第58話 しんしぁぁ~~覚えてろよ~~
【第58話を全面改訂してあげ直しました】
暗い森の中を、私達はカンテラの灯りだけを頼りに歩いている――
「ああっ、こ、怖いですっ……お嬢様っ……」
私の右腕にはエメリアがギュッとしがみついている。
それにより、エメリアのたわわが力いっぱい押し付けられてきて、私はもう夢見心地だった。
「エメリアは怖がりですのねっ……わ、わたくしはぜんっぜん平気ですわっ……」
そう言いながらも私の左腕にはクラリッサがしがみついている。
それによりクラリッサのまな板が力いっぱい押し付けられてきて、これはこれでアリだった。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
耳元からは、ルカの荒い息遣いが聞こえてくる。
私に後ろからしがみ付いて腰に手を回しているルカは、恐怖のあまり声も出ないようで、時折歯が打ち鳴らされるカチカチと言う音まで聞こえてきていた。
背中に押し付けられている控え目な膨らみからも、体の震えが伝わってくる。
「皆さん怖がりですね~。そんなに怖いですかぁ~?」
一人カンテラを持って先頭を歩くシンシアが振り返りながら訪ねる。
その際わざとカンテラを首の下あたりに持ってきたので、暗闇にぼぉっとシンシアの顔だけが浮かび上がり――
「きゃぁーーーーーーーーっ!!」
「いやぁぁぁぁぁーーーー!!」
両脇の2人が甲高い悲鳴をあげ腕にしがみついてくる。うぉぉ、た、たまらんっっ。
「ああっ……お嬢様、エメリア……可愛い……最高ですっ……はぁはぁ……」
自分のお嬢様と友達が怖がる姿を見て、シンシアはうっとりとしていた。本当につくづくいい性格をしているメイドだ。
そして私の後ろにしがみついているルカはと言うと。
「……………………」
「ぐ、ぐえっ……る、ルカ……お、折れるっ」
あまりの恐怖に声も出ないのか、ただただ無言で私の腰に回した手に力を込める。
スポーツで鍛えているだけあって物凄い力だ。私をへし折る気か。
「うふふふ……こういうルカさんも新鮮でいいですねぇ~」
「し……しんしぁぁ~~覚えてろよ~~」
目に涙を浮かべて何とか言葉を絞り出したルカを、シンシアはこれまたうっとりとした顔で眺めている。
やっぱりこの子、真正のドSである。
「それにしてもアンリエッタ様、両手に花どころか背中にも花ですねぇ」
「その背中の花にへし折られそうなんだけど……る、ルカっ……落ち着いてっ……怖くないからっ」
ギリギリと締め付けてくる腕の力はぐんぐん増してくる。
「ルカっ……私が付いてるから……ねっ? ねっ?」
命の危機を感じて必死でなだめると、落ち着いてきたのか徐々に力は緩んできて――
「あ、アンリぃ……シンシアがいじめるっ……」
「…………」
――耳元にルカの艶めいた涙声が響いた。
……これはシンシアの気持ちもわかる。確かにこれはたまらない。
ぐっと親指をあげると、シンシアからも同じポーズが返ってきた。
――ところで、どうしてこんな暗い森の中を私達が歩いているのか、その理由は2時間ほど前にさかのぼる――
「――肝試し?」
「ええ、この季節ですし、いかがかなと思いまして~」
食堂で私達が晩御飯を食べていると、シンシアがそう提案してきた。
「肝試しって、あの肝試しなの?」
「あの、と言うのがよくわかりませんが、怖いところにみんなで行って恐怖を味わうアレです」
この世界にもそんな行事があったのか……もしかしてこれも、私の他にいるかもしれない転生者が広めたりしたんだろうか。
「肝試し……懐かしいですわね。子供の頃にやったきりですわ」
「ですね、私も子供の頃、お嬢様と夜の森へ肝試しに行ったことがあります……あれは怖かったです」
え? そんな美味しいイベントがあったのか。覚えてないのが本当に悔やまれる。
でも今それができるなら、乗らない手はないよね。
「いいねぇ、じゃあ今夜にでもみんなで肝試しに――」
「だ、だめっ!!! そんなの絶対ダメッ!!!」
私が賛成しようとしたところで、隣にいたルカが猛反対してきた。
「反対! 反対!! 肝試しなんかよりも、夏っぽいことなら花火とか色々あるでしょ!?」
「る、ルカ?」
あまりの剣幕に皆がおもわずたじろぐ。
「ほ、ほら、だから肝試しなんてやらないで、もっと楽しいことをしようよ!」
だがそんなルカの反応を待ってましたとばかりに、シンシアがニンマリと笑う。
「あれ~? ルカさん、もしかして、怖いのダメなんですか~?」
ぷくくっと手を口に当てて笑う。あ、さてはこの子、どこかでルカが怖いの苦手だって情報を仕入れてきたな?
どうもシンシアは好きな子にイタズラしたくなる趣味があるみたいで、ルカがカノ友になるとわかってからはちょくちょくちょっかいを出してきていた。
実は結構気になっているらしい。
「あら? 意外ですわね。ルカにも怖いものがあったんですわね」
「そうですね。けっこう可愛いところもあるんですね」
クラリッサとエメリアもくすくすと笑っている。でもそう言う2人も心なしか青ざめているような……
「そ、そんなんじゃないし!? ぜんっぜんそんなことないし!?」
どう見ても強がりなのはその声で分かった。完全に震えているし。
「ええ~? そうですかぁ~? 怖いなら怖いってはっきり言ったほうがいいですよ~? 私としても肝試しが怖い人を無理やり参加させるつもりもないですし~」
「怖くなんかないってば!!」
「じゃ、参加でいいですね?」
「うっ……!!」
シンシアからずばりと言われてルカが固まる。
「そ、それは……」
「ルカさん? 怖かったら参加しなくてもいいんですよ?」
「そうですわ。誰にだって怖いものはありますからね」
「だ、だから怖くなんて……!!」
ルカがプルプルと足まで震えている。どうみても怖がってるでしょ。
「あ~でも残念ですね~。肝試しなら好きな人にいくらでもくっつけるんですけど~」
「あっ……!」
ルカが「その手があったか!」みたいな顔をした。
「ねえエメリア? 初カノ期間中でアンリエッタ様に接触できなくても、肝試しなら仕方ありませんよね? 暗い森ではぐれたりしたら危険ですし」
シンシアがエメリアにウインクしてその意図を伝える。
「そうですね~。肝試しならお嬢様にくっついても仕方ありませんよね」
意図を察したエメリアがすかさず連携プレイを取る。この子もなかなかやるようになったわね。
「ですわね! 暗い森を歩くならくっついても仕方ありませんわね!! ちなみにわたくしは喜んで参加いたしますわ!!」
クラリッサも乗ってくる。まぁこの子の場合、私にくっ付きたいだけの気もするけど。
「私もお嬢様が参加するなら当然参加です」
「言い出しっぺの私は勿論参加します~。いやぁ~アンリエッタ様にくっ付けるチャンスなんてまだまだ先ですからね~」
エメリア、シンシアが参加を表明して、残るはルカだけになった。
「あ……あああ……」
「さ、どうします? ル・カ・さん?」
恐怖と、私への接触を天秤にかけて揺らぐルカを、シンシアがニマニマと笑いながら追いつめる。
「……いくっ」
「え? 聞こえませんよ~?」
「私も行くっ……!! い、いやぁ~~実は私、肝試し大好きなんだよねっ……!!」
震えながら強がるルカを見て、シンシアは心底嬉しそうに笑っていた。いい空気吸ってるなぁこの子。
そういうわけで、私達は暗い暗~い森の中に皆で来ていると言うわけなのだった――
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