第48話 デートをしましょう
「デートをしましょう!!」
放課後、部屋に帰るなりそう宣言された。
「デート?」
「そうです! デートです! だって私達彼女と彼女になったんですよ? じゃあデートをしないとです!」
「いや結構お出かけとかはしたでしょ?」
「そ、そうなんですけどっ……町でお買い物とかの、いかにもデートらしいデートがまだですし……」
そういえば付き合ってからも領地では部屋でイチャイチャしたり、庭でイチャイチャしたり、近くの池でイチャイチャしたりはしたけど、街にお出かけしたことは無かった。
「それもそうね。じゃあ、キマーシュの町にでも行く?」
「はいっ!! 私、行きたいところがあるんです」
エメリアがこういう主張をするのは珍しい。どんなとこだろう。
「えっとですね、何でも凄く流行っている喫茶店があるらしいんですよ」
「喫茶店」
たぶんそれ私の知り合いがやってる店のような。
「なんでも可愛いメイドさんの格好をした女給さんたちが働いているとかで、それはもう大人気らしいです」
やっぱりモニカの経営してるとこだった。
「え? でもエメリアっていわゆる本職なわけじゃない? それでもそういうのって興味あるの?」
「それはまぁ、何と言いますか、同じメイドだからこそ気になると言いますか。本職では気づかないことがあるかもしれない、と思いまして」
このへん職業意識が高いんだよね。エメリアって。
「勉強のため?」
「勉強半分、興味半分ですね。単純にメイドさんが好きってのもあります」
「そっか、じゃあメイド服に着替えてから行くの?」
メイドさんのお店に本職メイドさんの殴り込み、というわけだろうか。
「え!? い、いえ、それは制服で行きますっ」
制服? なんでまた制服で。
「え~メイド服可愛いのに」
「だ、だってっ……」
「だって?」
「……アンリエッタと制服デートがしたいんですっ」
私の彼女、可愛すぎない?
「制服デートかぁ、それもいいね」
「は、はいっ! いいと思います!」
「じゃあ、ほらっ」
私がひじを差し出すと、それに喜んで腕を絡めてきた。
「えへへ……」
「じゃあキマーシュの町へレッツゴー!」
それから町に着くまでエメリアはず~っと私に腕を絡めたままて、それはもうムニュムニュのムニュムニュで堪らない感触だった。
「ふわ~ここですかぁ~」
「そうみたいね」
社長のモニカから話は聞いていたけど実際に来るのは初めてだった。
「凄く混んでますねぇ」
大きな外観のお店の入り口からは長蛇の列が並び、その最後尾に私達も並ぶ。
しばらく待って、ようやく私達の番が来た。
「お帰りなさいませっ。お嬢様っ」
「う、うわぁ~メイドさんがいっぱいですよ! いいですねぇ~」
あなたもメイドだけどね?
そして私達は店員さんに案内されて席に着く。
「アンリエッタお嬢様ですよね? 実は今日、社長が視察に来てるんですよ。すぐご挨拶に来るとのことです」
席についてメニューを見ていると案内してくれた店員さんが知らせてきた。
「あ、モニカ来てるんだ」
「モニカ……?」
エメリアが首をかしげていると、そこになぜかミニスカメイド服姿のモニカがスタスタと近づいてきた。
「やぁアンリエッタ! 来てくれたんだ! 嬉しいよ!」
「うん。せっかくだし一度来てみたいと思ってたから。それはそうと何でメイド服なの?」
「え? いや、だってこの服可愛いし、ここなら着てても目立たないし……」
やや恥じらいながらもついとスカートの裾をつまんで可愛いポーズをとる。
あんなに恥ずかしがっていたのに、どうやらメイド服姿でいることに快感を覚えるようになったらしい。まぁそもそも大のメイド好きだしね。
私とモニカがそんな感じで話をしていると、エメリアが不思議そうな顔をしていた。
「あの、お嬢様? こちらの方は……?」
「ああ、エメリアは面識なかったっけ。こちらモニカ、このお店のオーナーよ」
「モニカです。えと、よろしく」
「あ、はい、どうも。エメリアと申します……」
2人がややぎこちなく挨拶をする。
「アンリエッタ、こちらのお嬢様が……?」
「そ、私の初カノよ」
引っ付いたままのエメリアを抱き寄せると、本当に幸せそうな顔をした。
「は、はいっ、彼女ですっ」
「そうなんだ。可愛い彼女さんね。確か本職のメイドさんなのよね?」
「そうです。お嬢様の専属メイドをさせていただいてます」
「で、この前仕立ててもらった服を着せたのがこの子よ」
「ああ、どうりで。規格外のサイズだったけど、確かに納得ね」
モニカがエメリアのお胸辺りをじろじろと見る。
決していやらしいものではなく、あくまで職人目線でのものだったけど、それでもエメリアは恥ずかしかったのか胸を手で隠してしまう。
「や、やんっ……」
「こんな子にお世話されてるなんて、アンリエッタ羨ましすぎるんだけど」
「いいでしょ~。でも、この子は私だけのものだから、あげないわよ」
腰に回した手をさらに引き寄せ、ぴったりと密着する。
「お、お嬢様っ……」
「はいはい、ご馳走様。ところで今日はそのメイド服で着てくれなかったんだね。見たかったなぁ~」
「あ、メイド服お好きなんですか?」
「好き。大好き。メイド服もメイドさんも大好き。こんな店を出すくらいだからね」
メイド好きと聞いて、エメリアの顔が明るくなる。
「私もメイド大好きですっ! このお店も凄くいいと思います! 世の中の人にメイドの良さを広めているなんて、素晴らしいことです!!」
「おお、わかってくれたのね! 同士よ!!」
2人はがっちりと握手をする。同じ趣味同士、一気に打ち解けたようだ。
そしてしばらく雑談をした後「仕事だから、ゆっくりしていってね」と、モニカはテーブルから離れていった。
「ところでアンリエッタ、どこであの人と知り合ったんですか?」
モニカが去った後でエメリアが聞いてきた。
「えっとほら、前にみんなで仕立屋さんに行ったことあったでしょ?」
「ありましたけど、それが何か?」
「その時の店長さんがモニカよ。その時に知り合いになって、で、モニカは今社長さんってわけ」
「ふわ~。あのお店からこの短期間であそこまでの店舗展開を……凄い人なんですね」
その点はほんとに同意するわ。職人の腕もさることながら、経営手腕が凄過ぎる。
「それで、その……会ったりしてたんですか? モニカさんと」
あ、やっぱりその辺は気になるのね。まぁ会ったと言っても数回だけど。
とは言え将来的に付き合う予定だと言うのは、もう少し黙っておこう。
「え? あ、ああ、ほら、仲良くなってから新作とかを貰えるようになってね。あのブルマとか、スク水とか、ビキニとか」
「あっ……」
それを部屋で着てもらった時のことを思い出したのか、エメリアが顔を赤くする。
「いやぁ~可愛かったなぁ~あの時のエメリア」
「も、もうっ……アンリエッタのえっちっ……」
彼女になってからというもの、たびたびエメリアには異世界デザインの服を着てもらっていた。
そのたびに恥ずかしがるのが可愛くて、特にビキニを着せたときなんて最高なんてものじゃなかった。
『こ、こんなのっ……下着より布面積少ないじゃないですかぁっ!!』
なんて言いながら、うずくまって肌を隠してしまったのだ。
それを何とか説き伏せて、その恰好のまま部屋のお掃除とかをして貰った時は、それはもう言葉では言い表せないほどの極上の時間だった。
「これからも色んな服を着せてあげるからね?」
「ううっ……恥ずかしいですっ……」
「あれ? 着てくれないの?」
「……は、恥ずかしいですけどっ、アンリエッタが見たいなら、き、着ますっ」
いい子ねぇエメリアは。
「ほら、おいで」
「あっ……」
そして私達は注文の品が運ばれて来るまで、存分にイチャイチャして過ごしたのだった――




