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第43話 これくらいならセーフよね?

「わ、私の子供……!? それってつまり……」


 そういうこと、よね。え、でもちょっといきなり過ぎてびっくりするんだけど。


「だ、だめ……かな……?」

「いや、ダメとかそういう問題じゃなくて、色々すっ飛ばしすぎというか……!!」


 モニカのことは好意的に思ってるけど、それにしてもまだ数回しか会ったことがないのだ。それで子供を作ると言うのはいくら何でも急すぎる。


「えっと、そういうことはもう少しお互いのことを知ってからの方がいいと思うんだけど。 一体どうしたの?」

「え、あ、その、ごめん。今すぐ子供が欲しいってわけじゃないんだ。ただ将来的にアンリエッタとの子供が産みたいというか……」

「そ、そうなんだ……」


 驚きはしたけど、あなたの子供が欲しいと言われて悪い気はしない。それが我が友モニカであるならなおさらだ。


「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、まずは事情を説明してくれない?」

「そ、そうだよね……あははは」


 モニカはそう言うと真っ赤な顔をしたまま紅茶を一口飲んだ。


「えっと、どこから説明したものかな……ほら、私って小さな店の店長だったじゃない?」

「そう、ね」

「それだったら問題なかったんだけど、凄く店が大きくなっちゃって……そうなると、ね、その……あ、後継ぎを考えないといけなくなっちゃって……」


 後継ぎ。それはつまり、店を継がせる子供ってことか。

 確かにこの時代では子供に家を継がせるのが当たり前って感じで、実際私も将来家を継ぐだろうし。


「後継ぎ……モニカ子供いるの?」

「いないよ!? それどころか彼女もいないし、今まで付き合ったこともないよ!!」

「そ、そうなんだ」

「だから問題でね……私に後継ぎを作れって周りからやいのやいの言われちゃって」


 まぁ確かにその手の問題はなるべく早く決めといたほうがいいだろうし。周りの反応も無理はない。


「お見合いとかもひっきりなしに持ち込まれてさ……もうまいっちゃって」


 それは今まで小さな店の店主だったのが今では大会社の社長なわけだし、そういうものなんだろう。


「でも、私……こ、子供を作るならアンリエッタとの子供がいいのっ……!!」

「私……!?」

「そうよ!! アンリエッタは私の運命の人なの!!」

「運命!?」


 そこまでなのか。


「あの日アンリエッタに会ってから私の人生は変わったの。私、アンリエッタのデザインする服に心底惚れているんだ。……それ以上にアンリエッタ自身にもね」


 ぎゅっと手を握られた。その手は少し汗ばんでいて、緊張しているのが伝わってくる。


「でもアンリエッタにも事情があるだろうし、ましてや貴族でしょ? 奥さんにしてなんて図々しいこと言わない。彼女にして欲しいとも言わない。ただ、私にあなたとの子供を産ませて欲しいの」

「モニカ……」

「私が責任もって育てるから……お願いっ……」


 じっと見つめられた。その目は恐ろしいほど真剣だ。


「えっと……つまりモニカ、私の事好き、なの?」

「好きよ」


 確認したら即答された。


「こんな気持ち、生まれて初めてなの。後継ぎが必要だってなった時、絶対アンリエッタとじゃないとイヤだって思った。それ以外の相手なんて考えられないわ」


 ぐっと身を寄せてきた。今にも押し倒されそうな体勢だ。


「だ、だから……私と……ゆ、百合子作りしてほしいの……っ」


 モニカの顔が近づいてくる。その唇が私の唇に重なりそうになって――


「ちょっ!! ちょい待ったっ!!」


 私はモニカの両肩を掴んで押しとどめた。


「あっ……そ、そうだよね……私みたいな可愛くない女と子供作るなんてイヤ……だよね……」

「えっ」

「ご、ごめんねっ……ごめんっ……」


 顔をくしゃりと歪めると、悲しそうにうなだれてしまった。


「そんなことないよ!? モニカ可愛いから!!」

「同情でも、うん。嬉しいよっ」


 泣きそうな顔をしながら、無理に笑ったのがわかった。

 同情じゃないって!! モニカって自分の女の子としての評価低すぎ!!


「だからっ、違うんだって!! ……私、初カノができたばかりで、今そういうことできないの!!」


 浮気、と言うわけじゃないけど、クラリッサからも「いいですこと? この3ヶ月はエメリアのために使ってあげるんですのよ? 他の女の子に手を出しちゃいけませんからね?」ってきつく言われたし。

 それくらい初カノの権利は大きいらしい。


「初カノ……じゃあ仕方ないね……」


 うなだれたままのモニカだったけど、その頬に両手を当てて私の方を向かせる。


「アンリエッタ……?」

「モニカ……私、将来的に何人も奥さんを持つ予定なの」

「それは、アンリエッタは貴族だし、その魔力量なら当然だよね」


 学園の外の人にもわかるくらいなのね、私の魔力量って。


「それでね、その……私との子供が欲しいのよね?」

「うん……欲しい」

「じゃあ、どうせなら結婚を前提に私と付き合わない?」

「えっ……!?」


 モニカが目を丸くする。どうやらその返答は考えていなかったようだ。


「あ、もちろん今は付き合えないわよ? でもしばらくしたら私の彼女になって、それで結婚したら、その……ゆ、百合子作りも当然することになるわよね」


 相変わらず百合子作りというワードに慣れない。直球すぎる。


「い、いいの……私なんかが奥さんになっても……」

「私なんかってことはないでしょ? モニカは私の大事な友達で、メイド王国を作る野望を共有する同士じゃない!」

「アンリエッタっ……!!」

「あ、でもモニカこそいいのかな……私、百合ハーレムを作ろうって思っていて、そこに入ってもらうことになりそうなんだけど」


 確定で嫁にするのはエメリアとルカだ。この2人とは確実に結婚するだろう。

 超高確率で嫁にするのはクラリッサとシンシアの2人。他にも教師で何人か気になる女性もいる。


「全然構わないよ!! それどころかハーレムを作れるほどの女の子の嫁になれるなんて、むしろ誇らしいことでしょ?」


 あ、そうなんだ。いまだにこの世界の考え方がよくわかってないのよね。


「えっと、じゃあ、将来的に私もハーレムに入れてくれるってことでいいのかな……?」

「モニカがいいのなら、私はオッケーよ」

「嬉しいっ……!!」


 ぎゅっと抱きつかれた。ま、まだ彼女にしたわけじゃないし、これくらいならセーフよね? ね?


「私、元気な赤ちゃんを産むから、その子と一緒にメイド王国を広めていこうねっ!!」


 親子でのメイド王国造り、それはとても心躍る提案だった――


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