第34話 裁判長!! これは冤罪です!!
「よく帰ってきましたね、アンリエッタ。学園は楽しかったですか?」
「ただいま、お母さま。とてもいいところでしたよ」
私とエメリアは学園が夏季休暇になったので、自宅であるクロエール家へ里帰りしていた。
そして帰ってきた私達は、お母さまとそのお付きのメイドと4人でお茶をしているというわけである。
「それは良かったですね。行く前は嫌がっていたけど、ユリティウスはいいところでしょう? 卒業生が言うんだから間違いないわ」
コロコロと猫みたいな表情で笑う、この人が私のお母さんなのか……全く記憶が無いんだけど。でも優しそうな人だ。エメリアもリラックスしてるみたいだし。
でもお母さんもユリティウスだったのか。それも初めて聞いた。
「はい。とても自由な校風で、楽しくやれています。基礎ばっかりなのはちょっとアレですけど」
「それは仕方ないわ。私もそうだったもの、精進なさい」
前の時代からそうらしい。まぁ基礎が大事ってのは、他の授業受けてても分かるけど。
「エメリアも、アンリエッタの事任せてすみませんね。感謝していますよ」
「そ、そんな奥様とんでもない! 私が望んでやっていることですから! ユリティウスに通わせて下さってただただ感謝しかございません!」
「あの難関に受かったのですから、堂々と通いなさい。それはあなたの実力で、誇っていいことです」
「奥様っ……!!」
目に涙を浮かべている。我が母ながらいいことを言うものだ。
「ところでアンリエッタ」
「はい、なんでしょう」
なんか真面目な表情してるけど一体何だろう。少し身構えていると。
「――エメリアとはもうヤったんですか?」
ちょうどお茶を飲んでいたエメリアがむせる。
え? は? ヤった? いやいやまさか。多分別の事だろう。とりあえず聞き返すことにする。
「は、えっと……ヤった、とは? 何のことですか?」
「いえですから、エメリアと深い仲になったの? と聞いているんです」
そのヤった、だった。まさか実の母親からそんなことツッコまれるとは思ってなかったんだけど。
「えええっ!? い、いえ、そんな、してませんよ!?」
「え? まだなのですか? こんな可愛いエメリアと四六時中一緒にいるのに? あなた本当に奥手なのねぇ……」
「お、お、奥様……!! そ、それはっ、あのっ!!」
エメリアがあたふたしながら立ち上がる。顔はもうこれ以上ないくらい赤くなっている。
「エメリア? 旅立ち前、あなたから相談されたときに言いましたよね? 好きだったらガンガン攻めなさいと、何なら押し倒してでも自分のものにしろと」
そんなこと言われてたんかい。初めて知ったぞ。
「い、いざとなると勇気が出なくて……それに私押し倒されたい方でして……」
「はぁ……いいですか? この子は絶対彼女を何人も……下手したら10人以上作るでしょうけど、最初の彼女は1人だけなんですよ? 他の子に先を越されてもいいんですか?」
「よ、よくないですっ!! それはいやですっ……!!」
私って実の母からそう思われてたのか。あれ?でも私が生まれ変わる前の私って女の子好きじゃなかったんじゃ……
「アンリエッタも「私女の子好きじゃないから」みたいな顔してますけど、それ、ただ隠してるだけですから。エメリアも気づいてるんでしょ?」
「え、あ、それは……」
「えっ」っとエメリアの方を向いたら、視線を逸らされた。
母の方を見ると、ニヤニヤと猫が獲物をいたぶるようないたずらっぽい目をして――爆弾を投下してきた。
「ふふふ……アンリエッタ、私は知っているんですよ? ベッドの下にちょっとエッチなメイドものの百合小説や、女の子のあられもない姿絵を隠しているのをね」
「奥様!? 知ってたんですか!?」
ぎゃああああああああ!!?? 何それ!? 私知らない!? それ私じゃない!! 私だけど私じゃないの!!
裁判長!! これは冤罪です!! 私は無実なんです!!
ということは何? エメリア知らないふりをしてくれていたってこと!? それはそれでキツいんですけどぉぉぉ!!
「ち、違うんです!! そ、そのっ!! お掃除のときにたまたま見つけてしまって!! だ、大丈夫ですよ!! 見てませんから!! 黒髪の子が趣味だとか、お胸が大きい子が好きなんだとか、そういうの全然見てませんから!!」
見てるじゃないかぁぁぁ!! がっつり見てるじゃないかぁぁぁ!! もういやぁぁぁ!! 私じゃないのに恥ずかしすぎる!!
しかも黒髪でお胸が大きくてメイドとか、まんまエメリアじゃん!! 昔の私エメリア好きだったんでしょ! このムッツリ!
「私は前から気付いてたけどね。娘のことだし」
殺してぇぇぇ!! いっそ殺してぇ!! 実の母と幼馴染からの羞恥攻めとかなんなのぉ!? しかも身に覚えないし!!
「まぁでも、百合子作りの術式を行うのは卒業間際にしておきなさいね? お腹大きいと授業とか大変ですよ?」
「でも1年目からお腹おっきい子とかいましたよね。親元離れてつい開放的になっちゃうんでしょうか」
「あ~あったわねぇ。同じクラスの、なんて子だっけ? 彼女のメイドと……」
やめてぇぇ!! そういう生々しい話やめてぇ!! お母さんのメイドさんもノってこないで!
「あ、あの、お母さま、そういう話はちょっと……」
「あら? でも私があなたをお腹に宿したのも、学園で3年後期の時だったんですよ。ねぇ」
「そうですね。奥様っ」
母は隣にいたメイドさんの腰に手を回して引き寄せると――そのままキスをした。
「えっ」
――――このメイドさん、もう一人の私の母親だったの!? 衝撃的すぎる!!
私も女の子同士から生まれていたのね!?
「楽しかったわよね~学園での恋人生活。部屋も一緒だったから毎日寝不足だったけど」
「それは奥様が可愛すぎるのがいけないんですよ。私のせいじゃありませんっ」
またキスしてるし。てか母親って実感もないけど、身内のそういう話を直にされるのキツいんですけど!!
「はわぁ~いい話ですねぇ。憧れます」
エメリアにはそうかもだけど、身内としてはキツいんだって。
「そういうわけでエメリア、頑張りなさい。ユリティウスを卒業したなら第1婦人でも全然おかしくありませんからね」
「は、はいっ! 奥様! 頑張りますっ!!」
「私は従者枠だったので、第4婦人でしたからねぇ」
メイドさん、初カノだけど第4婦人だったのか。少なくともお母さんには4人の奥さんがいるのね。
でもそろそろ退散したほうがよさそうだ。そうしないと次にどんな爆弾が飛び出すかわからない。
「へ、部屋いこっか、エメリアっ」
「そ、そうですね、お嬢様」
昔を思い出したせいか、イチャイチャしてるお母さんたちの邪魔をしても悪いし。
「ごゆっくりなさってくださいね~」
「ごゆっくり~。しばらく邪魔はしないから」
ひらひらと手を振って、私達を送り出すお母さんとお母さん。何がごゆっくりだと言うのだ。
まったくもう。でも、そんなことを言われると、どうしても意識してしまう。
「そ、そういえばさ~」なんて言いながら、振り返って見たエメリアの顔は。
「あぅっ……」
私と同じく、意識しているとはっきりわかる顔だった。どうしよう……?




