第54話 改めてやばい薬である
「うぁ~、そこそこ、そこですわ~。ああ~気持ちいいですわ~」
「ここですか~? ここがいいんですか~?」
「そうそこ~。もう最高ですわ~」
「あ、あの、クラリッサ様、私の体でそういう声出されると、その、困るんですけど……」
クラリッサの姿したエメリアが、エメリアの姿をしたクラリッサに苦情を入れている。
「これは……えっちね」
「えっちだねぇ」
「も、もうっ!! お2人共っ!」
ルカの姿をした私と、私の姿をしたルカが怒られた。
「いや~でも入れ替わるなんて、ほんと凄いですねぇ」
シンシアが改めて今の状態に驚いていた。
そう、私達は魔法薬学の授業で入れ替わって、その効果がまだ切れていない状態で寮の談話室にいる、と言うわけなのである。
「だって仕方ありませんわ。この体、凄く肩がこってるんですもの」
「ですね~これは揉みがいがありますよ~」
そして、エメリアの体に入れ替わったままのクラリッサは、シンシアから肩を揉んでもらっていた。
「アンリエッタも、エメリアの肩くらい揉んであげるといいですわよ? わたくしもシンシアの肩は揉んであげてますし」
「お嬢様って揉むの凄く上手いんですよ~。まさにテクニシャンって感じです」
その言い方は色々と誤解を招きそうだけど。でもシンシアの場合わざとそう言う感じで言ってそうなんだよね。
でも確かに私はエメリアからお世話をして貰ってばっかりで、私からはほとんどしてあげてなかったことに気が付いた。
「確かにそうね、これからは気を付ける。改めてどれだけ肩がこっていたのか今回の件で良くわかったし」
ルカの体になってもう肩が軽いこと軽いこと。いつもエメリアに肩は揉んでもらってはいたけれど、それでもこっていたようだ。
「ちょっと、アンリ? それどういうこと?」
「え、あ、それは……」
ルカがぶーっとした顔を向けてくる。
「いや、ルカにはルカの良さがあるよ、私は好きだなぁこの大きさも」
「え、えへへ、そう?」
実に単純である。
「それで、あと何時間くらいで元に戻るんだっけ?」
「ん~。あと5時間くらいかなぁ」
「そんなに……寝る前には戻るけど、ご飯とかお風呂とかこの体のままでしないとね……あ」
「どうしたの?」
ルカが顔を赤くしている。正確には私の体をしたルカが、だけど。
「…………と、トイレとか……どうしよう」
「あっ」
それを聞いたシンシア以外が固まる。
「ど、どどど、どうするんですの!?」
「どうすると言われても、どうにもならないのでは!?」
「なんで6時間も入れ替わったままなのさぁ!?」
「この薬は時間調整が難しいとか先生言ってた……短時間の入れ替えはできないとかなんとか」
「うわぁ~これは凄い欠陥ですねぇ」
シンシアの言う通り、とんでもない欠陥のある薬だ。要改善すぎる。
「………………お互い、そのことは記憶から抹消しましょう。いいですわね、エメリア?」
「そうしましょう……クラリッサ様も、お願いしますね?」
入れ替わった2人がお互いに協定を結ぶ。今頃他のクラスメートたちもこの問題にぶち当たっていることなんだろうなぁ……改めてやばい薬であることを実感した。
「あ、でも私は別に――」
「忘れて。頼むから」
ルカの肩を掴んで念押しする。流石に恥ずかしすぎるわ。
そういうプレイも無くはないとは言うけど、私はしたことないし。その辺私はノーマルである。
「――それはそうと、私はどちらの体を洗えばいいんですか?」
しばしの沈黙を、シンシアの声が打ち破った。
「え? 洗う?」
「どういうことですか?」
ルカとエメリアが聞き返す。そっか、2人共も知らないんだっけ。
「いえ、私いつもお嬢様のお体をお風呂で洗って差し上げてるんですけど。でも今のお嬢様はエメリアの体なわけで、どっちを洗うのかなと」
「えっ」
「そうですわね、じゃあいつも通りわたくしを洗ってもらいますわ」
「わかりました。いつもと違った体を洗うってのも楽しそうですね」
「いやいやいや!? ちょっと待ってください!!」
自分の体を他人に洗われると聞いて、エメリアが待ったをかける。
「どうしたんですの?」
「い、いや、その、メイドとしてはお嬢様の体を洗うことも、そこまで変ではないんですけど……でもその体は私のでして……」
「それもそうですわね」
「ですよね! ですからクラリッサ様のことは私が洗――」
「じゃあシンシア、2人共洗ってもらえるかしら?」
「はい、喜んで。お嬢様」
「!?!?!?」
エメリアが固まる。私とルカは笑いをこらえるので精一杯だ。
「大丈夫よエメリア。私、お嬢様の体は洗い慣れてるから」
「い、いやそう言う問題では……」
「私が隅々まで綺麗にしてあげるからね~」
「じ、自分で洗えるから!! 大丈夫っ!!」
「まぁまぁ遠慮しないで、私に全て身を任せればいいんだよ~」
そのまましばらく押し問答を続けていた2人だったけど、押しの強いシンシア相手では、エメリアに勝ち目はなかったのだった。
「ううう……じゃあ頼むね……」
「任せて! ピッカピカにしてあげるからね~」
友達に体を洗われることが決まり、エメリアが恥ずかしそうにしている。
とはいえその体はクラリッサのもので、素直に恥ずかしがるクラリッサなどそうそう見れるものではないから、これはなかなかに良きものだった。
「お嬢様ぁ~」
エメリアが悩まし気な目で見てくるけど、これもまた経験だ。私は黙ってぐっと親指を立てる。
「ところでアンリ、私達はどうする?」
「う、う~ん……」
流石に洗いっこをするのは恥ずかしいけど、それでも別々に入ったら何かそれはそれで恥ずかしい気もする……
「じゃあいっそのこと、みんなで大浴場に行きませんか? 私はお2人を洗うことに変わりありませんけど」
しばらく悩んでいた私にシンシアが提案してきた。
「やっぱり、それが一番かもね」
「だと思いますよ? 今日は他のクラスメートの方々も部屋のお風呂じゃなくて、大浴場を使うんじゃないですかね~」
シンシアの言った通り、大浴場には入れ替わったクラスメートたちがほとんどやってきていた。
まぁこうなるよねぇ、と私達は頷きつつみんなでお風呂に入ったのだった――
――なお後日談として、入れ替わったクラスメートの子達同士で、カップルが何組か成立したとのことらしい。
こんな体験すれば、そうなる子達がいてもおかしくはないよねと思ったものである。




