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第53話 入れ替わってるっ!?

 ぐつぐつと煮える魔力鍋から、やばげな匂いが漂っている。

 その匂いは教室中に充満し、あちこちから「いやだぁ~」とか「お助けぇ~」とかの悲鳴まで聞こえてきていた。


「うぅぅ……今からこれを飲むのかぁ」


 今は魔法薬学の授業中で、例によってアレな薬を調合していた。見た目は目にも鮮やかな泡立つエメラルドグリーン、匂いも相まってとても飲みたくない。


「よし、みんなできたみたいだね」


 先生がうんうんと頷く。


「あの、先生、この『入れ替わり薬』ってマジなんですか?」

「マジも何も、これから飲んでその効果を確かめるんでしょ」


 まぁそうなんだけど。今までも若返り薬とか背が伸びるとかいろいろあったけど、あくまで自分にだけ効果があるもので、他者にまで効果のある薬は初めてなのだ。


「じゃあ早速飲んでみようか。ただこれは入れ替わるという性質上、入れ替わりたい相手と同タイミングで飲む必要があるから、順番に行くよ」

「え、じゃあみんなで一気に飲んだりするとどうなるんですか?」

「いい質問だね。ある程度距離が近くの薬を飲んだ相手と魂を入れ替えるから……当然シャッフルになるかな。そっちがいい?」


 全員が首を振る。それはそうだ。誰もそんな闇鍋みたいなことやりたくない。


「ま、それはそれで面白そうではあるけど、ここはまずは2人ずつからいこう」


 まずってなんだ、まずって。


「じゃあ、まずは……アンリエッタからかな、では、アンリエッタと入れ替わりたい人、挙手を――」


 先生が言い終わるか言い終わらないかのうちに、クラスのほとんどの子が手を挙げた。


「えっ」


 何これどういうこと?


「アンリ、私と入れ替わろうよ!!」

「いえいえ、ここはお嬢様のメイドである私が!!」

「ここは1位2位を争うライバルであるわたくしが順当ではなくって?」


 仲良しの3人の他にも大勢が我も我もとアピールをしてくる。


「あ、あの、この状況は一体……」

「あ~まぁ無理もないよね。アンリエッタくらい魔力の強い子と入れ替わるなんて、魔術師志望なら一度は経験してみたいだろうし。……何人かはよこしまな理由で立候補してそうだけど」


「よ、よこしまな理由なんてとんでもありませんわ!! わ、わたくしはただ、アンリちゃんの体ってどんなものなのかなって気になるだけですし!!」


 おいこら、語るに落ちてるんですけど。


「私は純粋に、アンリと入れ替わるなら私がいいなって思っただけだよ」

「私だってお嬢様と入れ替わりたいですっ!! お嬢様に私の体を知っていただきたいですから!!」


 いや、エメリアのその言い回しは誤解を生むよ? いやまぁ付き合っているってことはクラスの皆が知っているんだけど。

 そしてみんながワイワイ主張して、全く収拾が付かない状態になってしまった。


「あ~もう、きりがないから、ここはくじで公正に決めるぞ~」


 先生がなんかちまちま作業をしていると思ったら、なんかあみだくじをつくっていたらしい。


「は~い、では、やるよ~」


 そしてあみだの結果、当たりを引いたのは。


「やったぁぁぁぁ!! 私だぁぁぁ!!」

「くっ……!! 残念ですわっ……!!」

「うううっ……負けましたっ」


 ルカだった。エメリアとクラリッサががっくりとうなだれ、他にも外した子達が残念がっている。

 そっか、ルカと入れ替わるのか。


「えへへ~じゃあ、いこっか」


 いそいそと教壇の方に向かうルカを追いかけ、あらかじめ先生が書いてあった魔法陣の上に乗って、先生からの合図を待つ。


「よし、じゃあ私が呪文で補助して成功率を高めるから、魔法陣が発光したら飲んでね」


 そう言って先生が呪文を唱えていくと、言った通りに魔法陣が光を帯びていく。


「よしっ……じゃあ、いくよっ」

「う、うんっ」


 お互い目配せをして、ひどい匂いのする液体を一気に飲み干す。

 すると視界が暗転し、気が付くと……目の前に私がいた。


「おおお……」

「これは……」

「「私たち、入れ替わってるっ!?」」

「よし、成功だね」


 先生がうんうんと頷く。


「本当に入れ替わるなんて……すごいわ」

「そりゃそうでしょ、そのための入れ替わり薬なんだし」


 先生が近づいてきて、体をさわさわと触ってくる。


「え、あ、ちょっと」

「いや、確認確認、変なことはしないから安心して」


 そう言いながら手を持ち上げさせたり、片足を上げたりして何やら確認してメモを取っている。


「よし、おっけー。効果は6時間に設定してあるから、次行ってみよう」


 先生から脇に移動するよう促され、2人で移動する。

 効果時間意外と長いんですけど。


「いやぁ、目の前に私がいるなんて、ホント変な気分よ」

「それは私もだよ。ところでさ、やっぱり重いんだねぇ」


 私の姿をしたルカが、私のお胸を下から支えてゆさゆさと揺らす。


「うはは、ほんとに重たっ。アンリこんなので毎日大変じゃない?」

「ちょっ、こらっ、揺らさないのっ」

「いいなぁ~私のじゃ絶対こんなことできないもん」

「だ、だからやめいと言うにっ」


 クラスメイトの視線が集まっているのを感じる。エメリアには遠く及ばないものの、改めて見てもでかい。


「まぁでも確かに肩回りとか楽かも」


 ぐるぐると肩を回す。


「イヤミかっ」


 ルカがむくれる。だってルカのサイズは……まぁそれなりだし。

 しかし重りが無いだけでこんなに快適なのか。今までどれだけ肩に負担がかかっていたかを実感する。

 でも私でこれなら、エメリアとかどんだけなんだ――


「お、重いですわっ……!! エメリア、こんな重いの、よく平気ですわねっ」


 エメリアの声が聞こえたので振り返ると、エメリアとクラリッサが並んで立っていた。


「ちょっ!!! クラリッサ様!? そんな大声でっ!?」


 クラリッサが慌てている。という事は、次はこの2人が入れ替わったのね。


「あ、でもなんでしょう、凄く軽快な気分です……」

「イヤミですのっ!?」


 私とルカの比じゃないものね。この2人って。

 しかし先生もなかなかの組み合わせをするなぁとか思いながら、入れ替わったルカ――体は私だけど――やクラリッサ、エメリアを眺めるのだった――



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