第65話 王子様風っていうか
「初カノ期間~~しゅ~~りょ~~!!」
私達は寮の談話室に集まり、そして隣に座ったルカから思いっきり抱きつかれていた。
「だよね? エメリア?」
「そうですね。ちょうど3ヵ月たちましたので」
「ああ~アンリぃ~~触りたかったよぉ~」
ルカは抱きしめる力を強め、さらに頬ずりまでしてくる。
私がエメリアと付き合ってから3ヵ月、触ることも控えてきたのでその反動か物凄くベタベタとしてくる。
「もうっ、ルカってば甘えんぼなんだからっ」
「だって、久しぶりなんだからしょうがないでしょ~? ずっとエメリアが独占してたんだもん」
「それは……すみません」
初カノの権利をしっかり行使したエメリアが、少しだけ申し訳なさそうな顔をする。
「あら、謝る事はなくってよ? だってそれは初カノの正当な権利なんですから」
「ですね。私が生きていた頃もそうでしたし」
クラリッサと、幽霊のマリアンヌがフォローしてくる。マリアンヌが生きていたことからあるんだ、この制度。
とは言ってもマリアンヌが生きてた時代が分からないけど。
「それはそうなんだけどさ~。少しくらい言ってもいいでしょ。私だってアンリとイチャイチャしたかったんだもん」
「はいはい、じゃあこれからはイチャイチャしようね」
私が頭を撫でてやると、照れくさそうに眼を細める。
「えへへ~。……あ、ところでさ、次の彼女は誰にするの?」
「え、次って?」
聞き返すと、全員が不思議そうな顔になった。
「全員まとめて私の彼女になればいいんじゃないの?」
「いやいや!? 何言ってるの? それは違うでしょ?」
ルカが手を振って否定する。あれ? なんか間違えた?
「あ~。えっと、お嬢様? 複数人を一度にまとめて彼女にするっていうのはあんまりよくないんですよ?」
「そうですわ。初カノほどじゃありませんけど、2番目の子を彼女にしてから3番目以降の彼女を作る時でも、最低2週間は開けるのがマナーですわよ?」
「そうなの!?」
私が記憶を無くしているのを知っている2人がフォローしてくれる。
なるほど、色々とルールというかマナーみたいなものがあるのね。
まぁでもそれがこの複数彼女制度を成り立たせるうえで必要なものだったんだろうか。
「あ、でもアリーゼ先生たちみたいに夫婦とか恋人同士を彼女にする場合は例外だよ? その場合はむしろ同時じゃないと失礼に当たるからね」
「そうですよ~。なので私とお嬢様を彼女にする場合は2人まとめてでお願いしますね~」
……ん? 今なんて言った? それってつまり……
「えええええ!? ふ、2人、付き合ってるの!? いつから!?」
ルカが椅子から飛び上がって、クラリッサとシンシアに詰め寄る。
「肝試しの日からですね~。あの夜、部屋に帰ってからも怖がっていたお嬢様をなだめていたら、何か成り行きといいますか~」
「じ、実はそ、そうなんですの……」
なんと、まぁでもこの2人、お嬢様と幼馴染メイドって関係だし、遅かれ早かれだとは思ってたけど。
「えええええ~~~。じゃ、じゃあ、もうクラリッサとシンシアは、エメリアみたいに大人の階段を昇っちゃったんだぁ~」
なんかルカ、凄いショックを受けてるんだけど。エメリアに続き親友の2人にも先を越されたのが悔しいんだろうか。
「の、昇っていませんわ!!」
「え、でも……」
「お、大人のキスをしただけですの!! まだそういうことはしていませんわ!!」
え、そうなんだ。いやまぁ私とエメリアもしばらくたってからだったけどさ。
「ほんとですよ~。まだそれだけです~」
「でも、なんで? 恋人とはそういう事したくならない?」
いや、私が言えたことじゃないんだけどね? 散々じらしたわけだし。
「それはしたいですけど~。でもお嬢様の初恋の人はアンリエッタ様ですから」
「し、シンシアっ!? そ、そういうことを本人の前で……!!」
「何をいまさら言ってるんですか~?」
しれッとシンシアが言ってのける。
確かに何をいまさらではあるけれど。
「ま、そういうわけでして、お嬢様の幸せが私の一番の幸せですから。私はお嬢様の初カノにして頂いただけで十分です」
「そうなんだ……」
クラリッサ、愛されてるなぁ――
「――で、2人で話し合いまして……私とお嬢様の『初めて』はアンリエッタ様にお捧げしようと決めた次第でして~」
「ぶっ!?」
その爆弾発言で、私だけでなく皆も一斉に飲み物を吹きだす。
なんちゅうことを皆の前で言うんだこの子は!?
「ちょっ!? シンシア!? 今そんなこと言わなくてもいいんですわよ!?」
恋人からとんでもないことをばらされてクラリッサが慌てふためく。
「え~でも~。いつかはお伝えしないといけないわけでして」
「あ、アンリちゃんにだけ伝えればよろしいでしょ!? こ、こんなの、恥ずかし過ぎますわっ!!」
その羞恥に震える主人を見て、メイドが恍惚の表情を浮かべる。
あ、この子これが見たくてわざと皆の前でぶちまけたな?
「ですから、私達の『初めて』は、2人一緒でお願いしますね~」
「ぶほっ!?」
「シンシアぁぁぁぁぁ!?」
またしてもお茶を吹きだしてしまった。
恥ずかしがる主人を肴に、追加でなんてとんでもないお願いを平然とぶっこんで来るんだこのメイドは。
もうクラリッサなんて恥ずかしさから卒倒しそうな勢いだ。
まぁシンシアはこれが見たくてやってるんだろうけど。なんか更に幸せそうな顔してるし。
「ふ、ふわぁ~。初めてを主従同時に頂くとか、現代は進んでるんですねぇ~」
頬に手を当てながら、マリアンヌが感心したような声をあげる。
いや、現代とかそういう話じゃないと思うんだけどね?
「い、いやぁ。2人がそれでいいなら私は大歓迎だけど」
2人同時ってのは何度もあるけど、2人同時に初めてをってのは初体験だよ。楽しみでしょうがない。
「え、えっちですっ……!!」
エメリアがぼそりと呟く。でもエメリア、あれこれ想像しているのが丸わかりなんだけど。ほんと頭がピンク色な子だ。
「……え、えっと、つまり2人はまだ初カノ期間中ってことでいいの……?」
ようやっと混乱から立ち直ったルカが、思い出したように2人に質問をする。
「そ、そうですわね……まぁわたくし達は3ヵ月も初カノ期間は取らないですけど。だいたい2週間くらいを考えてますわ」
あ、最長3ヵ月ってだけで、期間はそれ以内ならどの長さでもいいのね。
「ですから、アンリエッタ様の次の彼女はルカさんがよろしいかと~」
「そうですね。私はまだ知り合ったばかりですし、付き合いの長さを考えるとルカさんがいいと思います」
シンシアとマリアンヌがそれぞれルカを次の彼女に推してくる。
「え、そ、そう? わ、悪いねぇ~」
そう言いながらも、喜びが隠せていないぞ? ルカ。
「じゃあ、ルカ、付き合おっか」
「うんっ!!! あ、でも1つワガママを聞いてほしいんだけど……」
喜色満面と言った感じのルカが、もじもじと手を後ろで組んでいる。
「ワガママ?」
「う、うん……その、改めて告白して欲しいんだよね……その、王子様風っていうか、跪いて、その……」
ああ、なるほど。ルカの中で私は王子様なんだっけ。しょうがない、彼女のいう望みなら叶えてあげましょう。
「わかったわ。ルカ」
私はルカの前に片膝をついてルカを見上げ――
「ルカ、私と付き合って」
――そっと手を取りみんなの前で告白をした。
「は、はいっ!! 喜んでっ!!」
それに応えるルカの顔は、乙女そのもので――猛烈に可愛かった。
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