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第75話 色々と察したのである

「お嬢様、朝ですよ~。起きてくださいっ」


 元気なエメリアの声と共にカーテンが勢いよく開かれ、朝の陽光が差し込んでくる。小鳥のさえずりも聞こえてきて、今日がいい天気であることがわかる。

 だが眠い。


「ううん……あと一時間……」

「ダメですっ。昨晩あんなに汗をかいたんですから、シャワーを浴びる時間も計算しないといけないんですよ?」


 ゆさゆさと優しく私をゆすってくる。いかん、そんな優しい手つきで揺すられたらまた眠くなるではないか。


「それはエメリアもでしょ~?……一緒に入ってくれる?」

「私はもうとっくにシャワーを浴びましたけど」


 その言葉通り、エメリアからは既にメイド服に着替え終わっていて、シャンプーの香りを漂わせているのに気が付いた。しかも首輪まで付けてるし。

 昨日も夜寝かせるのはだいぶ遅かったのに、なんてタフなメイドさんなんだ。


「ほらほら、お体を洗って差し上げますから起きてくださいっ。始業式に遅刻しちゃいますよっ」


 そうなのだ。このエメリアは私を起こすためだけにでもメイド服に着替えるという、メイドさんの鑑のような子なのである。

 この後私と一緒にお風呂に入り、そしてまたメイド服に着替えて朝のご奉仕――いやらしい意味ではない。髪を整えたり、着替えさせてもらったりとかそういうのだ――をした後で、制服に着替えるということを平然とやる子なのだ。


「起きてくださ~い。起きないとキスしちゃいますよっ」


 エメリアはそんな素敵なことを言いながら、ゆっくり私に覆いかぶさってきた。

 その際に規格外レベルのたわわがムギュウと押し付けられてきて、朝から極上の感触を味わえる幸せを噛みしめる。

 しかしこのままエメリアを味わい続けていたら、我慢ができずに彼女をベッドに引きずり込みたくなってしまう。そうなったらまず遅刻だ。

 私は多大なる未練を残しながら、むくりと起き上がると――


「クラリッサ~。朝だよ~」

「んゅ……?」


 ――私の横で首輪を付けただけの格好で寝ているクラリッサを優しく起こす。

 彼女の頭を撫で、その金髪をすくいあげるとそれは黄金色の滝になってサラサラと手から零れ落ちていく。

 なお寮のベッドは何故かみんなダブルサイズベッドで、複数人で寝ていても全くもって余裕であった。これはつまり、女の子を部屋に連れ込めって学校側も推奨してるってことよね、うんうん。


「んあぁ……あしゃですの……?」

「………………」


 付き合って分かったことだけど、クラリッサは異様に朝が弱かった。どう弱いかと言うと、物凄く子供っぽくなるのである。ぶっちゃけ幼児レベルだ。

 その証拠に口元に指を差し出してあげると、


「んっ……」


 ちゅうちゅうと吸い付いてきた。赤ん坊か。


「ふわぁ……やっぱり朝のクラリッサ様は可愛いですね~~。お嬢様、次は私、私にもやらせてくださいっ!」


 エメリア的に、この朝の幼児クラリッサはかなりどストライクらしく、興奮しながら写し絵――動画を撮影する魔道具――で激写している。(いわ)く「母性が刺激されますっ……!」とのこと。

 今度クラリッサに若返りの薬を飲ませて思いっきり若返った後で、エメリアに預けてみようかと考えていたりする。なかなか面白いものが見れそうだ。


 ちなみにクラリッサは朝の自分が寝ぼけてこんな痴態をさらしていることは覚えていない。当然私達も教えていない。


「うふふふふ……今日もいいのが撮れましたよ~。シンシアにも見せてあげなきゃ……」


 どうやらエメリアは日々貯まっていく幼児クラリッサの動画を、同じくメイド仲間であるシンシアと共有しながら眺めてニマニマとしているという。

 実においたわしいクラリッサである。


「んぅぅ……ふぁっ……?」


 そしてクラリッサの意識が覚醒してきたのを察したエメリアが、さっと写し絵を隠し、私も口から指を引き抜く。

 ここで自分の朝の癖を気付かせてしまっては今後の楽しみが減っちゃうからね。

 こういうのは貯めに貯めてぶちまけるのが面白いのだ。その時の顔を想像するだけでご飯3杯はいける。実に楽しみだ。


「あ……おはようですわ、アンリエッタ、エメリア……」


 まだぼ~っとしながらもクラリッサがむくりと体を起こすと、その起伏の無い体を金色の髪が流れて美しい模様を作り上げる。

 昨晩も散々見たけれど腰のくびれといい、お顔の造形といい、お尻の曲線といい、つくづくお胸以外は完璧な子である。お胸は板だけど。


「おはよ。クラリッサ、よく眠れた?」

「……あんなに夜更かしさせておいて、それはないと思いますわ……」


 寝ぼけまなこを擦りながら不満を口にしながらも、それでもその声色は幸せそうだ。だってしょうがないだろう。可愛すぎる私の彼女達が悪いのだ。


「ま、今夜はクラリッサの番じゃないからゆっくり寝れ……ないか」

「そうですわね……あの子が寝かせてくれませんわ」


 あの子とは、当然クラリッサの幼馴染メイドで、彼女でもあるシンシアのことだ。

 シンシアはクラリッサと付き合いたいのをずっと我慢してきただけあって、その求めっぷりは私の比ではない。

 明日は今朝以上の寝不足を味わうことになるだろう。


「ところで、エメリアが体洗ってくれるって言ってるんだけど、一緒にどう?」

「はい、クラリッサ様のお体も喜んで洗わせていただきますよっ」


 幼児クラリッサを知ってから、エメリアの対クラリッサ好感度が爆上がりしたらしく、実に弾んだ声をしながら手をワキワキさせている。

 それに胸以外は完璧すぎるフォルムのクラリッサの体を洗うのはメイド的にも楽しいらしい。ちょっと妬ける。


「う、う~ん、それも捨てがたいんですけど、やっぱり……」

「彼女に洗ってもらいたいのかな?」


 私がからかってやると、恥じらいながらもこくりと頷いた。可愛い。でも妬ける。


「やっぱりわたくしとしては、シンシアに体を洗われるのが一番なんですの」

「そっか、じゃあ私はエメリアとお風呂に行くから、クラリッサも彼女とお風呂場でいちゃついたりして遅刻しないようにね? 今日は始業式だよ?」

「当然ですわ。遅刻なんてありえませんもの」


 そんな優等生で超真面目なクラリッサらしい発言だったけど――実際は始業式が始まる直前になって、大慌てでシンシアと一緒に講堂に駆け込んできた。


「危なかったね。もう始まるよ?」

「ちょ……ちょっと、ありまして……」

「ふふふ~そうなんですよ~」


 真っ赤な顔をしながら首筋を手で押さえているクラリッサ。

 そしてやたらツヤツヤとしながら主人に腕を絡ませているシンシアを見た私は、色々と察したのである。


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