第69話 嫁たちの顔合わせ
後期の授業も終わり、私は実家に帰ってきていた。
「ただいまっ。お母さまっ」
「ただいま帰りました。奥様っ」
「お帰りなさい。アンリエッタ、エメリア……しかし、その……」
母はだいぶ驚いているようだ。それはそうだろう。なぜなら、
「なかなか大人数、ねぇ」
私は帰省に合わせて、彼女と彼女候補を連れて来ていたからだ。その数、私を除いて6人。合わせて7人で母達の前に座っている。
この子達を嫁として紹介するのが今回の帰省の目的だ。
「エメリアとは前の帰省の時に付き合い始めたのは知っていたけど、後の方は?」
促されて、私の嫁たちがそれぞれ自己紹介を始める。
「は、はい! アンリ……じゃなくて、アンリエッタさんの2番目の彼女にしてもらったルカと言います! ユリティウスのスポーツ専攻です! ……げ、元気な赤ちゃんを産みたいと思ってます!! よろしくお願いしますっ!!」
ルカのやつ、緊張してとんでもないことを口にしてるんだけど。母もさすがに驚いてるし。
「子供!? もうお腹にいるの!?」
「いないいない!! まだいないって!!」
ルカとはそういう関係ではあるけれど、百合子作りの術式は行使していないのでまだお腹にはいない。
最終的にはそうなることは確定ではあるけど。
「ああ驚いた……流石に早いわよ? ユリティウスには託児室も揃ってるけど、やはり学生の間は勉学に集中するべきよ」
託児室、あるんかい。そんなに学生の間に百合子作りする子がいるのか。
発情しすぎでしょ。まぁ私が言えた義理じゃないけど。
「だから、卒業時に合わせるように3年の夏あたりに百合子作りをするのがオススメよ。卒業式とかお腹の大きい子でいっぱいだから」
「はいっ! わかりました! そのあたりでアンリにおねだりしてみます!」
オススメとかそういうことでいいんだろうか? ルカも元気よく返事してるけどさ。
「そして……そちらはウィングラード家のお嬢様よね、子供の頃アンリエッタとよく遊んでいた……」
「は、はい、そうですっ。お久しぶりです」
話を向けられたクラリッサが席から立ちあがり、ぺこりとお辞儀をする。
「あなたも、アンリエッタの?」
「え、ええ、そう、なりまして……実はその、子供の頃からずっと好きでして、えっと……」
もじもじとするクラリッサ、実にいい。可愛すぎる。
「正式にはまだ彼女じゃないんですけど、私達が子供の頃遊んだ思い出の庭で彼女にして貰うかと思ってますの」
「あらあら、それはいいわねぇ。特別な場所でされる告白はまた格別よね、私もこの子を彼女にした時はね……」
母はそう言いながら傍らに控えるメイド――私のもう一人の母である――とクスクスと笑いあう。
「それで、子供の件だけど……」
子供!? 気が早くない!?
「はい、それはウィングラード家の跡取りに1人、こちらのクロエール家のために1人、最低2人は産ませていただく予定ですわ」
でも子供のことを尋ねられたクラリッサは平然と答えてる。これが貴族としての当たり前というものなんだろうか。
そう思っていると、それまでハキハキ答えていたクラリッサは急にモジモジとし始めた。
「で、でも、アンリ……エッタが望むなら、望むだけ産んで差し上げたいと思っていますわっ」
可愛いことを言ってくれる。後で夜にたっぷりご褒美をあげよう。
「それで、この子は私の幼馴染メイドのシンシアと言いますわ」
クラリッサが隣にいたシンシアをすっと前に出す。
「この子は私のか、彼女でして、それで、えっと……」
「いいわねぇ幼馴染メイド。それで、その子も一緒にアンリエッタの彼女になる予定なのね?」
クラリッサがこくりと頷き、シンシアが優雅にお辞儀をする。
この子こういうとこ、そつなくこなすのよねぇ。
「彼女同士の子を同時に貰うのよね。いいわよね~それ」
「お嬢様の時もありましたよね。あれは相手もハーレムを作りかけてましたから、3人同時に彼女にしたんでしたっけ」
「やだもう、娘の前でっ」
おおう、母、やりおる。3人同時に彼女にするとかどんだけなんだ。
そして次はモニカの番だった。モニカはここに帰省するときに初めて顔を合わせた子もいる、サプライズ彼女候補だ。
「あ、私はモニカと申します。キマーシュでメイドのお店をやってまして……」
「キマーシュでメイドというと……あのメイドグループ?」
「は、はい。そうです。そのメイドグループで……社長をしております」
「ええええっ!?」と私の周りから声が上がる。実はモニカがそのグループの社長であることはまだ言ってなかったのだ。驚かせようと思ってたし。
「ま、マジで!? あの一大チェーン店の……社長!? そんな人がアンリの彼女!?」
「いや、お店が大きくなったのは全部アンリエッタのおかげで……」
私はみんなにかいつまんで事情を説明する。ただし、私がデザインしていることは内緒で、あくまで私の経営的なアドバイスで大きくなったことにしてもらっている。
そのことを知っているのはあまり増やしたくないからね。
「つまり、アンリエッタの助言のおかげで店が爆発的に大きくなって、それで跡取りが必要になったというわけですのね?」
「私との間の子供じゃないとイヤって言われてさ」
「だって、全部アンリエッタのおかげだし……。それで、跡取りだけくれたら十分だよって言ったんだけど、「結婚を前提に、将来的に付き合おう」って言ってくれて……」
モニカがポッと顔を赤らめる。
「アンリエッタ様も手が早いですよね~。私達の知らないところで彼女候補を作ってたなんて~」
「そうですよ! お嬢様のえっち!」
シンシアとエメリアのメイドコンビが冗談めかしてぶーぶーと言ってくる。
「いや、言っとくけど、エメリアの初カノ期間中だったし、一切手は出してないからね?」
「う、うん、まだ何もされてないよ?」
いや、そんな頬を染めながら言うと怪しさ満点なんだけど。いや実際何もしてないんだけどね?
そしてトリに控えたのが、一番の変わり種の――
「で、この子がマリアンヌ……幽霊よ」
「よろしくお願いいたしますっ」
マリアンヌがふわりと浮かぶとスカートの裾をつまんでお辞儀をする。
「…………え?」
マリアンヌを紹介された母達が流石に固まった。それはそうよね。
「幽霊って……あの幽霊? でも体が……」
「これは私と契約して作った仮の肉体よ。最終的には死霊魔術を修めて受肉させる予定、そうしたら正式に嫁にするわ」
ポカーンとしている母達が、ようやっと自体が飲み込めたのかゆっくり口を開く。
流石に反対されるかなぁと身構えていると――
「いやぁ! 凄いわね! 流石は私の娘!! 幽霊を惚れさせるなんて尋常じゃないわ」
「ですねぇ~死者はよっぽどのことがないと生者に恋心など抱かないですし、我が娘ながら末恐ろしいです」
意外なことに手放しでほめてくれた。あれ??
「あの……? 反対とかなさらないんですか?」
「「なんで?」」
恐る恐ると言った感じのマリアンヌの質問に、口をそろえてなんで? と返された。いや、なんで? はこっちなんだけど。
「だって、その、私はマリアンヌのこと好きだけど、その……」
「幽霊だからって? いやいや、幽霊って言うのは高次の魔力生命体よ? ある種人間以上の存在でもあるんだから、魔術師として否定する材料はどこにもないわ。そもそも、アンリエッタが選んだ子なら悪い子のはずないし」
いい母親達だった。マリアンヌもほっとしたのか、うっすらと涙を浮かべている。
「つまり、今のところアンリエッタの彼女は候補も含めて6人でいいのかしら?」
「いえ、後2人、教師の中に候補がいます。こっちは彼女になるかはちょっと未定ですけど」
アリーゼ先生とテッサ先生のことだ。できればこの2人もまとめて嫁にしたいところである。
「あらあら、教師までなんて、アンリエッタってば手が早いのね」
違います。むしろ手を出されそうになったほうです。からくも逃げ切ったけど。今考えると惜しいことをした気がする。
あそこはぜひ据え膳を頂くべきだったのでは……いやでもあのままだと主導権を奪われて食べられていただろうしなぁ。
やっぱり私は食べたい派だし、ここはうまく主導権を握って先生たちを食べる方向で動いていこう。
「8人か~まぁまぁね。この調子でドンドンハーレムに加えていくのよ? 女の子達を住まわせる後宮は広めに作っておくから、何十人でも嫁にしていいからね」
「い、いや、何十人もは流石に――ない、かな……? たぶん……?」
完全には否定しきれなかった。だって私だし。
「我が家の産科魔術師はベテランですから、皆さんも安心してくださいね」
「も、もう、お母さまってば気が早いって~」
みんな顔を真っ赤にしているじゃないか。シンシアは1人平然と笑っているけど。この子だけ覚悟が違うよね。
そうして母からもハーレムを公認された私は、2年目も女の子たちの花園を存分に楽しもうと心に誓ったのだった――




