第63話 初めての夜
「いやぁ……今日は色々あった一日だったわ……」
肝試しに出たら何故か彼女が増えるという謎な出来事を終えて、私はエメリアと一緒に部屋に戻ってきていた。
「あ~も~。汗でベトベト……お風呂入ろっかな」
「じゃあ、今入れますね」
「ありがと。……じゃあ一緒に入ろっか」
いつもの軽口のつもりでお風呂に誘ってみると――
「はい……わかりました。お背中を流させていただきます」
「えっ」
オッケーされた。え、マジで?
「い、いいの?」
「だって、先ほどみんなの前でおっしゃって下さいましたよね。私のことを嫁にすると」
「うん。だって私と結婚して欲しいと思ってるし」
私はきっぱりと言い切った。
「公言して頂いて、凄く嬉しくて……。で、その、よ、嫁なら2人っきりでお風呂に入るのも当然かな、と思った次第でして……」
顔を赤らめながら、いじらしいことを言ってきた。
可愛い。可愛すぎる。この可愛い子が私の嫁なのか。
私はそのあまりの可愛さに、もう我慢することができなかった。
「じゃ、じゃあ、一緒に入ろっか……」
「は、はいっ……」
「それで、さ、お風呂から上がったら……」
「は、はいっ」
エメリアがゴクリと喉を鳴らしたのが分かった。
ゆっくりと近づいて、その体をぎゅっと抱きしめる。
「あっ……」
「エメリアが欲しいんだけど……いいかな?」
「アンリエッタっ……」
私から求められたエメリアは――ゆっくりと目を閉じた。それが答えだった。
私達は何度も何度も口づけをかわし、そっと離れる。
「で、では……お風呂から上がりましたら、その」
「う、うん」
「お相手を務めさせていただきます……。で、でも私、初めてですので、粗相がありましたらすみません……」
恥ずかしさから、もう消え入りそうな声でぼそぼそと呟く。ほんと可愛い。
「大丈夫よ。私が全部してあげるから。私に任せてっ」
「お、お願いしますっ……」
私達の初めての夜は、そうして更けていったのだった――
「くぁ……眠い……」
「~♪」
朝の食堂で眠気をこらえるので精一杯の私に対して、同じく寝不足なはずのエメリアは物凄く上機嫌だった。
鼻歌まで歌いながら、大盛りの食事を平らげていく。
「エメリアどうしたの? なんか良いことでもあったの?」
「そうですわねぇ。何と言いますか、幸せオーラ満開って感じですわ」
ルカとクラリッサから質問されても、「えへへ~」と笑うだけだ。
「ああ、なるほど~。そういう事ですか~」
「シンシア? 分かりますの?」
不思議そうに首をかしげるクラリッサに、シンシアがニンマリと笑う。
「これはあれですね、『ゆうべはお楽しみでしたね』ってやつです。だって首元にキスマークが――」
「!?」
指摘されたエメリアがバッと首元を手で押さえる。
ち、違う!! これはっ!!
「――ありませんけど~。でも、えっちな子は見つかったようですね~」
「んなっ……!?」
そう、これはカマかけだったのだ。それにエメリアは見事に引っかかってしまったと言うわけだ。
「引っかかっちゃいましたね~」
「し、シンシアっ……!!」
「おめでとう。エメリアっ」
シンシアがにっこりと笑って友を祝福する。その祝福された友の方は見事に騙されたので、複雑そうな顔をしているけど。
しばらく間をおいて、ルカ、クラリッサ、そしてマリアンヌがその意味に気付く。
「ええええええええっ!?」
「ま、まぁっ!?」
「ふわぁ~~~」
「あうううっ……」
3人が大声をあげると、エメリアが更に恥ずかしそうにうつむいてしまう。
「そ、そっかぁ……ついにと言うかなんというか……」
「わたくしとしては、今までしてなかったことのほうが驚きですけどね……」
「い、いいなぁ~いいなぁ~~っ」
だって何て言うか、色々あったのよ! 色々と!! これでも我慢するの大変だったんだからね!?
「で、で!? どうだったの!? 初めては!?」
恋バナ大好きのルカがすごい勢いで食いついてくる。いや、朝からそういう話もどうかと思うんですけど!?
「え、えっと……とても優しくしていただきましたっ……」
エメリアの感想に黄色い声が上がる。
「も、もっと詳しくっ……!!」
「だ、ダメですっ……!! 恥ずかしいですからっ……!!」
食いすがるルカに、さすがにエメリアが回答を拒否する。
いや、それはそうよね。だって流石に恥ずかし――
「じゃ、じゃあ、首輪を付けていたかだけでも……!!」
「……つ、付けてましたっ」
それ言っちゃうんかーーーい!?
「へ、へぇ~~。そ、そうなんだぁ~」
ルカがニマニマとした顔で私を見てくる。
だ、だってどうしてもエメリアがそうしたいって言ったんだもの!! 私がそうしたいって言ったんじゃないのよ!?
……まぁ確かに興奮したけど。
「いやぁ~仲が良くてなによりですわ。それじゃあエメリア?」
一連の話を聞いてうんうんと頷きながら、クラリッサがエメリアに微笑みかける。
「はい、なんでしょうクラリッサ様?」
「――元気な赤ちゃんを産むんですのよ?」
ぶーーっ!!
クラリッサのとんでもない角度からの言葉に、私は飲んでいた紅茶を吹きだした。
「ちょっ!? お行儀が悪くてよ!?」
「いやいやいや!? クラリッサこそハレンチだよ!?」
「どこがですの?」
クラリッサはきょとんとしている。
前にもこんなやりとりあった気がするけど、マジでこの子のハレンチの基準っておかしくない?
「百合子作りの術式は使ってないからね!? 子供は出来ないよ!?」
「えっ? 使ってませんの?」
何、その「なんで?」って目は?
「当たり前でしょ!? 早すぎるでしょ!!」
「そうですの? わたくしのお友達では、もうメイドの恋人に子供を産んでもらってる子も何人かいますけど」
「えっ」
何それ、この世界そんなに早いの? 日本でいう戦国時代並じゃない?
「ですね~。私の友達でも、恋人であるお嬢様の子供を1人目産んで、今お腹に2人目って子もいますね」
だから早すぎぃ!! ていうか朝から話が生々し過ぎるんですけど。
「へぇ~今の時代はそうなんですね。私が生きてる頃はもっとゆっくりな感じでしたけど」
そうよね!? 私の感覚変じゃないよね!?
「いや、貴族は早いって聞いたけど、実際そうなんだね」
「ルカ的にはどう思う?」
「う、う~ん、私は学生くらいの年ではまだ早いかなって思うよ」
「だ、だよね」
「でも、アンリが望むなら、私はいいけど……」
ルカは恥ずかしそうにじっと見つめてきた。いや、そのつもりはないぞ?
「と、とにかく……!! それはまだだから!!」
「そうなんですの……」
「あ、お嬢様、そろそろ私のことも食べてくれていいんですからね?」
どさくさ紛れにシンシアがとんでもないこと言ってるんだけど。
「か、考えさせていただきますわっ……」
「は~い。楽しみにしてますね~」
そうこうしているうちに、1時限目の授業の時間が近づいてきた。
「そろそろ行かないと、遅刻するよ」
「そうですわね、急ぎませんと」
「私は今日から用務員のお仕事がんばります!」
「頑張ってね」
「あ、お嬢様、ちょっと」
席を立った私の側に、すすすっとエメリアが近づいてきた。
みんなはもう急いで食堂を出るところだ。
「何? エメリア急がないと――」
「――今夜も、可愛がってくださいねっ――」
私を追い抜きざまに、そう耳元で甘くささやいてきた――
――おかげで今日の授業は全く集中できなかった。夜が待ち遠しくて仕方なかったのだ。
なお、明日はお休みの日だったので、1日中外出しないことを固く心に誓うのだった――
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