ~私も王様になりたいです」
みんなからの視線を浴びながら、どうにか脱いだ私とクラリッサは王様にそれをうやうやしく献上する。
「こんなものを手に入れられるなんて……王様ゲームって最高だねぇ。後でじっくり楽しませてもらうよっ」
受け取った献上品の香りを楽しんだモニカは、それをいそいそとカバンの中にしまってしまった。
こらこら、楽しむってどうする気なんだ。だがモニカはにっこりと笑ったっきり何も答えない。ホント何する気なんだろう。
「ううう……モニカさん、ほんと羨ましいですっ……」
「全くですね~。私もお嬢様のストッキング欲しかったのに~」
そこのメイド2人、少しは欲望を隠しなさい。まだまだ先は長いんだからね?
そして私達は次のゲームを始めるため、筒にクジを戻したのだった。




