第73話 5人目と6人目の彼女
「いやぁ何と言うか……私がアンリエッタと付き合えるなんて、夢の様だよ」
私はモニカと2人で町からの帰り道を、ゆっくり手を繋いで歩いていた。
クラリッサとシンシアを彼女にしてから2週間、存分に2人とのイチャイチャを楽しんだ後、残った彼女候補のうちの1人であるモニカを今日正式に彼女にしたのだ。
「首輪も買ってもらったし……いやぁ、嬉しいなぁ」
他の4人の彼女同様、モニカも首輪を欲しがったので町まで2人で買いに行っていたのである。モニカのために選んだ首輪は、職人である彼女に似合うようブラウンのシックなものだった。
モニカもいたく気に入ったようで、お店で付けてあげてから帰ってくるまでの道すがら、スカーフで隠した上から何度も何度も撫でていた。
「工房に一人こもるときはこれ付けて作業するよ。はかどりそうだなぁ~」
「喜んでくれてなによりよ」
私がそう言うと、モニカはしばし沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「…………だってさぁ、私、あんま可愛くないし……一生独身かなって思ってたんだよね。それがまさか好きになった子と恋人になれるなんて……」
どうも未だにモニカは自分に自信がないようなのだ。確かにモニカにはいわゆる華というやつはないけど、でもそれを補って余りあるほどの「地味可愛さ」があった。
何と言うか、クラリッサが大輪のバラだとするなら、モニカはタンポポだ。タンポポにはタンポポの良さがあるのである。
「大丈夫! 自信を持ってよ。モニカは可愛いよ。私が保証してあげる!」
「そ、そうかなぁ……」
「そうよ。何せモニカは私の嫁になるんでしょ? だったらもっと胸を張ってよ……そのおっきな胸をねっ」
「ちょっ……え、えっちっ……あんまし見ないでよっ……」
モニカのお胸は、エメリアやシンシアには遠く及ばないものの、私に近いくらいのサイズはあるのだ。そしてその大きさを気にしているようでもある。
ちなみにクラリッサとは天と地ほどの差だ。
「え~? でも、モニカはもう私のものでしょ? お胸くらい見たっていいんじゃない?」
「そ、そうだよね……私、アンリエッタのものになったんだよね……」
私から指摘されたモニカははにかみながら、私の腕を抱きかかえるようにくっついて、そのたわわを思いっきり押し付けてきた。
「おおお……当たってるよ? モニカ」
「当ててるんだよっ……こ、こんなことするの、アンリエッタにだけだから……」
可愛いことを言ってくれる。今夜が実に楽しみだ。
「あ、モニカ、1つ訂正」
「え? 何?」
「モニカはまだ正確には私のものじゃなかったわ。私のものにするのは……今夜だからね」
「あっ……」
そのことを告げられたモニカは、顔を真っ赤にしてうつむきながら、私の腕を抱く手に力を込めるのだった――
「あっ、おかえりなさ~い」
余韻を味わいながら歩いて帰ってきた私達が屋敷の門に着くと、ふわふわと漂いながらマリアンヌが出迎えてくれた。
「ただいま、マリアンヌ。どうしたの?」
「いえ、空をお散歩していましたらお2人が見えましたので、お出迎えしようかなと思いまして」
幽霊であるマリアンヌならではのセリフだった。実体を持った幽霊なので、空を飛ぶのも自由自在と言うわけである。
「あ、モニカさんそのスカーフ! 首輪を贈ってもらったんですね!! おめでとうございます!!」
「ありがと、マリアンヌっ」
どうもこの2人、帰省中に仲良くなったらしくよく二人で話しているところを見かけていた。
申し訳ない話なんだけど、未だ「彼女候補」であったことが共通の話題になったらしい。ほんと申し訳ない。
「あ……でも、ごめんね、私だけ先に……」
「いえいえ、いいんですよっ。私はほら、幽霊ですから。ちゃんとした体もありませんし」
少し寂しそうにしながらも、友達の恋が実ったことを祝福しているマリアンヌを見て、モニカが私に目配せをしてきたので、こくりと頷く。
「ねえマリアンヌ……」
「なんですか?」
「マリアンヌも、今、アンリエッタの彼女にならない?」
一瞬何を言われたのかわからなかったマリアンヌだったけど、その言葉の意味に気付いたのか、ぽとりと地面に落ちる。
「うわ!? 落ちた!?」
「だ、だって、モニカがいきなりそんな冗談言うんですから! 驚きもしますよ!! だって今日アンリエッタさんと付き合ったばっかりですよね!?」
「いや、冗談じゃなくて……だってマリアンヌだけ宙に浮いちゃうでしょ? 文字通りに」
誰がうまいことを言えと言ったのだ。まぁ今は地面に落ちてるけど。
モニカがそんな地面に落ちたままのマリアンヌを助け起こす。なんかすごく軽そうだった。
「だって……私、幽霊なんですよ? 確かに彼女にはなりたいですけど、それはちゃんと受肉出来てからって考えてたんですけど……」
「いや、それいつになるかわからないからね?」
その方法は皆目見当もついていない状態なのだ。なにせ死霊魔術は完全に失われていて、資料もほとんど存在していないのである。
2年になったらマジでどうにかしないといけないとは思っているんだけど。
でも子供は作れないけど、付き合うくらいなら幽霊のままでもできるのだ。
「で、でも……せっかくモニカさん、アンリエッタさんとしばらく2人でイチャイチャできるのに……」
「それもいいんだけど、やっぱりマリアンヌだけ仲間外れってのも悪いしね。だから私の独占期間は放棄することに決めたんだ」
「モニカさん……」
「ま、2人で話してこうしようかってことになって、実はこれも買ってあるんだ」
私は町の首輪屋さんで買ってあったもう一つの包みを取り出す。
「これって……」
「そ、マリアンヌのために買ってきたんだ、似合うといいんだけど」
それは、マリアンヌに贈るための首輪だった。マリアンヌの銀の髪に似合うよう私とモニカで選んだ、澄んだ空色をしている首輪である。
「いいんですか……?」
「いいよ、一緒にアンリエッタの彼女になろうよ」
「モニカさんっ……!!」
おいおい、百合百合しすぎでしょう。マリアンヌは私の彼女になるんだからね? ちょっと妬けてしまう。
「では、お受けいたしますっ……! アンリエッタさん、私も彼女にしてください」
マリアンヌはふわりと舞い上がると、ゆっくりと着地して膝立ちになる。
「わかったわ、じゃあ、付けるよ?」
「はいっ……」
私はその細い首筋に、空色の首輪を付けてあげた。それはやっぱりマリアンヌに良く似合っていた。
これをもって、マリアンヌも私の彼女になったと言うわけである。
「えへへ……嬉しいですっ」
「良かったねぇ、マリアンヌっ」
手を取り合って喜ぶ2人。いや、2人共私の彼女なんだからね? そこんところ忘れないでよ?
「あ、でも今夜どうしよっかな……モニカ、どうする?」
「そうだね……マリアンヌさえ構わなければ、私は一緒でもいいよ?」
「いいんですか? じゃあ、私もモニカさんと一緒がいいですっ」
おいおい、この2人いつの間にこんなに仲良くなっていたんだ? まぁでもこんな仲のいい2人を同時に彼女にするって言うのもまたおつなものよね。
こうして私は、2年生になる前に5人目と6人目の彼女を作ったのである。
お読みいただき、ありがとうございますっ!!
これにて第5章――1年冬休み編、完結になります!
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