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第40話 幸せにしようと心に誓った

 食事を終えた私達は2人で庭へ散歩に来ていた。


「いやぁ……何といいますか……」

「言わなくていいから……」


 親子2代でメイドさん相手に主従逆転メイドプレイをしていたなんて……

 もう恥ずかしくて顔から火が出そうだ。


「あ、ほ、ほらここ、ここで私達よくかくれんぼして遊んだんですよ」

「へ、へぇ~そうなんだ~」


 気を遣ってか、話を逸らしてくれたのがありがたい。

 そういえば気が付けばエメリアの口調が元に戻っている。やっぱり話しにくかったんだろうか。とりあえずこちらも合わせておこう。


「覚えてないんですよね?」

「うん……全然」


 その場所に来てみてもやっぱり何も思い出せない。でもそんなしゅんとした私のことをエメリアは優しく励ましてくれた。


「大丈夫ですよ。さっきも言いましたけど、私とアンリエッタはず~っと一緒だったんですから。私が全部教えてあげますよ」

「エメリア……」

「とりあえずお散歩しましょっか。ふとしたことで思い出すかもしれませんし」

「そうね、こんないい天気なんだし」


 私はそっと彼女に手を差し出す。何せ今の私はメイドなのだ。


「あっ……」

「お手をどうぞ、お嬢様っ」

「は、はいっ……」


 おずおずと絡めてきた指をきゅっと握り、庭を歩きだす。記憶にはないけど、思い出の庭を。

 歩いて何かを見つけるたびにエメリアは懐かしそうに話してくれた。どれもこれも私との大切な思い出らしい。


「この花、アンリエッタが好きだったんですよ? いつ咲くかな、いつ咲くかなって2人で毎日見に来てて……」

「あ、あの池、2人で遊んでて落っこちて2人とも水浸しになって叱られたんですよ」


 そしてしばらく歩いて行くと、ちょっとした丘になっているところに一本木が生えていた。足元には芝生が生い茂っている。


「懐かしいですね……この木の下で、いつも私アンリエッタに膝枕をして差し上げたんです。2人で暇さえあればここにきてのんびりしてました……」

「そっか……」


 ここが2人の大事な思い出の場所なのね。


「じゃあ……ほら、どうぞ?」


 私は木の下に腰を下ろすと、膝をポンポンと叩いた。私は覚えていないけど、また思い出を作ることは出来る。膝枕の思い出だ。


「いいんですかっ?」


 エメリアが顔をほころばせる。


「いいに決まってるでしょ? だって私はエメリアお嬢様のメイドなんだから。ほら、おいで?」


 再度膝を叩いて招き寄せる。それにつられてエメリアがトテトテとやってきて、ぽすんと頭を乗せてきた。


「えへへ……アンリエッタのお膝……私、膝枕してもらうの初めてです」


 私の膝に頭を乗せたエメリアは、それはもう嬉しそうだ。


「そんなに嬉しいなら、これから何回でもしてあげるわよ」

「ほ、ホントですか……!? あ、でも……」

「何?」

「私が膝枕されている間、私はアンリエッタに膝枕できませんよね?」


 それはそうだ。同時に膝枕なんてデュラハンでもないと不可能だ。


「う~ん……やっぱり私、アンリエッタにご奉仕してる時が一番幸せなので……これからも私に膝枕させて欲しいです。なので、アンリエッタからはたまにでお願いします」

「そ、そう。わかったわ。そんなに膝枕好き?」

「好きです。なんかもう、メイドの幸せって膝枕にあると思うんですよ」

「そこまで!?」


 メイドの幸せとか、そこまで好きなのか。


「えっと、アンリエッタを膝に乗せてるときって『私が独占してるんだ~』って気持ちになると言いますか……とにかくもうメイドとして最高に幸せなんです」


 まぁそれは確かに分かる気がする。こうしてると確かに独り占めしてる感じがして、なんか胸があったかくなる。


「じゃあ今は、エメリアお嬢様は私のものと言うわけね?」

「あ、そ、そうですねっ……えへへ……」


 膝に頬を擦り付けてきた。可愛い。


「あ、ところで聞きたいことがあったんだけど」

「何ですか?」


 頭を膝に乗せたままエメリアが答える。


「あのお母さんメイドって、結婚しててもメイドさんなの?」

「いえ、正確にはメイドじゃありませんよ」

「そうなんだ」

「ご結婚して奥様のお嫁さんになられたのでメイドはお辞めになったんです。それでもあの恰好をして、あの口調なのはご本人の趣味だとか」


 趣味だったのか。


「でもそっか、結婚したらメイドじゃなくなるのね」

「基本的にはそうですね。……でも、私は結婚してもメイドでいたいですけど……だって一番近くにいられますし……」


 そう言うとニッコリ笑って私を見上げてくる。

 可愛すぎて死んだ。これが私の彼女だという。私幸せ者過ぎない?


「え、えっと……この後どうしよっか。今日1日は何でも言う事を聞いてあげるわよ」


 照れて真っ赤になった顔をごまかすように、ぷいと顔を背けて尋ねる。


「何でも……!? そ、そうですね……とりあえずお昼まではこのままゴロゴロしましょうか……」

「そうね、風も気持ちいいし」


 さわやかな風が私達を包むように通り過ぎていく。このまま恋人とのんびり過ごすと言うのも贅沢なことだ。


「お昼はどうする? また『あーん』で食べさせてほしい?」

「はいっ! 食べさせてくださいっ」

「もうっ、甘えんぼさんねぇ」


 ぷにぷにとほっぺたをつついてあげる。なんて柔らかいんだろう。食べてしまいたくなる。


「ちっ、違いますっ! 『あーん』してもらうのはお嬢様の正当な権利なんですっ」


 権利なのか。ならば存分に「あーん」してあげよう。


「3時になったらお茶をいれてあげるね?」

「アンリエッタがお茶をいれてくれるなんて……最高ですっ」

「晩御飯も当然?」

「『あーん』」


 んあ~っと可愛く口を開いて答えてきた。


「だよね」


 2人でクスクスと笑いあう。


「……で、その、お風呂はどうする……? 一緒に入る……?」


 一応聞くだけは聞いてみる。


「ふえっ!? あ、あの、そ、それはまだ、そのっ……」


 そうね。私もエメリアと一緒にお風呂になんか入ったら、自分を抑える自信がないし。


「で、でも代わりにして欲しいことがあるんですっ……」

「何?」

「えっとですね――」



 ――そして夜。私達はパジャマで同じ部屋にいた。


「じゃ、じゃあ……おやすみのちゅーをお願いしますっ」


 エメリアからのお願いは、添い寝だった。昔みたいに同じベッドで一緒に寝て欲しいとおねだりされたので、いまこうしてベッドの上にいるというわけである。


「おやすみのちゅー……おでこでいいですか? お嬢様っ」

「も、もうっ……私のメイドさん、意地悪ですっ……」


 からかってあげると、む~っと可愛くむくれた。


「ふふっ、冗談よ、お嬢様」


 頬に手を当ててちゅっちゅっとキスをしてあげる。イタズラでちょっと舌を入れてあげたら飛び上がるほど驚いていたのが可愛かった。


「はふぅ……そ、それじゃあ寝ましょうか……」

「そうしましょうか」

「あ、あのっ……」

「何?」


 体を腕で抱いて、もじもじしている。


「お、襲っちゃダメですよ……? エッチなのはまだ禁止ですっ……」

「それは襲って欲しいってことね?」

「違います!! フリじゃありませんから!!」

「ちえ~」


 そうして私達は同じベッドに入ると、エメリアはスルスルと私の方に寄ってきて、腕の中にすっぽり収まった。


「懐かしいですっ……小さい頃はこうしていつも一緒に寝てたんですよ?」

「そう……でも、小さいころとは色々とサイズが違うよね」


 ぎゅうっと抱きしめると、むにゅりと当たってきた。


「あっ……え、えっちっ……」

「これくらいはいいでしょ?」

「も、もうっ……」


 そのまま布団の中で優しく抱き合っていると、やがてエメリアはすぅすぅと寝息を立て始めた。


「こんな無防備でまぁ……やっぱり襲って欲しいんじゃ……」


 そんな私の独り言が聞こえたのか聞こえていないのか、エメリアはむにゃむにゃと寝言を呟いている。何を言っているのか口元に耳を近づけてみると――


「アンリエッタ……すきぃ……だいすきぃ……」


「……私もよ」


 私は、この腕の中で眠る少女を幸せにしようと心に誓ったのだった――



お読みいただき、ありがとうございますっ!!

これにて第3章――1年夏休み、完結になります!

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なんか、思わず穏やかな声と表情で、私も「おやすみ、エメリア、アンリエッタ」って言いたくなったよね
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