第33話 イタズラしたくなるじゃないか
「かんぱ~~い!! いやぁ~試験大変だったね~~」
私達は試験の結果発表を受けて、私の部屋でお疲れ様会をしていた。
乾杯で景気よくグラスを合わせたルカは特に大はしゃぎしている。それというのも。
「むっふっふ~これを見よ!!」
自信満々に見せつけたそれは、試験の個人結果をまとめた用紙だった。
「わたくしが自分の勉強の合間に、頑張って教えたからでしょう!?」
「それは感謝してる。マジで」
「でも自信満々の割にはその……」
「いやいや、元がアレですからね~これは立派かと~」
そこには見事に赤点を回避した結果が乗っていた。まさかゼロとは。やりおる。
元を考えるとクラリッサの頑張りがうかがえる結果だったけど。自分の勉強も大変だっただろうに。
「これでご褒美は私のものだね!」
「私だって! 全教科平均点超えたんですから、ご褒美を受け取る権利はありますよ!」
「私もですね~」
エメリアもシンシアもそれぞれ見事に条件をクリアしていた。かなり難しい条件だったけど、よくやったものだ。
「いや……しかしあれだね、ほんとに凄いのはクラリッサだよね……」
「大したものよね」
「ええ……ちょっと脱帽です」
「私のお嬢様ですからねっ」
シンシアが胸を張ると、私の膝で寝ているクラリッサがわずかに身じろぎした。
「まさかほんとに1位を取るとはね……魔力量が決め手の科目では勝ったけど、他の知識系では全部わずかに負けたし」
どれだけ頑張ったんだ。このお嬢様は。頭を撫でてやろう。
「そういうお嬢様も2位じゃないですか! おめでとうございますっ!」
「ありがとね」
そのクラリッサだけど、1位の用紙を見た途端あまりの嬉しさからか教室で気絶してしまったのだ。疲労も溜まっていたんだろうけど。
それでここまで気絶したままおぶって来て、私の膝で寝かせている、というわけである。
「クラリッサ~そろそろ起きろ~ご褒美……クラリッサはお祝いだけど、その授与式始めるぞ~」
ルカが優しく揺さぶってクラリッサを起こす。
「……ぅぇ……? ぁ……?」
「寝ぼけてるなぁ。おきろー。じゃないとクラリッサの分も私が貰っちゃうぞ~」
それに反応してクラリッサがびくりと反応する。
「あああっ……!? え、あれ!? ここは……!? わ、わたくしの1位は!? え、もしかして夢だったんですの!?」
まだ混乱してるようだ。無理もないけど。相当無茶して勉強してたみたいだし。
「夢じゃないよ。クラリッサの勝ちだよ」
「そ、そう……よかった……」
ほっと胸をなでおろしていたけど、私の膝に寝かされているとわかると跳ねるように壁まですっとんで行った。
「さてそれではご褒美タイムだね! では一番ハードルが低かった私から!」
「自分で言いますのね、それ」
「じゃあおっ先~」と言いながら、ルカはトタタと私の前に小走りで来ると――腕を後ろで組んで目を閉じた。
「んっ……」
普段の活発さからは考えられないほど、その女の子っぽいキスをおねだりするポーズにドキリとする。
ルカのこのギャップはほんと反則だと思う。
みんなが見てる前でのキスだったけど、我慢できないくらい可愛かったので頬に手を当てて躊躇なくキスをする。
ちゅっ。
「えへへ~」
キスをされたルカが顔をほころばせて抱き着いてくる。だからそのギャップは反則だと言うのに。
「もうアンリと2回もキスしちゃった~。これはもう恋人ってことでいいんじゃないかなっ」
抱きついたまま振り返って、後ろで凝視していた3人にふふんと笑みを向ける。
「な、何言ってるんですかっ!! 貴族令嬢の初カノはお付きのメイドって相場が決まってるんですよ!!」
「そうだそうだ~!」
「しかも1回目は不意打ちなのでノーカンですわ!」
それに3人から抗議が出て、「ちぇ~」って顔をしてルカが私から離れる。他の子のご褒美もあるからね。
「それじゃあ次は私がご褒美をいただきますね~」
シンシアが前に出てきて、襟のボタンをはずして首元をあらわにする。ぞっとするくらいなまめかしい首筋で、思わず生唾を飲み込んでしまう。
「じゃあ、あとが残るくらい噛んでくださいね~」
「ううっ……ハレンチですわっ……どこでそんなこと覚えましたのっ……」
「最近流行ってる本で読みました。俺様系お嬢様とメイドの恋物語でして」
どんなお嬢様だそれ。
「『この噛みあとが残っている間は、お前は私のモノよ』ってセリフがいいんですよね~」
なんか目をキラキラさせている。よっぽど好きみたいだ。流行ってるらしいし、あとで読んでみようかな。
「よくわかりませんわ……」
「大丈夫よ。私もよくわからないから」
まぁあまり強くしてもアレだし、とりあえず甘噛みすることにしよう。
生娘の首筋にかみつくなんてむしろ吸血鬼の気分ではあるけど。それにしても美味しそうだ。
「では……」
がぶり。
「あっ……お嬢様っ……いけませんっ……そんなっ……ああっ……」
ガジガジと噛んであげると甘い声を出してクネクネしている。
なんか役に入り込んでるし……こういう趣味があったのか、意外な発見である。
そのままがぶがぶとして、多分噛みあとが付いただろうって辺りで離れた。
「ふぅっ……ありがとうございますっ……クラリッサお嬢様だとどうもイメージが違くって」
「わたくしどういうイメージなんですの……?」
まぁクラリッサって高飛車ではあるけど基本優しいしね。俺様系とはかなり遠いかな。
「あ、あと、さっきのセリフお願いします~」
「え、えっと……なんだっけ? 『こ、この噛みあとが残っている間は、お前は私のモノよ』……?」
「きゃーーっ!! ありがとうございますっ!!」
幸せそうな顔をして噛みあとを撫でている。なんかアレだけど、本人が満足してるならまぁいいか……
「じゃあ……次は私ですねお嬢様っ」
エメリアはスススと私の前にやって来ると、いつもの通りにチョコンと膝立ちになった。
「なんかえらいスムーズなんだけど、いつもやってるの?」
「はい、私とお嬢様は毎晩おでこにちゅーしあってる仲なんです」
「えええ~~いいなぁ~~毎晩おでこにとか羨ましすぎるっ」
ルカが地団太をふむ。エメリアはむふ~って顔だ。この2人毎回張り合ってるなぁ。
「私とお嬢様は毎晩お口でちゅーしてますけどね~」
「も、もうっシンシアってばっ」
「やっぱりこれで付き合ってないとかわけわかんないんだけど」
ルカの困惑ももっともだ。私もわからん。
しかし寝る前のおでこちゅーはお互いにやってるけど、おでこを舐めてあげたのは1回だけだ。ちょっと緊張する。周り皆見てるし。
「じゃ、じゃあ……いくよ? エメリア」
「はいっ……どうぞっ」
肩に手を置いて、そっとおでこに顔を寄せる。
んちゅ~~~~~れろっ。
おでこからは甘いエメリアの味がした。頭が蕩けそうなほどに甘い、女の子の味だ。
「ふわぁぁぁぁっ……」
エメリアが恍惚の表情を浮かべてふにゃふにゃと崩れ落ちていく。
おでこ舐めただけでこうなるなら、お口にキスしたらどうなるのこの子。
「ありがとうございますっ……今日の膝枕は張り切っちゃいますねっ」
緩んだ表情のまま、へにゃりと力こぶを作る。膝枕で張り切るってどうやるんだろう。謎である。
その張り切る膝枕について考えていたら、「ほらほら」ってルカに押されながらクラリッサが前に押し出されてきた。
「ちょっ……ルカっ……」
「だって自分から言い出したんでしょ? ならお祝いを貰わないとねぇ」
「そうですよ、クラリッサ様。私のお嬢様に勝ったんですから胸を張ってください」
「お嬢様の頑張りは私が1番見てましたからね~」
逃げられないように3人から肩を掴まれている。みんなも彼女の頑張りを認めているらしい。これも友情か。
「うっ……そ、そうですわねっ……せっかく1位になったんですものっ、お祝いを受け取ってあげますわっ」
そう言うとプルプル震えながら手をゆっくり差し出してくる。顔はもう見たことがないくらい真っ赤っかだ。
私からこの手にキスをしてもらいたい一心で、寝る時間を削って必死になってくれたクラリッサ。そのことを考えると、なんか愛おしさみたいなのが湧いてくる。
クラリッサからすれば、この賭けに精一杯の勇気を振り絞ったのだろう。なら私もそれに応えないとね。
「お嬢様っ!?」
「あ、アンリちゃ――」
私はプロポーズをする時のように、もしくは騎士が貴婦人にする時のように、片膝をついてそっと手を取る。
「おめでとう、クラちゃんっ――」
ちゅっ。
私はその柔らかい手に優しく口づけをした。
「~~~~~~~~~~~~っ!!」
クラリッサが言葉にならない声を上げる。感極まったのか、目に涙まで浮かべている。
「うううっ……生きててよかったですわっ……」
「…………」
いや、そこまで喜んでくれると、あんまりにも可愛くて、その……イタズラしたくなるじゃないか。
幸いにも手でぐしぐしと涙を拭いていて、こちらのことは無警戒だ。やられっぱなしじゃ悔しいし、ここで一矢報いとかないとね。
「――よく頑張ったね、クラちゃん、だからこれはおまけっ……」
「ふぇ……?」
ほうけているクラリッサの無防備な指に。
ぱくっ。
食いついた。そしてハムハムと甘噛みして、舌で舐めまわす。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!?!?!?」
私の反撃によって、クラリッサの更なる絶叫が部屋に響き渡る。
可愛すぎるクラリッサが悪いんだからね? 私はそのまま容赦なく指をハムハムし続けたのだった――
お読みいただき、ありがとうございますっ!!
これにて第2章――1年前期編、完結になります!
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