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第37話 知らないところで埋めた不発弾が爆発してる

「はふぅ……」


 何度も何度もキスをねだられ、ようやっと落ち着いたエメリアから熱い吐息が漏れる。

 いや、その、まだそういうことをする気はないんだけど、2人きりでベッドにいるときにそういうリアクションされるとドキドキしてしまう。

 とりあえず場の雰囲気を変えるため何か話を振ってみる。


「そういえばさ、昔の私ってどんな感じだったの?」

「どんなと言われましても……そうですね、今と同じでとても愛くるしい方でしたよ?」

「そ、そうなんだ……」


 愛くるしいとか言われると、照れる。でもエメリアはそこで複雑な顔をした。


「ただ……いわゆる思春期に入ってから、こう、少し変わったと言いますか……」


 言葉を選んでいる感が伝わってくる。なんか嫌な予感が。


「それまでは私に好き好きって自然に言ってくれてたんですけど……。ある時から恋愛に興味ない振りをするようになってしまって……」

「興味ない、振り……」

「はい。『私恋愛とかよくわかんないから~』とか言うようになりまして。その、まぁそういうお年頃といいますか……」


 生暖かい目線を送られた。

 厨二か!! 自分の知らないところで埋めた不発弾が爆発してるんですけど!!


「でもコソコソと町に行っては、ああいう本とか買ってきているの知っていたんですけどね……えっち」

「えっちじゃないもん!! こんなの普通だもん!!」


「ほら!!」とさっきの本を開いて突き付ける。


「は、はしたないですっ!! じゅうっぶん、はしたないですっ!!」

「ええ~?」


 そのページには女の子同士がパジャマでベッドの上で抱き合い、キスをしている挿絵が描かれていた。これでもはしたないのかぁ。


「でもそのはしたないことを、さっきまでしていたわけで……」

「うっ……」


 ついさっきまで同じようにベッドでキスをしていたことを思い出して、エメリアが顔を赤くする。


「だ、だって……」

「それに、よく考えたらエメリアだって結構はしたないことしてるでしょ? 膝枕とか~」


 そう言ったら、なんかポカーンって顔をされた。


「え? メイドとしてお嬢様に膝枕をして差し上げるのは当たり前のことじゃないですか……? あ、それも記憶が無いから……?」


 え? そうなの? それって当たり前だったんだ。


「う、うん。まぁそうなんだけど」

「メイドがお嬢様にご奉仕するのは当然です。『あ~ん』とか、お着替とか、膝枕とかをして差し上げるのは、ごくごく普通のご奉仕ですよ?」

「そうなんだ」

「まぁ中にはお風呂で体を洗って差し上げたり、一緒に添い寝をしたりするメイドもいるそうですけど……」


 あ、やっぱりシンシアとかがやってるのは一般的ではないのね。まぁクラリッサはそれが普通のメイドの務めだと思わされているんだけど。


 でも前世で私が知ってるメイドの『普通』とずいぶん違うけど、これがこの世界のメイドとしての『普通』というわけなのね。メイドとお嬢様の距離が物凄く近いというか。


「あ、で、でも、ちょっと恥ずかしいですけど、アンリエッタがお望みならお風呂でも添い寝でも私っ……」

「い、いや、大丈夫よ!! うん」

「そうですか……」


 しょんぼりされた。でも仕方ないのだ。

 お互い裸になってお風呂で体なんか洗われたら、それこそ自制が利かなくなってしまう。添い寝なんてもってのほかだ。寝れないでしょ私。

 今回は慎重にいくと決めているから、まだそういうのは早いと思うのである。うむ。


 でもそうなると1つ気にかかる点があるんだけど。


「でも……じゃあアレなの? 膝枕とかはその、メイドとしての務めだからやってくれたの……?」

「それは私達メイドが、お嬢様からよく聞かれるという質問の一つですね」


 クスクスと笑いながらエメリアが答える。


「そうなの?」

「らしいです。そして、その答えは『いいえ』です」


 きっぱりと答えた。務めではないと。


「もちろん最初は務めなんですけど、メイドの初恋の相手は大抵お嬢様ですから」

「あっ」

「愛しい相手のためにご奉仕をして差し上げたいと思うのは、務めだからとかそういうことを超えていますね」

「エメリアも……?」


 聞かれたエメリアが頬を染める。


「はいっ……愛しいアンリエッタの喜ぶことでしたら、なんでもして差し上げたいと心から思っています。それは私がメイドであっても無くても、ですね」


 普段遠回しなエメリアの、珍しい直球な愛の言葉にドキッとする。この不意打ちは卑怯だと思う。

 でもエメリアはそんな私の内心の動揺に気付いているのかいないのか、何か思いついたような顔をした。


「あっ、もしかしたら……記憶を亡くしたなら、魔法薬学で使ったあの薬を使えばいいんじゃないですか?」

「あの薬って、若返り薬のこと?」


 私もあの薬で記憶を戻す予定だったけど。エメリアもすぐそれに気付くとは。


「はい、あれって若返った年齢辺りの記憶を呼び戻す効果もあるって先生言ってましたよね。だからあれを使って……ん? もしかして、それでそのことを先生に聞いたんですか?」


 この子本当に賢くて鋭い子なのね。薬の使い方と、私がそれに気付いたことまで一瞬で導き出している。


「ん、まぁね……あの薬なら記憶を戻せるかなって。実際あの薬で戻った年齢辺りの記憶は思い出せたし」

「じゃあ記憶の問題は解決の糸口が見えましたね。……でも、今まで凄く不便だったんじゃないですか? 早く言ってくださればよかったのに」


 心配半分残念半分といった感じで見つめてくる。確かにもっと早く相談するべきだったんだろうと思う。

 でもエメリアとの学園生活が楽しくて、それで余計に言いにくくなってたところもあるんだけど。


「そうね。結構不便だったわね。なにせ記憶が全くないんだから。勉強したこととか知識的なことは覚えているんだけど、思い出的なことがさっぱりで」


 おかげで授業についていくのが大丈夫だったのは幸いだった。本当に何も覚えていなかったらそれこそ一大事だ。


「これからは私がサポートしますから大丈夫ですよ。任せてください。なにせ私はアンリエッタとず~~っと一緒でしたし、思い出もほとんど共有してますから」


 ぐっと力こぶを作って胸を張った。私の目の前でゆさっと揺れたそれに目が釘付けになる。


「でも昔の記憶ですか~そういえばお嬢様って、昔から私の膝枕が大好きで……」


 エメリアはそんな私の視線に気付かず、頬に手を当てて何やら昔を懐かしむように目を細めた。


「あ、やっぱり昔から好きだったんだ」

「それも覚えていないのですか?」


 しゅんとされた。その姿に胸がチクリとする。


「う、うん……申し訳ない」


 本当に申し訳ない。私は早いところ若返り薬で何とかしようと心に誓ったのだった――


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