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第62話 嫁にする宣言

「それにしても……肝試しに行って新しい彼女候補ができるなんて、想定してませんでしたわ」

「ほんとにね」

「私だって、まさか人間相手に一目惚れするなんて思いませんでしたよ」


 マリアンヌがふわふわと浮かびながら私の周りを漂っている。


 私達は森から寮に戻った後、談話室に集まっていた。

 肝試し出発時の5人に加えて幽霊のマリアンヌと、相談のため来てもらったアリーゼ先生とで、今後の対応について話し合いをするためだ。


「いやはや……アンリエッタさんの魔力は、とにかく女の子を惹きつけるって分かってはいましたが……まさか幽霊の女の子まで魅了するとは」


 アリーゼ先生が褒めているような、呆れるような複雑な表情をする。


「とは言え幽霊も魔力で構成された人間のようなものなので、むしろ人間より魔力に惹きつけられるのは当然かもなんですけど」

「あ、でもでも、魔力だけに魅了されたわけじゃないんですよ? 何と言いますか、こう、物凄く好みの子だったんです」

「好みって、どれくらい?」


 まだ若干怖がっている様子のルカだけど、大好きな恋バナには即座に食いついてきた。


「そうですねぇ……肉体があったらアンリエッタの子供を産みたい、って思えるくらいタイプです」


 頬を染めながらも、大胆過ぎる告白をされてしまった。


「ほ、ほほ~。それはそれは……あ、もちろん私もアンリの赤ちゃんならいくらでも欲しいなっ」

「わ、私だってお嬢様の赤ちゃんを産みたいと思ってます!!」

「わたくしは……その、求められたら産んであげてもよろしくてよっ……!」

「私もですよ~。あ、でも私の場合はお嬢様との赤ちゃんと交互になりそうですけど~」


 4人も負けじとアピールをしてくる。

 改めて赤ちゃんが欲しいとか言われると照れるんだけど。


「あなたたち4人ともアンリエッタさんのハーレムメンバーなの?」


 流石にこの時期で4人もハーレムに入れているのに驚いたのか、先生が尋ねてきた。


「ですね。この子達はみんな私の嫁にします」


 私からの嫁にする宣言で、4人がそれぞれに幸せそうな顔をする。

 エメリアなんてみんなの目が無ければ、直ぐにでもキスをしてきそうな程の雌の顔だ。


「わぁ~、いいな~いいなぁ~。私もハーレムに入りたいですっ」


 空を漂うスピードが一層増したマリアンヌが羨ましそうにしている。


「まぁ気持ちはわかるわ。私だってアンリエッタとの子供なら欲しいもの」

「「「「!?!?!?」」」」


 先生の爆弾発言で3人が椅子から転げ落ちた。なおシンシアはお茶を飲んでいた。


「ど、ど、ど、どういうことですの!?」

「先生!?」

「マジですか!?」

「それはそうでしょ。アンリエッタほどの魔力を持った子よ? 魔術を研究する者としてはその魔力をこの身に結びつけて直接味わいたいし、子供だって欲しいに決まってるわ」


 平然とした顔で言ってのける。やっぱりこの先生もどこかネジが外れてるよ。

 でも私をベッドに誘ってきたことは黙ってくれるようだ。よかった。


「は、はぁ……そう言うものなんでしょうか……」

「そういうものよ。まぁ私の場合はそれだけじゃなくて女としても興味は尽きないんだけどね」

「お、女として……!!」

「ところで、先生がハーレムに入った場合って、やっぱり先生の奥さんのテッサ先生も当然ハーレム入りですか~?」


 のんびりとお茶を飲んでいたシンシアがそこに言及してくる。自分たちと似たケースだし、そこは聞いておきたいんだろう。


「その場合は当然そうなるわね。まぁ私がハーレム入りするかどうかは現時点ではわからないんだけど。入るのもありかな、くらいな感じよ」

「そうなんですか……」

「まぁそれは置いといて、今優先するのはこのマリアンヌさんのことでしょ?」


 そうだった。まずはそっちが優先だ。


「え~っと、マリアンヌの扱いとしてはどうなるんでしょう?」

「そうねぇ、別に幽霊の1人や2人、学園にいても構わないんだけど」


 構わないのか。おおらかすぎるなユリティウス。


「でも、生徒としては扱えないわよ? 試験を通ったものだけを生徒とする、これはユリティウスの絶対の決まりだから」

「それはそうですね」

「そういうわけだから、学園内のお仕事とかをして貰う用務員的な扱いならいいんじゃないかしら? アンリエッタさんと契約すれば実体化はできるはずだし」


 幽霊の用務員さん。なかなか面白い響きだ。

 契約の件も、まぁ私の魔力容量なら問題ないだろう、とのことだった。


「じゃあ、私この学園に住んでいいんですか!?」

「私から校長にかけあっておくから、明日にでも部屋を用意してもらうわ」

「ありがとうございますっ!!」


 私とマリアンヌが先生に頭を下げる。


「先生、すみません」

「いいのよ、他ならぬアンリエッタの頼みだし」


 ぱちっとウインクをしてきた。ううむ、大人の女性ってのもやっぱりいいなぁ。


「ところで先生、幽霊の受肉ってどうやるんでしょう」

「う~~ん、受肉ねぇ……死霊魔術自体は別に禁術ってわけでもなんでもないし……ただとんでもなく人気のない分野だから誰も研究してないのよねぇ」


 そんなに不人気なのか。需要はありそうなものだけど。


「私も調べてはみるけど、専門外だしあんまり期待しないでね?」

「わかりました。私の方でも調べてみます」

「アンリエッタさんならできるかもね。失われた魔術を蘇らせることも」


 先生が肩をポンと叩いてくる。


「ま、気長にやりなさい。幽霊の寿命は無限と言われてるから、アンリエッタさんならそのうちたどり着けるでしょう」

「受肉出来たら私、アンリエッタの赤ちゃんが欲しいです!!」


 喜色満面と言った感じのマリアンヌは、私に抱きつこうとして勢い余って私をすり抜け、隣に座っているルカまですり抜ける。


「きゃぁぁぁぁっっ!!」


 いまだに慣れないのか、可愛い悲鳴を上げてルカが再び椅子から転げ落ちる。


「あ、ごめんさない……」

「も、もう!! 気を付けてよね!? まだ怖いものは怖いんだから!!」


 ルカが涙目になってる。これは慣れるまでだいぶかかりそうね。


「いい年してルカさん、ほんと怖がりですよね~」


 プククと手を口に当ててシンシアが笑う。これは今後もこのネタでからかう気だな?


「しょうがないでしょ!? いくつになっても怖いものは怖いんだって!!」


 まぁそれはそうなんだけど。


「……あれ? そう言えば幽霊の寿命って無限なんだよね?」

「そうですけど」


 マリアンヌがふわりと私の前に躍り出る。


「マリアンヌ、今何歳?」

「…………」


 マリアンヌは微笑んだまま、何も答えてくれなかったのだった――


お読みいただき、ありがとうございますっ!!

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