第67話 負けた方は何でも1個お願いを聞く
「おお~似合うねぇ~。いいよいいよぉ~」
「うっ、でもさ……これ、短すぎない……? み、見えちゃいそう……」
「いやいや。そこがいいのよ。この見えそうで見えないギリギリの長さがね」
ルカは試着室でミニスカートをはいている。
下着が見えちゃうのではと心配してなのか、手でぎゅっとスカートの端を押さえる仕草がまたとてもいい。実際は全く見えたりしないんだけどね。
上着も下の長さに合わせて、なかなかに露出の多いデザイン。かと言って下品にはならず、実にいい仕事だ。
「う~ん、いい仕事ねぇ。とてもエロ可愛いわ」
「ありがとっ。でもこれもアンリエッタのデザインだからこそだよ」
私の隣で一緒に恥ずかしがるルカを鑑賞しているのは、この店の店長でもあり、ブランドの会長でもあるモニカだ。
私達はルカに着せる服を選ぶために、モニカの本店に来ていたのだ。
「どう? この新作も売れそう?」
「これを見たらもうわかるでしょ~。バカ売れするに決まってるよ」
確かに。この可愛いルカを見たらもう大ヒットは間違いないだろう。
「こ、これ、アンリがデザインしたの……!?」
「そだよ。可愛いでしょ~」
「か、可愛いけどさぁ……でも、これ、やっぱり見えちゃわない……? えっちすぎるっ……」
そう言いながらもまんざらでもない感じなんだけど。どうやら少し慣れてきたようだ。やっぱり可愛いは正義ね。
「え~? 普段ブルマとか着てるじゃん。あっちの方がよっぽどえっちでしょ?」
あれなんてお尻の形が丸わかりな、ザ・エロ可愛い代物だというのに。
「だ、だって、あれは運動着だしっ……」
「そういうものかなぁ」
まぁでもビキニとかもよく考えたら、下着と形状そのものは変わらないわけで。それでも恥ずかしく感じないってことはそういうものなのかもしれない。
「でもこんな長さのスカートなんて、よく思いついたよね」
「ん、まぁね。でもいいでしょ? これ」
「いいなんてもんじゃないよ。これは間違いなく世界を制するよ」
モニカがこぶしを握り締め、新たな商機に沸き立つ顔をする。
確かにこの長さのミニは、みんながロングスカートばかりはいているこの時代からしたら、それはもうもの凄い刺激的なデザインなのだろう。
「ところで、この子って……」
「あ、うん。私の2人目の彼女よ」
「え、えへへ……」
私から彼女と紹介されたルカが顔をほころばせる。ほんと可愛い。
モニカを紹介するのもありかなとは思ったけど、デート中にするのも無粋だからやめておこう。
「じゃあこれ、貰ってくね?」
「はいはい、じゃあ包ませるから、ちょっと待っててね」
試作品を貰う約束をしているので、これもタダで譲り受ける。
うん、いいものを貰った。今度のデートではこれを着てもらおう。それで存分に可愛いルカを堪能するのだ。
そう思いながら私達は店を後にしたのだった――
それから魔法バッティングセンターで汗を流した後、私達はルカが一番行きたがっていたお店――首輪屋にやってきていた。
ちなみに魔法バッティングセンターは、投球の流れを魔道具で自動化した、まさにバッティングセンターそのものだった。ホームランで当たりも貰ったし。
やっぱりアレ、前世の日本から来た人が広めてるでしょ……
それはそうと、
「相変わらず繁盛してるのねぇ」
お店の前は前回エメリアと来た時と同様ににぎわっていた。
「エメリアとの時もここだったの? まぁこの店、町1番の老舗らしいからね」
その老舗の首輪屋さんからは、カップルの女の子達が仲良く手を繋いで出てくる。
その片方の子の首にはスカーフが巻かれていて、その下は首輪を付けているのだろう。
愛しい人に首輪を贈られたからか、その子は実に幸せそうな顔をしている。
「いやぁ~楽しみだなぁ~。アンリ、どんな首輪を選んでくれるのかなぁ」
「あ、やっぱ私に選んで欲しいんだ」
「それはそうでしょ!! だって私がアンリのものになるって証なんだよ? アンリが選んでくれないと!」
物凄い力説された。そんなにか。
「じゃあ入ろっか」
ルカは組んだ腕を引いて、いそいそとお店の中に入っていく。
その中はやはり百合カップルだらけで、もう店内に幸せオーラ満載。みんな幸せそうな顔をして首輪を選んでいる。
こうしてみるとどっちが『付けて貰う方』なのか観察するのも意外に楽しいものだった。
「ねえ、あの2人、どっちが付けて貰うと思う?」
ルカがちらと視線を送った先には、背の高いボーイッシュな子と、見るからに可愛い感じの子が手を繋いでああでもない、こうでもないと悩んでいた。
「う~ん、普通に考えると可愛い方なんだけど……」
「じゃあ賭ける? 負けた方は何でも1個お願いを聞くってことで。アンリから選んでいいよ」
「乗った! じゃあ……順当に可愛いほうで」
「う、じゃあ私はボーイッシュな方か……どうかなぁ」
それからしばらく見ていると、買う首輪が決まったのかレジに行き、そして隣にある台座に歩いていき……
「あちゃ~」
「勝ったぁ」
付けて貰ったのは、ボーイッシュな方だった。こっちの子が可愛い方の子のものになるらしい。
「じゃ、アンリにお願い聞いても~らお。楽しみだなぁ~」
「はいはい。わかりましたっ」
負けたからには仕方がない。でもルカは、お願いはちょっと待ってと言ったので、とりあえず首輪を選ぶことにする。
「う~ん、どんなのが似合うかなぁ~」
「アンリが私に似合うと思ったら何でもいいよ」
可愛いことを言ってくれるが、そう言われると逆にそう簡単には選べない。
「うううう~~ん……」
可愛い系がいいのか、それともシックなデザインがいいのか、それとも……さんざん悩んでいると、ある首輪が目に留まる。
「おおおお……これだ、これがいいよ」
「ふえっ!? そ、それ!?」
「いや?」
「いやじゃないけど、その、何と言うか……」
ルカは恥ずかし気にもじもじとしている。無理もない。私が選んだのはしっとりとした黒さを持つ、大人の雰囲気漂う首輪だったのだ。
「えっちでいいでしょ?」
「ううっ……アンリのえっちぃ……」
でもその顔は、喜びを隠しきれていない。やっぱりこの子Мっぽいなぁ。
「こ、こんな大人なデザインの首輪を付けてさせて、どうするつもり……?」
わかり切ったことを聞いてくる子だ。でもこれは私からこう言って欲しいんだろう。
「それはもちろん、ルカを私のものにするんだよ。もう逃げられないからね?」
「アンリっ……私のこと、ずっと捕まえていてねっ……」
期待通りの言葉が返ってきたルカは、感極まったのか私に抱きついてくる。もちろん離すつもりはない。
ルカは私のものなのだ。
それから会計を済ませて、先ほどのカップルと同様にルカに大人な首輪を付けてあげる。
「アンリっ……ありがとうっ……」なんて言いながら、心底幸せそうな顔をして涙まで浮かべているルカは、それはもう可愛いとしか言いようが無かった。
「えへへへ~」
店を出てからも、ルカは私の腕にくっついて離れようとしない。わずかな膨らみがひじに当たって非常に心地よい。
「そんなに嬉しいんだ」
「嬉しいに決まってるよ! だって好きな人から首輪を贈ってもらえたんだもん」
スカーフの上から愛おしそうに首輪を撫でている。ルカが嬉しいなら何よりだ。
「それで、これからどうしよっか?」
「あ、それなんだけど――さっきのお願い、使ってもいい?」
「お願い? いいけど……」
そう答える私にルカは恥じらいながらも耳元にそっと口を寄せて――
「きょ、今日……とっておきのをはいてきたんだ……だからっ……」
「ルカ……」
ルカは耳まで真っ赤になっていた。そこからさらに勇気を振り絞るようにして、その先を言葉にする。
「…………わ、私のこと……食べて欲しいんだけど……ダメ……?」
くらっとした。
――ダメであるわけがない。むしろこちらからお願いしたいくらいだ。
えっちな首輪を付けたルカ、それを見たときから我慢できなくなっていたし、こんな可愛いお願いまでされたそれはもう、ねぇ。
そういうわけで私は賭けの負け分を、一晩中かけてキッチリとルカに支払ったのだった――




