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第80話 セーラー服……!!

「へぇぇ、そんなことがあったんだ」

「そうなの、もうびっくりよ」


 私は彼女達を連れて、ナデシコのことを説明するためにモニカの事務所に来ていた。


「で、この子が?」

「そ、ナデシコよ。ほら、ご挨拶して」

「うん! アンリエッタママの娘のナデシコです!」


 テーブルの上にちょこんと乗ったナデシコがモニカにお辞儀をする。その姿を初めて見たモニカはもちろん、周りの皆もすっかりメロメロである。


「うわぁ~。か、可愛いねぇ……どことなく、というかだいぶアンリエッタに似てるし」

「あ、だからこんなに惹かれるんですのね。なるほど、合点がいきましたわ」

「確かに……こんな小さい体なのに結構お胸も立派で……」


 こらこら、ルカ、私の娘を変な目で見るんじゃない。触ろうとするんじゃない。


「その、なんだっけ? 魂の情報? を引き継いでいるんだよね? それってどんなもんなの?」


 モニカがナデシコをうりうりと可愛がりながら質問してくる。この子も子供好きみたいだ。


「それが、一般常識とかの基本的な知識だけ継承されているみたい。私の記憶とかその辺は全く無いわ。完全に別の人格ね」


 私の魂情報の一部が複製されてこの子に渡ったようなんだけど、あくまでそれを核として人格が形成された、とのことらしい。

 まぁ私的にもあまり知られたくないこととかもあるし、その点はちょっとホッとしたけど。


「ママ、そう言えばこの人たちってママの何なの?」


 私達に囲まれながら、それをぐるりと見渡して今更ながらに聞いてきた。


「ん~? この子達はね~……私の嫁達よ」

「お嫁さん!? こんなにいっぱい!? ママ凄い!!」


 自分を除いたこの場にいる全員が嫁だという事を聞かされてナデシコが目を丸くする。そして嫁だと言われた彼女達が一斉に照れてる。

 まぁ正確にはまだ嫁ではないんだけど。


「1、2、3……6人も!? ママモテるんだねぇ~」


 いやぁそれほどでも。


「えっと、じゃあ、ナデシコのママのお嫁さんってことは、皆もナデシコのママなの?」


 思わず指摘された、「皆もママ」その事実に彼女達が色めき立つ。


「そ、そうですね! 私達、お嬢様の嫁ですから! 当然そうなりますよね!」

「わたくしがママ……なんて素晴らしい響きですの……。ほら、ナデシコ、お、おっぱい飲むかしら……?」

「いや、そんな断崖絶壁でどうやって吸い付くのさ。一流のクライマーでも無理だよ?」

「ぶっ飛ばしますわよ!?」

「あ、じゃあ私が~。私のなら吸い付きやすいですよ~」

「う、私のは……そこそこですね」


 ゆさりと胸を揺らしているのはシンシアで、胸に手を当てて複雑な顔をしているのはマリアンヌだ。

 いや、あなた達のも出ないからね? それにこの子指から魔力吸うんだし。


「おっぱい?」

「え、ああ、ほら、この子ヒト型だから母乳で育つのよ~、って先生からかわれて」


 自分のをぐいっと持ち上げながら聞いてくるモニカ。ううん、やっぱりなかなかに大きい。

 あ、でも指から吸えるってことは当然他の部位からも吸えるってことで……うん、気付かなかったことにしておこう。


「と、ところでモニカ、今度の新作なんだけどさ、進捗はどう?」


 私は場の雰囲気を変えるため、モニカに話題を振る。


「うん! 明日には発表だよ!! いやぁ、それにしても今回も実に素晴らしいデザインだねぇ……」


 席を立ってデスクからデザイン画を取ってきたモニカは、文字通り食い入るように見つめている。

 はぁはぁと荒い息を吐きながらヨダレを垂らしている姿にナデシコも含めて全員が少し引いていた。


「それが、巷で話題だっていう謎のデザイナーAのデザイン画ですの?」

「ええぇ!? 見たい見たい!! 見てもいい?」

「いいよ、発表は明日だし、ほら」


 そう言いながらモニカはデザイン画をテーブルの上に置くと、皆の視線が集中した。


「この……襟? の独特の形がいいですわねっ」

「でしょ~? これはね、セーラーカラーと言って、この服の特徴となる部分らしいよ」


 モニカが自慢げに説明する。この辺はモニカに私が事前に説明しておいた部分だ。


「セーラーカラー?」

「そ、これはね……セーラー服って言うのよ!」


 私が今回モニカに作ってもらった異世界デザイン服は、満を持しての登場となる制服の王の中の王と呼ぶべき存在、すなわちセーラー服である。

 一口にセーラー服といってもそのデザインは多岐にわたる。前襟だけとっても形、深さ、色は千差万別だ。

 更にメインの色も白から紺まであるし、セーラー服といえばスカーフ! であるスカーフの色も多種多様だ。

 セーラーにリボンってのも捨てがたいし、タイ型なんてのもある。私が持ってきたデザインはそのオーソドックスな組み合わせを何点か、といったものだ。


「これはいいねぇ、私こう言うの好きだよ」


 ボーイッシュな性格とは裏腹に、意外と可愛い服とかが好きなルカである。今回のも気に入ったようだ。


「いいでしょ~。これを広めていって、学校とかでの採用を目指そうかなって思ってるんだ。デザイナーA曰く、制服としてデザインしたらしいし」

「あら、学校だけなんて勿体ないですわ。こんなに可愛いんですもの普段着として使ってもいいんじゃなくて?」

「いやいや~。これは制服って事で限定されてるからこそいいんだと思いますよ~」


 クラリッサの指摘にシンシアが突っ込む。

 うむ、確かにこれは制服だからこそいいのであるけど、でもそれはそれとして普段着としてセーラーが定着する世界も見てみたい。

 街を歩けば道行く女の子達がみんなセーラーを着ている世界、もしくは職場とかでもセーラーが溢れる世界……とてもいい……


「モニカはどう思う?」

「……え? あ、そ、そうだねぇ」


 すっかり目の前のデザインに夢中になっていたモニカが我に返る。

 とりあえずヨダレを拭くようにハンカチを貸してあげると、拭く前にスンスンと私のハンカチを嗅いで実に幸せそうな顔をしていた。


「う~ん、これだけ可愛いなら、制服だけってのももったいない気もするなぁ……ここは一般への普及を前提に考えてもいいかも。その上で学校とかに売り込みをかけて行こうかなって」

「すでにある制服を変えるのはなかなか時間がかかるかもだけど、新設校とかならいけるかもね。可愛い制服があるっていいウリになるし」

「ねね、私達にもこれ、用立ててくれない?」


 私がこうお願いしたけれど、これはいわゆる「ヤラセ」だ。すでに私はデザイン料としてモニカから全員分のセーラー服を貰う約束になっているのである。

 ただあくまでも私がデザインしたことはナイショなので、こういう小芝居も必要になるというわけだ。


「おっけーおっけー。ほかならぬアンリエッタの頼みだからね。特別だよっ」

「ありがと、モニカ」


 私がモニカに目配せをすると、モニカはくすっと微笑んだ。こういう小芝居が好きな子なのである。


「あ~それと、ナデシコのも欲しいんだけど……いいかな?」

「いいよ、30分あれば作っちゃうから、今からやっちゃうね」


 モニカはそう言うと、腕まくりをして見せる。しかし30分て、いくらナデシコが小さいとはいえこの辺は敏腕社長にして凄腕の職人なだけのことはある。


「私にもくれるの!? ママっ」

「ええそうよ、ナデシコにもあげるからね、セーラー服っ」


 ナデシコがやったやったぁと無邪気に飛び跳ねるのを見て、周りがほっこりとする。


「あ、ただし、明日が発表だから、それまでは外で着ちゃダメだよ?」

「分かってるって、今夜部屋でこの子達に着てもらうから、ねっ?」


 私は嫁達を見回しながらそう言うと、その意味を察した嫁達はモジモジとしながら夜に想いをはせるのだった。


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