第47話 私のことも可愛がってよね?
「ふぅ……ふぅ……危なかったわ……」
私はアリーゼ先生のお誘いからからくも逃れて、気付けばグラウンドのそばまで来ていた。
「いや、でも惜しかった気もするんだけどね……アリーゼ先生美人だし、正直狙ってるところでもあるのよね」
まぁ今回はあまりに急すぎたからお断りはしたけれど、そのうちゆっくりとお近づきになることにしよう。
そんなことを考えてテクテク歩いていると、そのアリーゼ先生の奥さんでもある魔法スポーツ担当のテッサ先生が立っていた。
「ん? アンリエッタ? こんなとこで何してるの? というか何でバスローブ姿なの?」
それはですね、あなたの奥さんから言い寄られて、何とか逃げ出してきたからなんですよ。とはとても言えない。
とは言えこの世界の倫理観的には全然ありなのかもしれないけど。複数彼女も当たり前なんだし。
そもそも浮気って概念さえあるのか疑問なところだ。
「あ、いえ、ちょっと……お、お風呂入った後考え事してたら、ふらふらっと出て来てしまいまして……は、はははは」
「そうなんだ」
我ながら苦しい言い訳だけど、テッサ先生はあんまり細かいことを気にしないタイプなのか、それで納得してくれたようだ。
「そう言うテッサ先生こそ何してたんですか?」
「私はヤキュー部の顧問もやってるからね、練習を見てたとこだよ」
私達がグラウンドの方を見ながら雑談をしていると、見知った顔が近づいてきた。
「あ、アンリ!! 何々? 私に会いに来てくれたの!?」
ルカだった。ユニフォーム姿でこちらに小走りで駆け寄ってくる。
「え、あ、そ、そんなとこかな?」
「やったぁ!! 見ててよね!! 私超がんばるから!!」
ぴょんぴょん跳ねて全身で喜びを表現している。可愛すぎる。
「おや? 2人はそういう関係なの?」
テッサ先生が聞いてくると、ルカが照れながら答える。
「えっと、まだそういう関係ではないんですけど……そのうち彼女にして貰う予定です。今は初カノの権利期間中なのでおあずけですけど」
「ま、まぁそんな感じでして」
「へぇ~アンリエッタさんモテるだろうからねぇ」
「い、いえそんなことは」
謙遜したけど、実際のところはかなりモテてる。クラスの子からもしょっちゅうデートとかご飯に誘われてるし、アリーゼ先生なんて私を食べようとしてきたくらいだし。
本人的には学術目的かもなんだけど、でもあの目はマジだったような。
「私も早くアンリと結婚したいなぁ~。で、子供達に囲まれて幸せに暮らすんだ~」
私にくっつきたいオーラ満開だけど、必死に我慢しているみたいだ。やっぱり初カノ権限って強いのね。
「そ、そんなに好きなんだ」
先生がちょっと驚いている。この年でここまで想っていたらそれはそうよね。
「はい! アンリは私の王子様ですから!!」
「私女の子!」
「まぁまぁそこはいいでしょ。さて、練習に戻ります! アンリ! 見ててね~」
ルカはそういうと物凄いスピードでグラウンドの方に走っていった。
「あはは……」
「子供かぁ、そこまで約束してるんだね」
「い、いえ、約束したわけではないんですけど……」
でも最終的にはそうなるだろう。ルカにはぜひ私の子供を産んでもらいたいと私も思っているし。
でも子供かぁ~。ちょうどいいから先生に聞いてみることにしよう。
「あの、先生はアリーゼ先生とご結婚なさっていて、お子さんもいらっしゃるんですよね?」
「そうだよ? それがどうかした?」
う~む、改めてだけど、ホントに女同士で結婚して子供を作るのが当たり前なのね。素晴らしきかなこの世界。
「いえ、その、良ければお2人の馴れ初めとか教えていただけないかな~と」
「え? そんなこと知りたいの?」
「は、はい、あの、私幼馴染メイドの子と付き合うことになったんですけど、私、女の子と付き合うって初めてで、その辺お聞きしたいなぁと」
ウソは言ってない。こっちでは付き合うのは初めてなんだし。
「そっか、まぁ最初は不安だよね。いいよ。教えてあげる」
「ありがとうございます!」
「でも、そう変わった話でもないよ? モテにモテていたアリーゼが、なぜか私のことを選んでくれたってだけのことで」
「アリーゼ先生、そんなにモテてたんですか?」
アリーゼ先生可愛いし、しかもユリティウスの講師になるくらいの魔術師だ。それはモテただろうけど。
「そりゃね~、彼女なんてより取りみどりで、それこそハーレムだって作れただろうに、なぜか私だけとしか付き合わなかったんだよね」
「そうなんですか」
「そ、何て言うかアリーゼは女の子の好みがうるさい子でね。そんななか私だけがアリーゼの好みにどストライクだったらしくて」
てへへと頭をかいている。実にご馳走様だ。
「そんなこんなで結婚しても、アリーゼは今まで他に彼女も作らなかったんだけど……でもアンリエッタ、あなたのことは気になってるみたい」
「私ですか?」
実際言い寄られたしね。危うくベッドインするとこだったし。
「あのアリーゼが女の子的に気に入る子なんてめったにないんだよ? これはほんと凄いことなんだから」
「はぁ」
「まぁアリーゼって研究者タイプだし、アンリエッタくらい魔力を持った子の子供なら産んでみたい、って思っても無理はないかなとは思うんだけど……」
「は!?」
子供!? そこまで考えていたの!?
「私的にも、そろそろアリーゼに2人目の奥さんがいてもいいころだと思うし、アンリエッタだったら私もオッケーかなぁ」
「えええ!? そ、そういうものなんですか!?」
「そりゃね、アリーゼの魔力もケタ外れだから私だけが奥さんってのもあれだし……あ、でも魔力量考えたらアリーゼがアンリエッタに嫁ぐ形になるのかな?」
そういうものなの? この世界の風習は未だに良くわからない。
「まぁ、まだ可能性の話だけどね~」
「そ、そうですね。可能性ですよね」
でも私から彼女になってくださいとお願いしたら先生は即オッケーしてくれそうだけど。たぶん。
そんなことをあれこれ考えていると――
「でも、もしそうなったら……私のことも可愛がってよね?」
先生が手を後ろで組んで照れ笑いをしながら、なんかとんでもないことを言い出したんだけど。
「えっ……?」
「いや、えっ、って。だって既婚者の片方を嫁にするとしたら、もう片方も嫁にするのは当然でしょ?」
そう言うものなの!? じゃあつまりアリーゼ先生を嫁にしたら自動的にテッサ先生も付いてくるってこと!? 何それ素晴らしすぎる。
「えっと、その、私あんまり詳しくないんですけど、奥さん同士で結婚してるって結構あるんですか?」
「ハーレムなら別に珍しくもないでしょ。元々既婚者の2人を嫁にすることもあるし、嫁にした後で仲良くなって嫁同士結婚する時もあるし」
それはもう関係が複雑すぎることになりそうだ。
「ま、既婚者を嫁にするってのはそういうことだから。そうなったとしたら2人とも愛するのが義務よ。わかった?」
「は、はい、わかりました!」
テッサ先生もアリーゼ先生に負けず劣らずの美人だしなぁ。願ってもないことだ。ぜひ2人ともハーレムに加わってもらおう。
「あ~でも、私は完全に『される方』だからいいけど、アリーゼはなぁ~。まぁその辺は話し合っており合いつけてよ」
先生はそれだけ言うと、「じゃね」とグラウンドの方へ戻っていった。
私はそんな先生の後姿を呆然と見送る。
何か思わぬ方向に話が転がったけど、つくづく凄い世界ねここ……
私は改めてそう思ったのだった。




