第35話 ベッドの下のコレクション
「うわぁ……これは……」
私は部屋に戻って、ベッドの下から『私』のコレクションを引っ張り出していた。
そこに収められていたのは、それはもう百合百合な品々で誰が見ても女の子が大好きってわかるラインナップだった。
「『百合とお嬢様と私』、『メイドとの昼下がり~幼馴染のあの子~』、『私のメイドがぐいぐい来る』etc、 etc…………メイドとの百合小説ばっかりじゃない!!」
中身はまぁちょっぴりえっちな内容ってだけで、別に前世での少女漫画ほど過激ではなかった。アレかなり進んでるものね。
「あ、『私のお嬢様が俺様です』、これシンシアが言ってたやつだ。あとで読もう」
気になる本をえり分けていく。やっぱりこっちの世界の本も気になるからね。
「で、これが姿絵……あ、良かった。こっちもそこまでえっちじゃないわ」
奥の方から紙袋に入った紙が出てきて、それにはちょっぴり服を着崩した女の子のイラストが描かれていた。
「でもこっちもメイド系が多いのね……確かに黒髪で胸の大きな子が大半……たまに金髪ストレートぺたんこお嬢様系か、趣味がはっきりしてるなぁ」
そこまでアレなコレクションでなかったことにほっと胸をなでおろす。
「とは言っても……これをエメリアに見られていたのか……うわぁ、知らないふりをしててくれていたのが、もう恥ずかしすぎる……」
ベッドに突っ伏してグネグネともだえる。昔の私、女の子大好きじゃないかぁ!
このぶんじゃあクラリッサを振ったってのも、何か別の理由じゃない? というか金髪ストレートぺたんこお嬢様系ってまんまクラリッサのような……
「あの~お嬢様……?」
こんこんと扉をノックする音がする。いったんエメリアには部屋の外にいてもらっていたのだ。だって見られながらこれを確認するとか、どんな羞恥プレイだって話だし。
私はとりあえず興味がある本をカバンに押し込んで、残りをしまった後でエメリアを呼んだ。
「ごめんね、待たせたわね」
「いえ、とんでもない……それで、あの、アンリエッタ…………ごめんなさいっ!!」
入ってくるなり、エメリアが深々と頭を下げた。
「え!? え!? いきなりどうしたの!?」
「いえ、その……べ、ベッドの下の、その……」
うわぁ。いきなり突っ込まれたぁ。
「い、いえ、いいのよ、だってほら、掃除もエメリアのお仕事なんだし……」
「それでも、その、つい、えっと……み、見ちゃいまして……それは、えっと……」
それは自分の好きな人の隠していたのものだし、見たくもなるよね。それがその人の好みの傾向に繋がるならなおさらだ。
――しかしこれはむしろチャンスかもしれない。
「確かにね~。あ~あ~ショックだわ~。せっかく隠していたのにな~」
「すっ、すみませんっ……!! 私っ、気になってしまってっ……そのっ」
「つまりエメリアはずっと知ってたってことよね? 私が黒髪で胸の大きなメイドさんが好きだってこと」
「そ、それは……」
顔を真っ赤にしてうつむいてしまったエメリアに近づくと、彼女の結い上げた黒髪を撫でる。
「そういえば、エメリアも黒髪で胸が大きくて、メイドさんよね? ねぇ、どう思う?」
「あっ……ああっ……」
あまりの恥ずかしさからかほとんど言葉も出せないで、じりじり後ずさるエメリアを壁際まで追いつめた。
そしてついに背中が壁に付いたエメリアに、いわゆる壁ドンをする。
「あっ……」
「さぁ、もう逃げ場はないわよ? 答えて? 私がエメリアに似た感じの子の姿絵とか集めてるのを見てどう思った?」
「……っ」
うつむいて目を逸らそうとするエメリアのあごを掴んでこっちを向かせる。
「答えて?」
「う……」
「う?」
「う、嬉しかった……ですっ……」
エメリアはぽぉっとした熱っぽい視線を向けてくる。私はその答えに満足してエメリアを開放した。でもまだ追撃の手は緩めない。
「私の隠したものを見たこと、許してほしい?」
「許してほしいですっ!!」
「じゃあ……とりあえずこれに着替えて?」
私は学園から持ち帰った荷物から、あるものを取り出してエメリアに渡す。
「これっ……持ってきてたんですかっ!?」
「ええもちろん。こっちでもエメリアに着てもらおうと思って」
あと私の家の領地でも流行らせようと思ってたし……この、ミニスカメイド服を。
「わ、わかりました……着ますっ」
そう言うと、エメリアは恥ずかしがりながらもミニスカメイドに着替えてくれた。もう何度も着ているのにいまだに恥ずかしがるのが堪らない。
「相変わらず可愛いわね~」
「そ、そんなっ……もうっ……可愛いなんてっ……」
「じゃあほら、こっちに来て」
「あっ……」
照れるエメリアの手を引いてベッドに引っ張っていき、そのままベッドに寝転ばせる。
「あ、アンリエッタ……」
「どうしたの? 許して欲しいんでしょ?」
私は首元のブローチを外して襟を緩める。
ベッドに倒れたまま私に熱っぽい視線を向けていたエメリアは、ついに覚悟を決めたかのように頭をベッドに預けた。
「ど、どうぞ……何でもお命じになってください……」
「そう? じゃあ……」
エメリアがゴクリと息をのんだのが分かった。
私はそんなエメリアにゆっくりと近づいて彼女に覆いかぶさる。ベッドがギシリと音を立てた。
そしてその耳元に口を寄せて――
「――膝枕して」
「え?」
許す条件をささやいた。
それを聞かされてポカンとしているエメリアからヒョイと離れた私は、にっこりと笑みを彼女に向ける。
「だから、膝枕してって言ったの、それで許してあげるわ」
「え……ひざ、まくら……ですか……?」
「そうよ、膝枕よ? あれ~? もしかして……」
「っ……!?」
エメリアがガバッと起き上がり、やられたという顔をする。
「まさか隠したものを見られたくらいで、えっちなことを要求されると思ったの?」
プププと口に手を当ててからかうと、「ぐっぎぎぎ……」と悔しそうな顔をする。
「前から思ってたけど、エメリアって結構脳みそピンク色よね」
「それを言うならアンリエッタだって……!! あ、あんなえっちな本読んでたじゃないですかっ!!」
いや、そこまでえっちではないと思うんだけど。少々刺激的ではあったけど、前世なら普通に本屋さんで一般向けの棚に並んでるレベルだ。
とはいえ、この世界のこの時代では結構過激なのかもしれない。
「ほらほら、はやく膝枕膝枕っ」
「わ、わかりましたっ……もうっ……」
エメリアはむくれながらも、律義にベッドに座りなおして膝枕の体勢になる。ミニスカからはみ出た太ももが目にまぶしい。
「ではでは……」
改めて頭を太ももに置こうすると、「ちょっとだけですからね……」と言ってスカートの裾をつまんでわずかに引き上げてくれた。
もちろん下着とかは見えないんだけど、そのちょっとで更に太ももの領域が広がって寝心地は倍増する。
「うへぇ~極楽極楽~」
「悪いとは思ってますので……これで許していただけますか……?」
「うんうん、許す許す~」
私は太ももに頬をこすりつけてその感触を堪能する。エメリアはそんな私の頭を優しくなでてくれた。
そのまましばらくいつものように彼女に甘えて、このまま寝てしまいたい気持ちになったけど。
――でももう1つ、私はどうしても彼女に言わなければいけないことがあるのだ。
「あのさ……」
「なんですか、アンリエッタ?」
「実はね、私、もう1つエメリアに隠してることがあるんだ……」
そう、私の記憶の事だ。今まで隠してきたけど、昔の私も彼女が好きだったということが分かった以上、これ以上隠すわけにもいかない。
彼女に向き合うためにも、私は私の秘密を打ち明ける覚悟を決めたのだった――




